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日本を最速で変える


《スタートアップなくして、その国の未来はない》 
  福岡市長、高島宗一郎氏の言葉より


あなたは今、日本という国を、どのように捉えているでしょうか? 

未来に希望が持てる、可能性にあふれた国か。

それとも、閉塞感のある、斜陽の国か。

残念ながら、後者のイメージを抱く人が増えていると感じています。 


私は2010年以来、10年以上にわたり、福岡市長を務めてきました。

「地方からのチャレンジこそが、日本を最速で変えていく」という信念のもと、福岡市でさまざまな取り組みを行ってきましたが、
特に若い人たちから「自分たちの世代に明るい未来など来るはずがない」
「アメリカや中国に勝てるとは思っていない」といった話を聞くたびに、
とても悔しい気持ちになります。 

経済大国として揺るぎない地位を獲得し、世界からはエコノミックアニマルと呼ばれるほどの貪欲さを持っていた日本はいつから、このような凡庸な国になってしまったのでしょうか? 

自国に対する自信をいつ失ってしまったのでしょうか? 


私は1974年に生まれました。

いわゆる「団塊ジュニア世代」です。

高度成長はすでに終わっていましたが、日本は世界一の技術大国として君臨し、商社も家電メーカーも自動車産業も、新たな市場を求めて海外に積極的に進出し、日本の屋台骨を支えていました。 

ところが、1990年代にバブル経済が崩壊し、世界が IT 時代に移行する中、
日本は完全に、その流れに乗り遅れてしまいました。
代わって、私たちが「発展途上国」だと 教科書で習った国々が、社会の不完全な部分にスムーズに IT を実装し、日本を凌駕するようになりました。

完全に立場が逆転してしまったのです。 

そして、このままでは、日本と世界の差は今後ますます広がることになるでしょう。 

なぜなら、今の日本には、圧倒的にスタートアップ企業の数が足りないからです。


スタートアップ企業は、10年後、20年後に大企業に成長する可能性のある会社であり、将来の 日本の希望です。

その希望が、今の日本には圧倒的に少ないのです。 


日本にもかつて、新しい企業がたくさん生まれ、活躍した時期がありました。

都心部にオフィスを構えている、高度成長期の日本を牽引してきた大企業のほとんどは、戦後に生まれたスタートアップ企業だったのです。 

しかし、いったん制度や仕組みが完成して成熟した日本では、新しいものを社会に実装することによる劇的な利便性の向上を感じにくくなってしまっています。

そして、いつの間にか失敗を恐れ、冒険をしなくなる「ゼロリスク神話」に冒されてしまいました。 

「挑戦すれば既得権からの抵抗や省庁の規制に足を引っ張られ、手続きにとんでもなく無駄な時間を取られる」「マスコミにリスクを大きく取り上げられるのが怖いので、慎重にならざるを得ない」と、多くの人が萎縮してチャレンジに二の足を踏む、そんな小さな社会になってしまったのです。 


ちなみに、海外のスタートアップイベントでは40代や50代の参加者も多いのですが、日本では若者が大部分を占めています。 

若者が生み出す既成概念を超える発想は、無限大の可能性を秘めています。

世界的にも 若年層が素晴らしい企業を生み出しているのも事実です。

しかし、40代や50代の人材によ るスタートアップは、経験や資金、販路などをすでに持っているため、成功確率が高いともいわれています。

ミドル世代の起業の多さは、スタートアップのムーブメントを加速させる重要なファクターとなるのですが、優秀な人材が大企業のような既得権サイドからなかなか飛び出さないのが日本の現状だと思います。 


日本が、チャレンジを恐れる小さな社会となってしまった原因の一つとなっているのが、少子高齢化です。 

現在の日本は、20代、30代の若者世代よりも高齢者の人口が多く、選挙における高齢者票の影響力も非常に大きなものがあります。

また、国会議員、市長や知事なども60代以上が中心であり、
社会制度を作る側の年齢的ダイバーシティーも、とても進んでいるとは言えない状況です。 


現役世代、特に若者は、政治や行政に対して意見を反映させていくという点では、努力以前の問題として、すでに構造的に弱者の立場に立たされていると言わざるを得ないのです。

このような社会では、どうしても高齢者を優遇する政策がとられやすく、その負担はすべて現役世代や将来の世代へと回されます。

しかも、少子高齢社会は今後数十年間続く ことが予想されており、こうした傾向はますます強まっていくことでしょう。 


ビジネスの分野においても、さまざまな業界が団体を作って既得権を握っていることが 多いため、若い人たちのチャレンジが、そういった既得権サイドに妨害されることも少なくありません。

