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1本のニュースから、技術の進歩と企業のつながりを知る面白さ(前編)

自分がその中にいるときは進歩を感じにくいけど、少し引いて外側から眺めてみると「すごい進歩だ!」と思えることは多々ある。

私にとって「科学 (Science) 」と「技術 (Technology) 」がまさにそう。いち研究者として日々実験室にいたときには、カメのような進捗と、圧倒的に多い失敗に困難を感じることばかりだったけれど、企画スタッフとして研究部門を俯瞰できる立場になると、「研究者たちすごい!」と心から思ったし、自社だけでなく他社のニュースや世界中の企業・アカデミアの特許や論文から、科学の進歩のめざましさを感じられるようになった。

そして今、先端技術リサーチャーとして、研究開発現場からはかなり遠いところから、まさに科学の進歩を調査するような仕事をしていると、そのスピードにただただ驚く。私が思っている以上に世界は進んでいて、そして、その技術を実用化するために、あちこちでパートナーシップが生まれているのだ。


最近、サステナビリティ(持続可能性)というキーワードで、ニュースを眺めるようにしている。以下のnoteに書いているが、その理由は簡単にまとめると2つ。自身の専門分野的に興味がある技術が多いので自己研鑽になりそうということ。そして、消費者の1人として、より良い選択をするための判断基準を増やしたいから。

そうして発見した記事から、技術の進歩や企業連携という広がりが見えてくる例を紹介しよう。きっかけは、サスティナビリティに関するnoteを書いた翌日に見つけた、ユニクロが植物由来原料を使った繊維で衣料を作るというニュース記事だ。

ファーストリテイリング傘下のユニクロは6月、環境に配慮した商品群を世界で発売する。提携する東レの技術を活用し、植物由来の原料を含むポリエステル繊維を初めて使用。

ー 2021年5月23日 の以下URL記事より。有料会員記事だけど、この部分は公開されています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC210W90R20C21A5000000/

この一般公開情報部分だけでも、ユニクロが植物由来の原料で製造した繊維を一部使った商品を発売すること、ただし、植物由来原料からの繊維製造技術は提携企業である東レの技術であることがわかる。

ならば、その東レの技術とは? と詳細が気になるので、Googleで検索してみる(企業名+植物由来+繊維 とかで出てくる)と、これだなという商品が出てくる。

エコディア®PETは、サトウキビ廃糖蜜を粗原料とする植物由来エチレングリコールと石油由来テレフタル酸を重合・溶融紡糸した部分植物由来ポリエステル繊維です。(上記ページより引用)

このサイトから、原料についての詳しい情報が得られたことで、ニュース記事にある  "植物由来の原料を含むポリエステル繊維" の部分が理解できるわけだ。ポリエステル繊維の原料となるPET(ポリエチレンテレフタラート; polyethylene terephthalate)は、テレフタル酸とエチレングリコールという2つの化学物質を重合(ポリマーを作る反応)させることで製造する。その2つのうち、エチレングリコールはサトウキビ廃糖蜜(砂糖を製造するときに出る副生成物)を原料として作っているが、もう一つのテレフタル酸は従来の石油由来原料からの化学合成なので100%植物由来PETではないために、"含む” という表現をしているわけだ。

ちなみに、植物由来かつ、この例にあるサトウキビ廃糖蜜のように、既存の製造プロセスの副生成物として得られる原料を使った "よりサスティナブルな" エチレングリコールの製造技術は、持続可能なPET合成技術のひとつとして、比較的確立された部類に入る。テレフタル酸の方は、エチレングリコールと比べ複雑な構造(ベンゼン環を含む構造)なので、技術開発はこちらのほうが難しい。

じゃあ、この技術も製品も大したこと無いのか、100%植物由来じゃないし…となるかというと、そんなことはない。当然ながら、世界中の企業で、100%植物由来のPET製造に向けて研究開発が進められている。東レもそういった企業のひとつであることは間違いない。東レ、植物由来PETで情報を探していくと、"東レが100%植物由来のポリエステル繊維の試作に成功" というニュースが昨年出ていることに気づくはずだ。

そのニュースから、技術開発と企業連携について、より深堀りしていくお話は後編にて!



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