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経営戦略論は、「軍師」になりたいあなたにとっての武器である!……使うタイミングと使い方を間違えなければね。

目次
1. 経営戦略って何だ?
2. 方向性に迷った時
3. やってきたことを正当化したい時
4. 効果的に経営戦略論を使うための注意事項

1. 経営戦略って何だ?
 経営戦略って、ビジネス用語としても気楽に使っていますけど、そもそも何なのでしょうか? これを真面目に考え始めると難しい。
 戦略=Strategyは、もともとは軍事用語です。勝利目標を設定し、その勝利目標を得るための作戦を決め、その作戦を実現するために戦闘局面から平坦局面まで各部隊単位の役割を確定し、その各部隊の行動計画を分刻みで作成し、伝達していく。軍事論では、この全てを戦略論と呼び、研究対象となっています。いわば、本来的な軍師=参謀本部の仕事とは、膨大な情報収集と分析に基づいた、目標設定、作戦の策定、部隊の設置と行動計画の作成と伝達いう、膨大なデスクワークにあります。

 これを経営戦略論に反映させると、企業の目標に基づいて、その目標を実現するための企業戦略および競争戦略を策定し、その企業戦略・競争戦略を実現するための組織の設計及び、各部門の事業計画とノルマの作成および、その事業計画を実現するための資源・人員の配置計画を作成すること全体が、経営戦略と言えそうです。やはり、情報収集と分析に基づいた、戦略構築と計画の作成という膨大な仕事であることは間違い有りません。営業や製造といった現場に近い部署や、月末・年度末になると膨大な書類と戦わねばならない経理部や人事部からすると、経営企画部や事業開発部みたいな経営戦略に関わる部門は現場の苦労も知らずに勝手なことを言いっぱなし、というイメージがあるかもしれませんが、実は膨大なインテリジェンスワークによって、企業経営の方向性を決め、具体的な行動計画にまで落とし込むという重要な仕事を担っています。

 そう、まともに経営戦略の専門家になろうとすると、経営戦略論の知識だけではなく、情報収集のためのマーケティングや社会調査の方法論、データを分析する統計学、計画作成のためのORと管理会計といった、様々な分野の膨大な知識を吸収し、使いこなす能力が必要になります。そんな都合の良い人材は、大企業にもそうそうはいないので、外注先として経営コンサルタントという仕事が成り立っている訳です(図1)。

これは作戦参謀であって、群d師ではない

図1 経営戦略の専門家をめざすとこうなる

 ところで、「軍師」という理想のサラリーマン生活を目指すために、そんな努力をする必要はありません。むしろ、MBA、特に海外の名門ビジネススクールに入学して、まともにこれらの知識をみにつけるほど、あなたは「経営戦略」の専門家としてのキャリアに近づき、「アドバイス一つで、社長と対等な立場に立ち、他の社員から一定の尊敬を受け」、「特にノルマも課せられない」理想のサラリーマン生活を送る「軍師」へのキャリアは遠のきます。

 「軍師」になるためには、社長に依存されるような存在にならねばならない、と僕はまえがきで書きました。

  経営戦略を作ることと、依存するために経営戦略論を武器として使うことは、本質的に違います。
  「軍師」として社内で振る舞える人たちは、あなたのボス(社長や上司)が経営戦略論を必要とする瞬間を、熟知しているわけです。まず、その瞬間を知ることから始めましょう。

2. 社長は方向性に迷った時に、後押しがほしい
  経営戦略論の大家として知られるヘンリー・ミンツバーグは、経営戦略を以下の2つの現象として説明しています。

第一に、企業を経営するための指針・目標としての経営戦略。
第二に、過去の経営を振り返った際の足跡として見いだされる経営戦略。

 
 指針・目標としての経営戦略は、解りやすいですよね。会社を経営する際には、とりあえず目標を仮置し、指針を示しておかないと、組織も計画も作れません。どういう経営戦略を作れば成功するかなんて絶対にわからないのですが、「正しい」、「成功する」と信じられるも目標や指針として経営戦略をとりあえず作っておかないと、会社の経営はできません(図2)。

正しいっぽい戦略

図2 食べたこともない物凄いごちそう=正しい(と思える)戦略


 そしてこのタイミングこそが、社長が経営戦略論を必要とする最初の瞬間です!
 どんなに徹底した情報収集をしようと、どんなに高度な技術を用いてデータを分析しようと、絶対に成功する経営戦略を作ることなんて不可能です。それこそ、全知全能の神に等しい能力を持たない限り、完璧な経営戦略を作ることは出来ません。人間として生まれ落ちた限り、認知能力の限界があるわけですから。

  将来的にはAIが経営戦略の作成を代行してくれる? ビジネス書に騙されてはいけません。AIが学習していくための膨大なデータを揃えるのは人間です。AIは確かにこれまでの情報処理技術とは一線を画すものではありますが、その限界は、それを扱う人間によって規定されていることを忘れてはいけません。
 
