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刺激的な韓国映画、穏やかな日本映画/(「どこにいても、私は私らしく」#34)

南山芸術センターで開かれた「第8回現代日本戯曲朗読公演」に参加するため、日本から劇作家や俳優、評論家ら演劇関係者が10人ほどソウルへやってきた。2018年3月のことだ。日本の戯曲を韓国語に訳して韓国の俳優たちが朗読する公演だ。関係者だけでなく、一般の観客も見に来た。

第8回現代日本戯曲朗読公演  PR資料

この頃、#MeToo運動で韓国の大物演劇人も告発され、委縮した雰囲気を予想していたが、若い観客もたくさん来て、原作者や演出家と観客の対話も盛り上がった。

東京でも韓国の戯曲を日本語に訳して日本の俳優たちが朗読する公演が開かれていて、2002年から互いに40本の演劇作品が行き交ってきた(2018年当時)。

演劇人の日韓交流は政治的な日韓関係が良かろうが悪かろうが関係なく続いてきた。演劇はその時その時の社会を反映する傾向が強く、現在どんなことが日本や韓国で社会問題となっているのかを共有する機会でもある。惜しいことに、こんなおもしろい企画があると知ったのが遅く、私が観客として参加したのは2018年のソウル公演が3度目だった。

3度参加して感じたのは、同じ作品でも日本の観客よりも韓国の観客のリアクションが大きいということだ。とにかくよく笑う。例えばソウルで見た「対岸の永遠」という作品はソ連からアメリカへ亡命した父と、ソ連に残された娘の葛藤が中心に描かれた作品だった。おそらく日本で上演された時の客席は静まり返っていたのではないかと思う。韓国語版は軽いというわけではなく、演出なのか、俳優のアドリブなのか、吹き出さずにはいられない瞬間が何度かあった。韓国語版を見た原作者の長田育恵さんは「観客の反応が大きくて幸せでした」と話していた。

逆に韓国の戯曲「人類最初のキス」の日本語版が東京で上演された時、原作者のコ・ヨノクさんは「韓国では観客がいっぱい笑っていたのに、日本の観客は静かで心配になった」と話していた。おもしろくないから静かだったわけではないはずだ。日本の観客は映画でも演劇でも客席で声を出して笑う習慣はあまりない。

韓国の観客が日本の観客に比べて作品に笑いを求めていると確信したのは、映画「Be With You~いま、会いにゆきます」を見た時だった。日本の小説「今、会いにゆきます」が原作で、日本でも映画化されて好評を得た作品だが、笑うような場面はさほどなかった。ところが、韓国版はコメディーと言ってもいいほど笑える場面が多く、特に主人公ウジン(ソ・ジソプ)の親友ホング(コ・チャンソク)の役は日本版にはなかったキャラクターで、観客を笑わすために出てきたように見えた。

知人のシナリオ作家に聞けば、「韓国ではもはやただのラブストーリーでは投資が受けられない」と話していた。コメディーなりアクションなり、他のジャンルとミックスしないと観客が満足しないというのだ。「いま、会いにゆきます」も原作に忠実なシナリオでは投資が受けられなかったのかもしれない。

韓国では「日本映画は穏やかでいい」と言う人もいるが、主流ではないようだ。日本映画はあまり好きじゃないという人は「物足りない」と言う。映画に刺激を求めるからだろう。

私自身は、穏やかな日本映画も、刺激的な韓国映画も好きだ。だけどもホ・ジノ監督の「八月のクリスマス」(1998)や「春の日は過ぎゆく」(2001)のような穏やかな韓国映画が最近あまり見られなくなってきたのは残念だ。

近年は規模の大きな商業映画、あるいは小規模の独立映画という二極化が進み、ラブストーリーよりもアクションのようなある程度規模の大きな映画の方が投資を受けやすい傾向が続いていた。コロナの影響で劇場公開が厳しくなったのは悲しいが、オンライン動画配信サービスで配信される映画が増えているのは、韓国映画の規模の多様性につながるのでは、と少し期待もしている。

(ヘッダー写真「Be With You~いま、会いにゆきます」韓国公開時のポスター)

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成川彩(なりかわ・あや)
韓国在住映画ライター。ソウルの東国大学映画映像学科修士課程修了。2008~2017年、朝日新聞記者として文化を中心に取材。現在、韓国の中央日報や朝日新聞GLOBEをはじめ、日韓の様々なメディアで執筆。KBS WORLD Radioの日本語番組「玄海灘に立つ虹」レギュラー出演中。



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