ミステリ読み以外の趣味について~経済学の用語に軽く触れてみよう~その1(?)

・はじめに

 前回は数学のお話でしたが、僕は経済学の本も多少嗜みます。
 その中で、知っておくと面白い基礎的な用語や概念があります。今回はそれを軽く紹介していけたらと思います。
 経済学といっても、これまた分野は多岐にわたり、マクロ経済学・ミクロ経済学・行動経済学・財政学・開発経済学・環境経済学・医療経済学・社会的選択理論・ゲーム理論・計量経済学・金融論……思いつくままにあげても様々なものがあります。


・まず最初に

 まず経済学の基礎となるのは、「限られた財をいかに分配するか」です(少なくとも僕が学んだところでは、ですが)。
 「財」とは具体的な商品も指しますが、もっと広く範囲を取ることができます(例えば「公共財」のように)。

 そのなかで、まず最初に出てくる用語は、人が財を消費したときの「満足度」を表す「効用」(utility)という言葉です。
 経済学では、個人は自身の「効用」を最大化するために、合理的に最適化された行動すると仮定されます。これを、「合理的経済人」と呼びます。

 また、重要な概念になってくるのは、「限界」(marginal)というものです。十九世紀末前後に、この「限界」という概念をそれぞれ独自に発見した学者たちが、メンガー、ワルラス、ジェボンズという人たちです。
 では「限界」とはどのような概念かというと、具体的にいえば「所得や消費などが一単位増えた場合、効用や貯蓄などはどのような反応を示すか」ということです。
 例えば、喫茶店で一杯目に飲んだアイスコーヒーの「効用」と、おかわりで頼んだ二杯目のアイスコーヒーの「効用」では、二杯目のほうが一杯目のアイスコーヒーの「効用」より低くなります。喉が渇いて入店した喫茶店を想像してもらえれば、よりわかりやすいかもしれませんね。
 消費を一回ずつ重ねるにつれて「効用」が減少していくことを、「限界効用逓減の法則」といいます。

 また、「トレードオフ」という概念があります。一方を選んだら、もう一方のことはできない関係といいましょうか。例えば、時給労働者にとって、「労働」と「休暇」は「トレードオフ」の関係ですし、もっと広く取ると「睡眠」と「活動」もそうといえるかもしれませんね。


・そこから進んで

 経済学では、所得が一単位増えたときにどれだけそれを消費に回すか、ということを「限界消費性向」といいます。また、そのうちどれだけ貯蓄に回すかを、「限界貯蓄性向」といいます。
 「限界消費性向」を$${α}$$、「限界貯蓄性向」を$${β}$$とおくと、
 $${0<{α,β}<1,α+β=1}$$が成り立ちます。
 一般的に、「限界消費性向」は$${0.9}$$程度、「限界貯蓄性向」は$${0.1}$$程度といわれています。

 また、「GDP」という言葉を耳にされた方も多いとは思いますが、これは”Gross Domestic Products”の頭文字をとったもので、「国内総生産」、というのはみなさんご存知ですね。
 「GDP」とは、「財の付加価値の総和」です。単純化した具体例をあげると、原価10円、輸送費20円、人件費40円、利益30円の合計100円の商品がある場合、素直に$${10+20+40+30=100}$$が「GDP」に含まれるよ、という考えてみれば当たり前のことです。
 「GDP」には「名目GDP」「実質GDP」というふたつのものがあり、単純にその年の物価・貨幣価値で計算したものを「名目GDP」、ある年の物価や貨幣価値を基準として計算したものを「実質GDP」といいます。
 「実質GDP」で「名目GDP」を割ったもののことを、「GDPデフレーター」といいます。


・「財」について少し

 所得が上がったときに需要が増える財のことを、「上級財」(「正常財」)といいます。例えば、嗜好品なんかはそうですね。
 また、所得が上がったときに需要が減る財のことを「下級財」といいます。例えば、マーガリンなんかはそうですね。所得があがればバターを買うと思うので(まぁ嗜好は人それぞれですが、例として)。
 もちろん、所得が上がっても需要が変わらない財もあります。「中級財」といいます。トイレットペーパーなんかはそうですね。
 特殊な財として、価格が上がったときに需要が増える財があります。これを「ギッフェン財」といいます。

 「コーヒーを飲むときは砂糖が絶対必要!」という方にとって、コーヒーは砂糖の「補完財」です(逆も然りです)。お互いに必要とする(「補完」しあう)財だからです。
 また、「時給が上がったからストロングゼロではなくプレミアムモルツを飲もう」と考えたとき、プレミアムモルツはストロングゼロの「代替財」です。所得が上がるか下がるかして、ある「財」から他の似たような高い(あるいは安い)「財」に「代替」するからです。

 あと、「公共財」という概念があります。「公共財」の定義は、固くいえば「非排除性」と「非競合性」を備えた「財」のことです。誰かが使うときに、他の誰かが使っても排除されることがなく、他の誰かと競って消費しなくても減らないもののことをいいます。例えば、道路は「準公共財」です。渋滞などで排除される可能性がありますが、競って使わなくても減りません。空気は「公共財」ですね。


・他のことで

 経済学でよく仮定される条件として、「パレート効率性」というものがあります。イタリアの経済学者ヴィルフレド・パレートからとったものですが、「誰かの効用を犠牲にしないと、他の誰かの効用を上げることができない状態」のことを指し、「パレート効率的」なときは、「誰かの効用を上げようとしても他の誰かの効用も下がらない状態」、みなの「効用」が上がり切った状態を指します。
 ゲーム理論における「囚人のジレンマ」をご存知の方もおられるでしょうが、「パレート効率的」な解は$${(自白しない,自白しない)}$$です。しかし、「ナッシュ均衡解」(ゲーム理論における最適解)は$${(自白する,自白する)}$$です。このように、ゲーム理論において、「パレート効率的」な解と「ナッシュ均衡解」が別の場合もあります(フォーク定理から、「囚人のジレンマ」を無限回繰り返すと「パレート効率的」な解が解になります)。

 また、「コースの定理」という面白い定理があります。
 「当事者間で交渉のコストがかからなければ、ある問題に対しどちらが負担しても同じ資源配分がある」ということですが、例えば工場の騒音に対して、工場側がうるさいと思っている人たちに賠償金を払っても、逆にうるさいと思っている人たちが負担して防音壁を作っても、資源配分は変わらない(交渉にコストがかからなければ)、ということです。経済学における「外部性」(市場を通じないで経済の主体同士が影響を与え合う)のはなしではありますが、なかなか興味深い定理です。

 「ナイトの不確実性」という概念もあります。簡単にいえば、「情報が未知すぎて確率として数値化できない不確実性」のことです。


・最後に

 ここまで思いつくままに書いてきましたが、もちろん用語や概念の抜けや厳密でないところ、また「その説明は違うんじゃない?」というところがあると思います。
 経済学という、普段人になじみのない分野に関して、何か書ければと思い書いてみました。
 何かのご参考になれば望外の喜びです。

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