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【読書日記】 「東京奇譚集」 村上春樹 著

ひと言でいうと「大人のおとぎ話」。

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↑  北海道の風景を織り交ぜて作った動画です。ぜひ、ご覧ください。

短編小説でも感じたロス

「〜ロス」とは上手い表現だと思いますが、長編小説を読了した時に私は「ロス」を感じます。
登場人物たちとは、物語が終わりに近づくにつれ別れがたく感じるし、読書中の数日間は彼らがあたかも私の近くに存在しているような気がするものです。

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小説は、身の回りで起こりそうで、しかし現実的に起こるにはちょっとだけ無理があるような、そういうボーダーラインに読者を連れて行ってくれます。

どの作家もそうなんですが、物語の種類によって読みやすいもの、どうにも内容に入っていけないものがあります。
「東京奇譚集」は短編集で、どの作品も読みやすかったです。

特に引き込まれた2篇

私が特に引き込まれたのが、「ハナレイ・ベイ」と「品川猿」。

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タイトルが「奇譚集」だけあって、始まり方からして読者を現実と、「まったく起こり得ないとは言い切れない」非現実の境界へといざないます。

例えば、がちゃがちゃした居酒屋で第一話の類を聞くと、「ないない、あり得ない」と手をぶんぶん振って否定するけれど、同じ話を夜景が美しいホテルのバーなどで聞くと、「私には起こらないけれど、選ばれし人々は体験するファンタジックな話」なのだと納得してしまう、そんなイントロダクションです。

第二話「ハナレイ・ベイ」は、母が亡くした息子を思って、毎年決まった時期をハワイのビーチサイドで過ごす話。

ピアノバーの経営者でありピアニストでもある母の半生を丁寧に描いているこの作品は、息子を持つ女性には胸を打たれる一編ではないでしょうか。
「私は息子を好きになれなかった」の一文が、後半へのキーワードに感じました。

最終話の「品川猿」は、ストーリーの最後の方で
「え?そういう方向に持って行くの?」と」突然動物を登場させることに驚き、
「コイツに責任を負わせるのか?」と裏切られた気がしたのですが、読後、「これは大人に向けたおとぎ話なのだ」としっかり納得できました。

子供の感性をもう一度

振り返れば、幼い頃に読み聞かせてもらった昔話はほとんど全てが人間と動物の触れ合いで構成されていましたよね。

正直じいさんと犬、男と鶴、男の子と犬とサルとキジ、おじいさんとネズミ、男の子とカメと鯛とヒラメ、おじいさんと地蔵(これはもう動物ですらないですが・・・)。
子供の頃は人間と動物がふつうにおしゃべりする話を受け入れていたのに、大人になると猿が出てきて人間と言葉を交わす物語に違和感を感じるなんて、感性が鈍ってきているに違いない、と反省すらしました。

これらは長編小説ではありませんが、彼らのその後を知りたいな、とロスを感じています。

暑苦しい今、この短編集でひと時、現実と幻想のはざまを漂ってみてはどうでしょう?




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