見出し画像

【第6章】人が合理的だからこそ、組織の問題は起こるべくして起こる

※「世界標準の経営理論」で学んだことのメモ一覧はこちら

5章に引き続き、「情報の経済学」について読んで理解したことを自分なりにまとめてみる。5章は取引が成立する前のことに焦点が当てていたが、第6章は成立後のことに焦点を当てて書いている。

説明するのはエージェンシー理論についてだが、まず最初に概要を理解してもらうため、自動車保険の事例と使って説明する。
【自動車保険に加入したAさんのとる具体的な行動】
これまで自動車保険に入ってなかったAさんは事故を起こさないように慎重に運転していたが、保険会社に相談して保険に入ると、事故を起こしても大丈夫と安心して以前より運転に慎重さがなくなる」ということが合理的な行動として起こる。このような保険会社としては事故を起こしてほしくない一方で、Aさんは以前より事故の可能性が高まる状態をエージェンシー理論(もしくはプリンシパル=エージェント理論)と呼ぶ。
この行動には2つの理由があり、1つは「目的の不一致」保険会社は注意深く運転してほしいがAさんは事故にあってもよいように保険に入ったのだから保険会社に強制されて注意深く運転する必要がないこと、2つめは保険会社にそう言われたところで見られていないので守る必要がない「情報の非対称性」だ。この基本ルールを踏まえ、さらに詳細を説明していきたい。


企業組織は全てモラルハザード(期待通りに動いてくれない)問題を持つ

最初に自動車保険で説明をしたが、企業の組織内においても上司(プリンシパル)に依頼に対して部下(エージェント)がきちんと動いてくれない状況が図1で示しているように起こりえる。これは株主と経営者のような状況でも同様であり、コーポレートガバナンスの問題として扱われ、よく議論されるテーマとして以下のようなことがある。
1.大胆な戦略がとれない経営者
多くの株主は投資先に対してリスクをとって大胆な施策を打つことが期待しているが、経営者は失敗が自分の失職に繋がると思うと大胆な戦略を取りづらい。特に、日本のサラリーマン社長などは駅伝形式で経営する期間が限られていることもあり、無難に終えたいインセンティブ(動機)が強くなる。
2.利益より企業規模を重視する経営陣
「利益か、成長か」もよく論点として取り上げられる。株主は株価の最大化を求め、高い利益を上げることが期待するが、経営陣は利益を意識すると人員整理・役員報酬のカットと検討する必要がでてくるため、M&Aなどを通じた売上拡大のアクセルを踏む傾向にある。
3.経営者の報酬
経営者は自身の報酬を業績以上に高額設定する傾向があり、それについても株主から望ましくない行動として論点となる。
4.企業スキャンダル
最後に極端なケースとして、粉飾決算など企業スキャンダルがある。経営者には自身を良く見せたい、守りたいというインセンティブがあり、それが行き過ぎると粉飾決算に陥っていく。

合理的な行動を解決するには合理的な組織デザインとルールづくりが必要

これまで紹介した事例を見ると「手抜き」「スキャンダル」など倫理や精神論的なことを言いたくなるが、ここではあくまで合理的な行動と捉え、どうすれば合理的に解決できるか説明したい。
1.モニタリングによる解消
1つめの方法は「情報の非対称性」を目指すもので、簡単に言うとモニタリングをきちんとすることだ。例えば、上司が部下に週次で業務報告させたり、業務状況の抜き打ち検査がそれにあたる。また、経営陣に対しては社外取締役・監査役を導入することや物言う株主が監視することが対処策として考えられる。
2.インセンティブによる解消

2つめは「目的の不一致」に対する対処策だ。従業員であれば「業績連動型の報酬」経営陣には「ストックオプションの付与」をデザインすることで、エージェントのインセンティブを引き出すことが可能になる。

ただ、この方法も万能ではなく、使い方を誤ると副作用をもたらしかねないので導入には事前の検討が重要である。
【主な論点】
・従業員のモニタリング・コスト
ー管理・監視するためには業務量・費用のコストがかかる
・大株主モニタリングの限界
ー大株主が全てをモニタリングできるわけではない。(少数株主はフリーライドして実質モニタリング関わっていない。)
・機能しない社外取締役モニタリング
ー知り合いが社外取締役となっている場合などには、モニタリングは実質機能しない可能性ある。
・業績連動型のインセンティブ報酬の難しさ
ー社員にも色んな立場の人がいる中で、全員に効果のあるインセンティブの設計は難しい。

最後にここまで色々書いてきた中で、どんな企業が業績が良いのかを紹介したい。結論としては、「創業家が大口の株主で、創業家一族から経営陣人が送られている企業」であり、これはなぜかというと創業家が経営している場合には「目的の不一致」が起きないからということであり、説明に納得感はあるものの知ってもマネできることではないなと感じた。
一般的な企業においては当たり前のことだが、「目的の不一致」を起こさないためには「ビジョンの共有」とステークホルダーとの地道な対話が大事なのだと思う。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?