『日本ハードボイルド全集5 結城昌治 幻の殺意/夜が暗いように』

 『日本ハードボイルド全集』とは、日本におけるハードボイルド小説の開拓者たちの作品を集めた叢書です。1は生島治郎、2は大藪春彦、3は河野典生、4は仁木悦子、5は結城昌治、6は都筑道夫となっています(傑作集という名の短篇アンソロジーも出る予定になっていますが、まだその音沙汰はありません)。

 結城昌治の巻を読んだので、軽く感想を書こうと思います。ただ、本作には非常に優れた霜月蒼氏による解説が収録されていますので、そちらの方がもちろんためになると思います。

 解説を引きますが、読んで驚かされるのが、結城昌治の叙述の、透徹な「眼」のあり方です。言ってしまえば、ハードボイルド小説の多くは「眼」によって成り立っているわけで、その冷静な、澄んだ筆致には感嘆します。
 「眼」とは、ミステリのジャンルとしてのハードボイルド小説は多くが一人称であり、その視線(視点)のあり方で、主人公の存在や、どのように物語を切り取っていくかが決まる、ということです。
 安易なアクションシーンに頼ることなく、静かな物語展開で、心理描写を極力除いた形で読者にある種の感慨を抱かせる、その手つきが素晴らしいと思いました。
 あと読んで感じたのは、先述したように、心理描写を極力省く(情景描写や行動描写で登場人物の心理を描く)形式が徹底されている、という点です。これにより、一人称の叙述の仕方が必然性を帯びてきます。小説が一人称である、という点が非常に物語に生かされているのです。
 また、結城昌治が描く、心理を象徴する情景描写は、とても静かな筆致の中でも鮮烈であるとともにとても綺麗な描写で、深い印象を残します。

 正直な話、物語のパターンはそんなに多くないかもしれません。本作収録の短篇において「失踪人探し」が多く出てきますが、ハードボイルド小説におけるひとつのテンプレートとして、「失踪人探し」は定番です。
 また、終わらせ方もある種のパターンがあるようにも読めますが、これは時代性からくるものなのか、結城昌治の考えなのかは僕にはわかりません。

 結城昌治という作家は、大変作風の広い人物です。ユーモアミステリから読後に無常観を残すハードボイルド小説、いわゆる今でいう「イヤミス」など、様々な作品を書いています。
 日本を舞台にした、レイモンド・チャンドラー風ではない、ロス・マクドナルド風の非常に優れた私立探偵小説を描いたという点においても、もっと評価されて良い作家だと思います。

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