 話を戻しましょう。
 社長はどこかのタイミングで、うまくいくかどうか分からなくても、「正しい」と思い込める経営戦略を「えいやっ!」て作って提示していく責任を背負っています。その経営戦略が正しい筈がないことを一番理解しているのは、他ならぬ社長自身です。だから、「正しいですよ」と言ってくれる誰かに縋りたくなる訳です(図3)。

一歩下がって正しいという

図3 後から出てきて、正しいという軍師の理想像

 社長が新興宗教や変な占い師にはまり込んでしまう時があるのも、まさにこれです。
 あるいは、「教授」の肩書を持っている大学の先生や、「MBA」の肩書を持っているコンサルタントに頼っちゃうのも、同じですね。
 
 大学教授やコンサルタントはともかく、「軍師」のポジションを新興宗教の教祖や占い師に社長はなんですがりついてしまうのか?
 乱暴に言ってしまえば、社長の仕事は目標や指針を作るだけじゃなく、膨大な報告資料の確認と承認、株主や銀行、取引先と行ったステークホルダーとの折衝、時にはマスコミ対策まで分刻みの膨大なスケジュールで働いていて、自ら情報を収集し、分析するために経営学の専門知識を勉強していく時間なんかないのですよ。変な話ですが、企業の規模が大きくなればなるほど、会社の社長に必要なのは調整能力やコミュニケーション能力になってしまい、経営学的な意味での専門能力には無知になっていくわけです。だから、教祖や占い師にころっと騙されてしまう

 もったいなく有りませんか?
 「軍師」のポジションを占い師に取られちゃうの。
 社長が無知であることが確認できたのであれば、学部レベルの知識であっても、経営戦略論を武器に「それ正しいですよ」とそっと後押しすることが可能になります。
 このタイミングこそが、あなたが「軍師」になるための第一歩なのです。

3. 社長はやってきたことにを正当化してほしい
 さて、ミンツバーグは、経営戦略は、これまでやってきたことの足跡を後から振り返った時に生まれると指摘しました。
 皆さんも御存知の通り、企業経営で当初の目標や計画がそのままうまくいくことは、めったにありません。現場レベルでの修正や調整、時には計画そのものを無視した飛躍によって、当初のものとは全く違う成果を得るのはよくある話です。


 そういう時に社長は、それらの活動を総括して、「実現した戦略」として正当化していく仕事に迫られます。当初の経営戦略と違ったけど上手く行った。つまり成功例であるから、誰もがより「正しい」戦略であると信じられる。だとしたら、それを新しい経営戦略として、きれいにパッケージングして提示してくれる人が必要になります。

 もちろん、得られた成果が失敗であることも多々あります。これを単純に「計画通りに実行しなかったからだ」と批判するのは二流の社長です。部下からすれば、経営戦略もその実行計画も破綻していたから、現場の創意工夫でむりやり実行しようとしたのかもしれませんし、時には計画変更によって被害を最小限に抑えたのかもしれません。それを頭ごなしに叱ってしまうと、社長が提示する次の戦略はどんどん信頼性を失ってしまいます。この時に必要なのは、失敗の理由を総括しつつ、その反省の結果が次の戦略の正しさを担保してくれる人です。

 ここが、「軍師」のポジションを得るための第二のタイミングですね。たまたま上手く行った結果や、失敗した理由を、経営戦略論の知識で解りやすく説明し、次の経営戦略へと導いてくれる根拠を提示していくれる人、そういう人に社長は縋りたくなります。この瞬間を見逃して、教祖や占い師にみすみす「軍師」のポジションを明け渡すようなことはしてはなりませんよ。

4. 効果的に経営戦略論を使うための、あなたへの注意事項
 この2つのタイミングを注意深くまち、悩んでいる社長にそっと「経営戦略論」を武器に囁いていく。それが、あなたが「軍師」になるための秘訣です。
 しかし、ここで注意せねばならないことは、あくまで「そっと囁く」ことです。

 経営戦略論の専門書籍を読んだり、MBAで専門教育を受けたら、ついついその知識を武器に、社長に提案したくなります
 冒頭に書いたように、これは「軍師」のルートから大きくハズレた専門家の道への入り口です。
 たまたま社長が経営学の理論好きの場合は、そういう専門知識を振り回すことが喜ばれることもありますが、周りからは「頭でっかちが上手く取り入りやがって」と反感を買って「軍師」のポジションから引きずり降ろされる危険性もあります。

 あくまで、社長の背中をそっと後押しする「囁き」と、成功した際の成果は「あなた達のおかげ」と謙虚に譲り、失敗した場合は言い訳の理由を作ってあげる、そのために経営戦略論を使うことが、「軍師」に必須のスキルとなります。

 次回からは、軍師になりたいあなたのための武器としての10個の経営戦略論を紹介していきますが、謙虚であること、それだけは忘れないようにしてください。

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