既存業界は、新たなイノベーションを起こせずとも、選挙運動やロビー活動で政治や行政に対し、巧みにアプローチを行うことで、市場へのライバルの参入を防ぎ、自社の立場を守ります。

これこそが、若者にはないベテランの経験値であり、企業として生き抜いて いくための知恵なのです。 

こうした背景もあり、日本はスタートアップが生まれにくく、育ちにくい国になりました。


アメリカの調査会社CBインサイツのデータによると、
2021 年5月時点で、世界には 670 のユニコーン企業(評価額が1億ドル以上、設立1年以内の非上場のスタートアップ企業) があり、
国別の数を見ると、アメリカが 348 社でトップ、中国が 138社と続き、3 位がインドで8社、日本はわずか5社です。

主要各国が2桁、3桁のユニコーンの企業数で、一気に世界市場のシェアを取りにいっている中、日本は弾数自体が足りていません。

それどころか、規制や既得権といった国内の事情により、その芽が成長すること自体が阻まれています。 


福岡市では 2012年にスタートアップ都市宣言をし、三重県の鈴木英敬知事、広島県の湯崎英彦知事、千葉市の熊谷俊人前市長(現千葉県知事)、青森市の小野寺晃彦市長、つくば市の五十嵐立青市長、浜松市の鈴木康友市長、別府市の長野恭紘市長という、思いを共にする各地の首長とスタートアップ都市推進協議会を立ち上げて切磋琢磨をしています。

しかし、省庁を複雑に跨いだ規制を前に、日々、大変な労力と時間を費やしている状態です。 

日本が前に進むスピードと諸外国のスピードが違いすぎて、この数年でも大きく差が開 いてしまっているのです。



高島氏は、「国が国民の情報を一元的に管理できない、現在のシステム」と
「国に個人情報を管理されることに対する、国民の漠然とした不安感や警戒心」こそが、日本の「さまざまな遅れ」を生み出した原因の一つだと述べている。

そして…

『特定定額給付金の支給に際しても、そもそも各世帯の銀行口座情報などを行政機関が持っていなかったこと、さらには、マイナンバーをキーにして、基礎自治体にある個人情報(住基情報)を特別定額給付金の支給に活用できるという法体系になっていかなったことなどから、世帯ごとの情報を確認するというアナログな作業が発生してしまうこととなり、クレーム対応も含めて、市町村がすべてを担わざるを得なかったのです。

アメリカのように、国が国民の情報を管理できていれば、こうした問題もクリアできるうえ、本当に困っている人だけに、重点的に迅速に傾斜を付けた給付を行うことも可能だ。

そうすれば、限られた税金や人員という資源をもっと有効に使うことができ、世帯主の口座や所得の確認などに費やす時間やコストを大幅に削減できたはずです。』


福岡市では行政DXを進めている。

その一つが国に先駆けてハンコレスを実現したことだ。

役所に提出する約3800の書類への押印を国に先駆けて廃止した。

また、民間で活躍している4人を「DXデザイナー」として採用し、専門的な見地から助言や支援を得る体制を構築した。

その行政DXをすすめながら、「スタートアップ支援」を市政のど真ん中に位置付け、力を注いでいる。

そして現在は、企業の開業率は政令指定都市で第1位となり、様々なスタートアップが生まれているという。


また、スタートアップは既得権益者の反対でつぶれることが多いが、福岡市では、ウーバーの実証実験をしたところ、たった1ヶ月で中止することになった。

二種免許を持たない一般ドライバーによる初めての挑戦だったため、最初は「無料での実証実験」という形で行われたのだが、当初はこれを黙認していた国土交通省から、途中で「自家用車による運送サービスは、道路運送法で禁止されている白タク行為に当たる」と突如指導が入り中止となった。


だからこそ、さまざまな改革をすすめるには、良い意味での政治の力を利用する必要があると高島氏はいう。

つまり「ロビー活動」だ。

日本人は政治に対してアレルギーがある人が(特に商売をやっている人に)多いが、政治を知り、力学を知ったうえで、政治を利用することが必要という。

そしてその力で、行政における「前例主義」を打ち破ること。

新しいサービスや最新のテクノロジー等を使う提案が出たら、リスクを回避するため、役所の職員は前例を踏襲するしかないからだという。


日本の遅れはもう待ったなしだ。

DX、スタートアップ、データ連携、少子高齢化、学校教育、医療…


未来に向けて…

「日本を最速で変える」、その小さな一歩を踏み出そう。


福岡市長、高島宗一郎
『福岡市長 高島宗一郎の 日本を最速で変える方法』日経BP より

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