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本当にあった ちはの話~その2~

私がまだ障害のある方々の施設で働いていたころの話。


その施設は元中学校の敷地内に建てられていて、そこにあった教員用住宅をそのまま職員の住居にしていた。

その中でも一番施設に近い住宅が、私の住んでいた家だ。


その日は宿直明けで、仮眠を取れなかった私はとにかく疲れていて一刻も早く家に帰りたかった。

家に入って着替えもせずカーテンも閉めずにソファーに倒れこんだ。

そのまま泥のように眠った。


どのくらい眠ったのだろう。

午後の日差しがベランダの窓から入ってきて、暑くなってきた。

カーテンくらい閉めておけば良かったと思い

目を開けようとしたが、開かない。


そして

目を開けていないのに、なぜか窓の外に誰かがいるのがわかった。


知的障害を持っている利用者の中には、時々職員住宅に入ってきてしまう方がいる。
ただ入りたいだけで悪気はないのだが、たまに冷蔵庫の中のものを食べられてしまうことがあった。


ああ、○○さん(利用者の方)かもしれない。
ベランダのカギを確かめなくちゃ。

そう思って起き上がろうとしたが、体が重くて言うことをきかない。

相当疲れてるな自分、と思いながら、必死に体を動かした。


手をついて頭を上げ、上体を起こそうとしたができない。

無理やり動かした関節がギシギシと音を立てている。

目はどうやっても開かない。


寝た状態のままずるずるっと滑り落ち、ソファーを背に床に足を投げ出した形で座った。



その時やっと目が開いて


見えたものは


投げ出された自分の両足と、力なく床に落とされた自分の両手。


そして


動くようになった首を回してみた時に


右の肩越しに見えたのが



ソファーに寝ている形の両足。



あれ?



見覚えのある靴下をはいているこの足は



私の足だ。




その瞬間しっかりと目が開き、私はあおむけでソファーに寝ていた。





それから11年後の夏。

私は5人目の次女を産んだ。

30代後半の出産、子育ては、体力的にきつかった。
めんこくて仕方ない末っ娘ではあったが、とにかく眠い。
授乳のために夜中に起きることがほんとに辛かった。


その夜3回目くらいの授乳の時、泣き止まない次女を抱き、泣きたいのは母だよと思いながら部屋の中をぐるぐる歩き回っていた。

夫は隣の部屋でぐっすり眠っていやがる。

この世の不条理を噛みしめながら、やっと眠った次女を抱き布団の上に座ってうとうとした。


もういいかと布団に置こうとしたが、失敗した。
またぐずりだした次女を抱き上げた。


もうだめだ。 

夫を起こして代わってもらおう。


次女をしっかりと抱いて、ふらふらしながら夫の寝ている部屋に行き、口を開けて寝ているやつを見下げた。

こんなに自分の子どもが泣いているのに、どうして目が覚めないんだこいつは!とマジで腹が立った。

夫の肩を掴んで揺さぶった。

全く手ごたえがなかった。

ピクリともしない夫を見て私は叫んだ。


「起きろー!」



その瞬間、私は次女を抱いたまま布団に倒れこんでいた。


あれ?

夫は?


夢?

夢見てた私?


いや違う。

だって


寝てた夫のアホ面を見て怒り心頭だった感情も


肩を掴んだ手の感触もしっかり残っている。


間違いなく私は隣の部屋に行ったんだ。




次女は私の腕の中ですやすやと眠っていた。






夜にお仕事をしている皆さん。

昼間眠るときにはしっかりカーテンをしましょう。


そして、

新生児をお迎えした世のお父さんたち。

おっぱいがなくてもできることはたくさんあります。
しっかり父としての自覚をもって


夜中、起きなさい。



でないと

奥様は

幽体離脱して


生霊となってあなたに怒りの鉄拳をぶちかましに行っちゃいますよ。




           したっけ


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