3月17日 デジタルアクセシビリティ 法律 盲ろう メディア XR

この日の8時のセッションは、アクセシビリティの法律に関するものだった。CSUNにも長年参加している弁護士のLainey Feingoldが、‘Accessibility is a Civil Right : The 2022 CSUN Digital Accessibility Update’という題で話した。アクセシビリティは公民権であり、デジタルアクセシビリティがこの一年でどう進んだかについて、総括してくれた。ADA、508条、CVAAと、関連する法律はたくさんあるが、企業や行政が違反した場合の当事者からの集団訴訟を請け負ったり、間に立って調停をしてきた人だ。今回もじつにわかりやすい内容だった。さまざまな業界が、アクセシビリティの不備から訴訟を受け、改善を続けている。非常に多くの事例が紹介されたが、例えばヘルスケア分野を例にとると、処方箋を音声読上げしたり、Quest という会社の情報端末のUD化を求めたという。Covid19の情報を出すWebサイトはもちろんだが、医療などの分野も公共情報として、アクセシビリティが必須なのだ。海外ではKIOSKと一般化して呼ばれるが、今回、このKIOSK系のUDに関する発表がとても増えているのが目立つ。薬局や病院、書店や飲食店の情報端末も、すべて508条の対象だ。アクセシビリティは必須なのである。

ヘルスケアなど多くの業界でUDが必須に
ヘルスケア業界では処方箋の読み上げやキオスクのUDも

また、多くの訴訟事例の紹介の後には、今後出てくる可能性の高いジャンルが紹介されていた。それは、いわゆるメタバースが作ろうとしている仮想空間、その中でもXR(VR,AR,MRなどの分野の総称)や、Web3と呼ばれる新しいインターネット環境についてである。仮想暗号資産やブロックチェーンなど、今後、新たなネット上のインフラとなるものに関し、アクセシビリティが前提になることが重要であるという話であった。これまでは、アクセシビリティとは、まずはWeb1.0のような、コンテンツ系のページの話であった。それはWeb2.0となり、SNSの環境へと進化した。今後、ネット環境が進化する方向が、Web3.0と呼ばれるものになるのかどうかはまだわからないが、少なくとも、アクセシビリティが求められるのが、Web、モバイルアプリ、Kiosk、ソフトウェアなどの既存のジャンルを超えて、新たな局面に入ったということだろう。平面から空間へ、そしていつか時空も超えるのかもしれない。IBMやメタはそれを必死で追求している。このジャンルもしっかり学んでおかないという思いでいっぱいになった。

メタバースやWeb3のUDも
Webを超える様々なジャンルのUDが必須に

この日のランチは、予約しておいた最後の日で、野菜サンドである。結果として、実はこれが一番好きだった!ベイクしたパプリカがとっても甘くて美味しいのだ。野菜だけでも十分なサンドイッチだった。

野菜サンドとポテトチップ
野菜サンドが一番美味しかった

で、実はこの日はランチョンの映写会だった。一番大きな部屋にみんなでランチを持って集まり、短編映画‘Feeling Through’を見た。これは2021年のアカデミー賞の短編映画部門にノミネートされたものだ。盲ろうの男性と出会った若者が、彼とコミュニケーションの方法を探るうちに、障害のある人に対する意識が変わっていくというストーリーだ。欧米でも、やはり盲ろうとなると、実際、どうやって対話していいかわからないという人は多いだろう。この若者は、バス停で出会った盲ろうの男性に、バスに乗ることを支援してと依頼される。若者は彼の手のひらに文字を書くことで、盲ろう者は紙に字を書くことで、次第にコミュニケーションが取れていく。一本バスに乗りそこない、1時間後を待つ中で、若者は自分のデートをあきらめるが、盲ろうの彼に、夜一人で外出した理由を聞いて驚く。デートだったというのだ!疲れ切ってバス停で眠ってしまった二人だが、先に目を覚ました若者が彼のノートを見てしまう。そこには、’キスしていいかな?‘と書いてあったのだ。盲ろうの彼にも、愛が、夢が、人生があるのだ。若者はそのことに思いをはせる。そして、見えない、聞こえない世界で生きるということはどんなことなのか、目を閉じ、耳をふさいで感じてみる。Feeling Through. だがそこに次のバスがやってきていた!若者は必死でそれを呼び止め、何とか間に合う。バスの運転手に、降りる停留所や方向を必死で伝える若者。無事に乗って行ったあと、若者は、以前とは少し違う自分を感じている。この一晩で、多くのことを学んだのだ。Feeling Through.

