見出し画像

【読書日記】 AX アックス 伊坂幸太郎 著

殺し屋が主人公の話なのに、笑いと思いやり、優しさが散りばめられていて、しかしながら終わりの方では、人を殺める生業では幸せになれるはずもない、と納得させられ、更には、彼にはぜひ殺し屋稼業から足を洗い、平穏な生活を送ってほしかったな、と思わせる小説でした。

画像1

あらすじ

主人公の「兜」は、依頼を受けて人を殺害する裏の顔を持っている。
昼間は文房具メーカーの社員として働く兜には家族がおり家庭がある。
ある内科クリニックの医師が「仕事」を仲介しており、兜の腕は業界でも優秀だと評されていた。

詳細は書かれていないけれど、兜はまともに学校にも通わず荒んだ家庭で育ち、10代の頃から裏稼業に手を染めていた。

そんな彼が結婚し、息子が生まれたのを機に、この仕事を辞めたいと仲介役の医師に何度か伝えるも、「辞めるとあなたの家庭に危険が及ぶ」と脅され、なかなか辞められないまま息子は高校生になった。

兜は恐妻家で、妻が機嫌を損ねないよう、言動には細心の注意を払って生活していた。
そんな父を息子は時に憐れみ、時に励ます。
また、兜は「フェアであること」を信条にしており、「仕事」をするときも自分と互角に戦う相手を殺めた方が罪悪感が少なくて済む、と思っている。

感想

小説後半では、兜の優しさと、ある同業者の兜への尊敬の情があふれ、感動していると最後の10行ほどで涙がにじむ、そんな結末でした。

最初の20ページぐらいまでは話の内容がつかめず、もう読むのやめようかな、と思ったのですが、兜の思考がコミカルだったので途中からはスイスイ読み進められました。
ハードボイルドと笑いが押しては引いていく波のように現れ、夜のデパートの場面では固唾を飲み、自宅で妻と接する兜の様子に笑いが。

私は途中、もしかして兜の家族が実は「同業者」で、兜はそのことに気づいておらず、後で大ごとになるんじゃないのか?と思ったりもしましたが、その推理は見事に外れていました。

話の中で、小さな伏線がいくつかあり、それらが物語の随所で回収されていくのも上手くできてるなあ、と感心します。
そして、やはり人の命を奪うような仕事をしている人間は、決して幸せにはなれない、と読み手に納得、安心させつつ、それでも、兜が家族を最大限守るために着々と進めていた計画には、夫として父としての責任を感じジーンとしました。

上にも書きましたが、笑いと緊張、やさしさと切なさと心強さが入り混じったこの小説。
最初の20ページあたりまでは戸惑うかもしれませんが、読み終わった時に、心が温まり、家族や身近な人のためにしっかり生きよう、彼らをいつまでも支えよう、とまで思わせてくれること間違いなしです。

甘いもんと辛いもん、場合によっては酸っぱいもんまでを一冊で味わえる本書、ぜひ読んでみてください。

「AX」とは、鎌、まさかり、という意味だそうです。
これもまた、小説の中の一説とリンクしています。

読後、何だか街中に点在するクリーニング屋が気になって仕方ありません。

この記事が参加している募集

#読書感想文

189,330件

読みに来てくださった方に居心地の良さを提供できるアカウントを目指しています。記事を読み、ひと時あなたの心がほぐれましたらサポートお願い致します。