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"箱根から世界へ" を観るために

「箱根から世界へ」

毎年、箱根駅伝のTV中継をスタート前から見ている人なら、必ず聞いたことがあるはずの言葉だ。

1月2日の往路、そして1月3日の復路のテレビ中継では、かなり早朝から前番組が始まる。注目選手のストーリーや監督のコメントなどが流れる直前番組の時間は1時間くらいだっただろうか。そこから一転、いよいよ選手が並び始めるという時間になると、画面の向こうの雰囲気がガラリと変わる。そして、号砲を待つ緊張感の中、箱根駅伝中継テーマソング(久石譲さんのRunner of the Spirit)のイントロに乗せてアナウンサーの静かな語りが始まる。そこで必ず入るのが、「箱根から世界へ」という言葉だ。

これは、「世界に通用するランナーの育成」という箱根駅伝創設の理念に由来する。そして、箱根路を駆け抜けた数えきれない選手の中から、この理念を体現するかのように、世界の舞台へと羽ばたいていった選手もたくさんいる。2011年、大学1年生ながら箱根1区に抜擢されて区間賞を獲得し、鮮烈な箱根デビューを飾った大迫傑選手が、その後、2018年にシカゴマラソンで3位に入り、マラソン日本新記録(2時間5分29秒)を樹立したのは、まさに ”箱根から世界へ”の好例だろう。

ちなみに、その後、2021年のびわ湖毎日マラソンで、鈴木健吾選手(富士通)が出した2時間4分56秒が現在の日本記録。鈴木選手も神奈川大学のエースとして箱根2区を走った名選手だし、大迫選手が塗り替える前の日本記録保持者である設楽悠太選手は、大迫選手と大学同期にあたる東洋大出身の選手で、つい最近まで箱根7区の区間記録保持者だった箱根の名選手であり、リオオリンピック男子10000メートルに出場している(ちなみに、大迫選手も)。

過去をふり返り始めると止まらなくなってしまうので、視線をこれから始まる東京オリンピックの陸上競技に向けよう。

今回ももちろん、箱根から世界へ飛び立とうとしている選手がたくさんいる。箱根駅伝に出場する選手は、基本的に長距離を専門としているので(なかには、中距離である1500mを主戦場とする選手もいるが)、箱根からという視点で注目すべきは、男子長距離(5000m, 10000m, 3000m障害)男子マラソンだ。


その中でも、まずは男子マラソンから。

東京オリンピック出場権を賭けたMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)で1位となり代表内定した中村 匠吾選手(富士通)

駒澤大学として箱根路を走っている中村選手だが、とにかく強く印象に残っているのが、1区区間賞争いで見せた何段階ものスパートだ。一気にスパートをかけたものの後続を引き離せず、そのままズルズルと落ちるかと思わせたところで、再びラストスパートをかける強さ。MGCでは、箱根1区の再現かと思わせるようなラストに泣いた箱根ファンは多いはず(私もその一人)。


 MGCで2位となり、中村選手とともに代表内定した服部 勇馬選手(トヨタ自動車)

"山の神" 柏原竜二選手や設楽兄弟が抜けた後の東洋大を支えた大エース。東洋大学時代から、マラソンでのオリンピック出場を目指し、酒井監督(東洋大)とともに歩んできた先の代表内定。関連番組でも何度も流れていたが、服部選手の最後の箱根(2区)ラストの方で、運営管理者に乗った酒井監督が、「お前が目指しているのは世界だ」と声をかけたシーンが強く印象に残っている。彼が走るたび、思い出す名シーンであり、今の姿に繋がっているんだろうなと思う。


冒頭でも触れた大迫 傑選手(Nike) 。ただ、彼は箱根への思い入れがそんなに強くない印象を受けるので、果たして "箱根から世界へ” という枠で彼を語ってしまって良いのかわからない。学生時代も、どちらかというと駅伝よりトラックで世界を目指すという意志があふれているように思えたし、在学中にあったロンドンオリンピックの代表が決まるレースで、ラストの競り合いに負け、トラックに突っ伏して悔しがる姿の方が、強烈に印象に残っている。

ちなみに、その時、大迫選手に競り勝ってロンドンの切符を手にしたのが、大迫選手の高校(佐久長聖)の先輩でもある佐藤悠基選手(東海大→日清食品→SGホールディングス)だ。さらにちなみに、私の再推し選手でもあるため、このレースの印象が強いというのもある。


大迫選手のように、箱根に重点を置かない道を選び、世界を目指す選手だってもちろんいる。でも、毎年、箱根駅伝観戦を楽しみにしているファンの一人という立場からの勝手な喜びを伝えさせてもらえるならば、箱根路を駆け抜けた選手が世界の舞台に立ち、走る姿をみられるのは純粋に嬉しい。全力で応援したいと思う。





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