この映画のすごいところは、演者がリアルな盲ろう者のロバート・タランゴだということだ。けっこう笑えるし、幸せな気持ちになる。何よりロバートがとってもチャーミングである。日本でも福島先生のドラマがあったけど、まだ盲ろう者自身が演じるという例は聞かないなあ。いつか日本でも、リアルな障害のある俳優が増えるといいな。

またこの日は、メンタルの障害当事者が自ら語るセッションもあった。会場は満杯だった。彼は発達障害と精神障害を併せ持つエンジニアだ。ただ、日本の障害ジャンルはむしろ世界の中では特殊なので、この言い方はここでは正しくないかもしれない。彼はUXの専門家で、WCAGの中のCOGAと言われるタスクフォースのメンバーである。COGAとは、Cognitive and Learning Disabilities Accessibilityの略で、認知・学習障害のアクセシビリティに関する研究チームだ。このジャンルのデジタルアクセシビリティは欧米でもまだ始まったばかりで、日本での担当者について私はまだ知らないが、今後、大切な分野になっていくだろう。アメリカ人の成人の4人に一人は精神障害に、5人に一人は不安障害に悩まされた経験があり、18歳から24歳までの56%が混合性不安抑うつ障害を感じたことがあるとレポートしていた。目に見えない障害であるだけに、今後の研究が重要だ。これまでも、LD(学習障害)に関しては文章の一行だけを追従するソフトや、知覚過敏の発達障害の方向けにノイズキャンセルの機能などを追加してきたが、精神障害の分野ではあまり配慮してきたとはいえない。今回、コロナの後遺症としてのBrain Fogを含め、認知障害に関するセッションが目立った気がする。これも新しい傾向である。

メンタルヘルスの状況
メンタルに悩む人は成人の4~5分の1とも

また、IBMとPEAT、アクセンチュアなどが働く場所のXRについて発表したセッションも面白かった。XRとはVR(Virtual Reality)、AR(Augmented Reality)、MR(Mixed Reality)の総称だ。今後の働く場所が、メタバースなどを使いながら、時空を超えていく状況をエキサイティングに語っていた。これは私も何年も前からいろいろな場で試してきたものだ。リアルな工場の環境の中で、ARで例えば最良の状態を示しながら手元の部品などをそれに近づけていくことや、離れた場所から伝統工芸士の指導を受けて若い人がそれにチャレンジするなど、多くの新しい仕事の仕方が生まれるのではと思う。今後は、これらのXRの環境を、いかにアクセシブルにするかが問われるのだろう。

工場でXRを使う風景
XRを使って指示したり遠隔で指導も可能に

夕方、浅川智恵子さんと高木啓伸さんに、会場でばったり出会う!おお、来ていたのね!なんと二泊四日という強行スケジュールで、二日間だけ会議に参加するらしい。昨年、IBMに籍を残したまま日本科学未来館の館長・副館長に就任してから、彼女たちはものすごく忙しそうで、以前一緒にやっていたネット関係の仕事でももう会えなくなっていた。ま、もともと、国内で会えることの方が稀で「日本国内では会えないよね~」と、CSUNなど海外で会って、一緒にご飯食べることが多かったのだけどね。明日の夕食をご一緒することにしていったん別れる。

夜は、和久井さん、金子さん、中村先生の4人でRuth Chrisでステーキを食べる。私はミニコースにしたので、サラダやデザートがついてご機嫌だった。もちろんみんなでシェアした。

ミニコースについていたサラダ
シーザーサラダ 4人で分けた



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