陰陽座「相剋」と『犬神家の一族』~ひとつの個人的な考え

※本記事では、横溝正史『犬神家の一族』について主要部分のネタばらしを行っています。ネタばらしを避けたい方はブラウザバックをおすすめします。また、『犬神家の一族』は読んだことがないけれど、陰陽座「相剋」の内容とどう関係しているのかな、と気になる方は読まれてもいいのかもしれません。ネタばらしなんてまったく気にならないよ、という方はこのままお読みください。多少なりとも気になる方は、慎重に考えてからのほうがよいでしょう。『犬神家の一族』は読んだし、「相剋」も好きという方は、自分の考えと照らし合わせてみて、「ここは違うんじゃない?」とか「もっといい考えがあるんじゃない?」など、自分なりに「相剋」の歌詞について考えたときの叩き台にしていただければ幸いです。勝手な個人の考えですので、話半分に読んでいただければよいかと思います。





・はじめに

 歌詞を全引用するのは気が引けますので、私なりの考えだけつらつらと書いていきます。なにかのご参考になれば幸いです。
 気になった方は、上記のYouTubeのリンクから楽曲を聞いてみてください。また、歌詞について知りたい方は、検索して歌詞を読んでみていただければ幸いです。
 以下、歌詞に対する考えを一番Aメロから順番に書いていきます。
 あくまで個人の解釈ですので、あまり真に受けないようご注意を……。


・考えについて

”製糸業で莫大な財産をなした犬神佐兵衛は、幼くして孤児となり、若いころは各地を放浪していた。17の歳で、那須神社の宮司・野々宮大弐に保護され、大事に養育されたが、野々宮大弐は女性に対して性的に不能であり、保護した佐兵衛と関係を結んでいた。また、大弐は佐兵衛に、大弐の妻である晴世とも関係するよう佐兵衛に頼むという、ある種異様な事態となった。佐兵衛は、夫婦二者と同時に関係していたのである。佐兵衛が本当に愛した女性は、彼の人生においてほぼ晴世だけだった。その後、晴世は佐兵衛の子を身ごもり、娘の祝子が産まれる(世間に対しては大弐と晴世の娘とされた)。そして、祝子の娘である野々宮珠世が産まれ、「犬神家の一族」事件という悲劇の一因となる。”

Aメロ

”「自分のいとこたちを恨むことでなにが得られるのか」という、佐兵衛の孫のひとり、犬神佐清の叫びは佐清の母親である松子夫人にはまったく届かない。佐清が犬神家の遺産を相続するという、松子夫人にとって「良き こと きく」(犬神家の三種の家宝である「斧(よき) 琴 菊」の判じ物)という願いをかなえるため、松子夫人は犬神佐武を殺害し、佐清と青沼静馬(後述)は佐武の首を切り、菊人形に飾りつけて偽装する。”

サビ

”佐兵衛は大弐に保護されるまで、各地を放浪してつらい思いをしていた。そして、生涯の恩人である大弐に対して、認められているとはいえ彼の妻とも関係していることは、うしろめたさを感じざるをえなかった。歌詞で「『処女(おとめ)』の落胤」とあることから(佐兵衛と関係するまで晴世は処女だった)、ここの部分は少し似た生い立ちを持つ青沼静馬ではなく野々宮珠世のことを歌っていると取りたい。「償い(まどい)の鬼子」も大弐の恩義に対する「償い」であり、「『珠艶』に生い立つ」というのも珠世のことを指しているだろう。”

2Aメロ

”「いとこたちの命を、あるいは遺産を奪うことでなにが得られるのか」という佐清が松子夫人に逆らう声はただ虚空に響くだけだった。松子夫人は遺産の相続権を意味する犬神家の三種の家宝「斧 琴 菊」が自分の手に、あるいは佐清の手に入るように犬神佐智の首を絞めて殺害してしまう。その後、佐清と青沼静馬がその殺人を偽装する。”

サビ

”「青沼静馬を恨んでなにになるのか」という佐清の惑いの声は松子夫人に対して遠く届かない。ここでの歌詞が「良き こと 聞く」あるいは「斧 琴 菊」ではなく「憂き こと 聞け」なのは、青沼静馬を正式な「犬神家の一族」として松子夫人が認めていないからであろう。また、松子夫人が佐清だと思っていた人物が実は憎き青沼静馬だった、ということを明かされることが、「憂きこと聞け」なのかもしれない。松子夫人にとって「呪い」であった青沼静馬は、ついに夫人に正体がばれ、彼女の手にかかりその手で湖に沈められた。”

ラスサビ

青沼静馬……佐兵衛翁が妾に産ませ、遺産相続の揉め事で犬神家三姉妹に大変憎まれている、佐清の戦友であり叔父。普段はけがを負ったということで仮面をかぶり、佐清といつわって犬神家で暮らしている。佐清とは身体的特徴が酷似している。


・補足

 歌詞と楽曲を作った瞬火さんの解釈として面白いなというか、さすがだなと思うことは、若き日の犬神佐兵衛翁が野々宮大弐やその妻である晴世と出会ったこと、そして彼らの普通ではない関係性こそが、松子夫人が起こした悲劇と同様に取り上げられる価値があるということ。すなわち、それこそが「犬神家の一族」事件の真の発端であり、瞬火さんはそこを歌詞で示しているということです。
 『犬神家の一族』の肝として、松子夫人の起こした事件は佐兵衛翁の「操り」だったのではないか、という点があります。
 真に愛する孫である珠世にせめて財産を残したい、あるいは幸せに生きてほしいという佐兵衛翁の願いが、いびつな形で表出し、「操り」という形で事件になってしまったということなのだと思いますが……。

 この楽曲は、横溝正史の『犬神家の一族』を端的に、美しく表現した素晴らしいものだと思います。
 また、この楽曲と同じシングルに入っていた「慟哭」という曲は、松子夫人の最期の心情を、彼女と佐清・珠世との関係性をからめてバラード調で歌い上げた素晴らしい曲です。
 こちらは、考えを述べるまでもなく、『犬神家の一族』を読まれた方にはスッと心に入ってくる曲でしょう。

 関係ないですけど、「相剋」のイントロの一部分が、アニメ版「聖闘士星矢」のOP曲「ペガサス幻想(ファンタジー)」のイントロとなんとなく似ている気がする、と感じるのは私だけでしょうか。

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