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『夏ノ終熄』感想

 どうもです。

 今回は、CUBEより2022年8月26日に発売された『夏ノ終熄なつのおわり』の感想になります。ミドルプライスなので、すぐ終わるやろ。と発売日にやろうと思ってたんですが、一つ前にプレイしていた作品の感想記事書いてて遅れました。

 主題歌「悪戯」はむっちゃ良かったです、好き(直球)。どストライクの曲が来たの久々な気がします。初回版特典で主題歌とサントラDLカードが付いてて、すぐフル尺を聴けるのも感謝感謝でした。2番が良いのよ…。
 プレイしたキッカケですが、スタッフ陣です。原画"うみこ"先生、背景”わいっしゅ”先生、音楽Peak A Soul+(作曲:ANZIE)、好きな方ばかりでした。そして、ライター"かずきふみ"先生の作品をプレイしたかった事がなかったので、コレを機にプレイしてみたかったと云う感じです。

 では、感想に移りますが、受け取ったメッセージと、雑感をなるべく簡潔に書けたらなと。こっからネタバレ全開なんで自己責任でお願いします。


1.受け取ったメッセージ

命を諦めない。できることは、それだけ。
英雄譚は望めない。俺たちに紡げる物語は、それが精一杯だ。
ただただ、生きていく。
明日もわからない、この世界で。
俺たちしかいない、この場所で。
日常を積み重ね、その中に幸せを見つけて。
俺たちは、生きていく。
懸命に、生きていく。

『夏ノ終熄』

 いきなり引用してしまいましたが、ラストのこの文章が全てだと思いましたので。本作は、“幸福に生きてほしい"と願いが込められた作品だったと感じています。

 "幸福に生きろ"、簡単な様で難しい、もしかしたらこれが叶ってる人の方が少ないのかもしれない。生きる上での永遠のテーマ。これを扱う作品は珍しくないですが、本作は昨今の現実問題を少し意識した上での作りだったので、そーゆー意味では新しく感じ取れるモノがありました。
 特に「閉塞感」かなと。世界的な伝染病によって感じる様になってしまった「閉塞感」。不安やイライラ、自然とストレスを抱えやすくなってしまった数年間だったと思います。それによってどうなるかと云うと、日常の繰り返しがネガティブ寄りになって、大なり小なり問題が発生してしまう。
 「職場の居心地が悪い」「人間関係が上手くいかない」「生活が苦しい」「心身の状態がすぐれない」等々。それで一つ問題が解決したかと想えば、また新しい問題に直面する。結局その繰り返し。いつまで経っても、幸福からは遠のく様な日常の繰り返しを強いられていました。

 そんな日常の繰り返しの中で、どうにか小さな幸せでいいから見つけて欲しいと。本作は伝えてくれた様に思います。訪れる困難を常に乗り越えていくなんて到底無理な話で。だから、幸福であり続けることは本当に難しい。そして、同時に人は刹那的な幸福感を求めてしまうんだと思います。でも、最初はそれでいい、寧ろそこからでいい、と描かれていたと思います。日常の中に潜む幸せを見つけて欲しいと。

 実際本作では、幸せだと思える瞬間はごくごく身近な生活の中にあると、日常感、生活感が滲み出るくらいに丁寧に描かれていました。毎朝ミオが鏡の前に立ったり、毎晩お風呂で独り言を言ったり。毎朝、毎晩、同じ事の繰り返し。でも、だからこそ嫌になるんじゃなくて。どうせ繰り返すなら、そこから幸せを見つける。
 田舎を舞台にしたのも良かったなと。利便性に満ち溢れ、ネットワークに支えられていると言っても過言ではない現代の社会。全体でみれば、今の社会は幸福であるかのように見えます。でも、個々人でみると、実際はそうじゃない人の方が多いのが現実問題。あくまで"そう見えるだけ"で。これを強調する為に、利便性の一切を排除した終末感ある世界観はとても良かったと思います。閉じた世界でも幸せは見つけられると。

 また、これまで"繰り返し"と云う表現を敢えて使ってきましたが、本作では、"積み重ね"と云う表現でした。作中でミオが言っていた「今が……一番、幸せ」を未来へと更新し続けられる様にするには、"終わり"ではなく、それを乗り越え、もう一度"始まり"を迎えられる様にすれば良い。"繰り返し"ではなく、"積み重ね"ればよいと。想い出は年輪の様なモノでずっと積み重なっていきます。だから、思い出す事ができる、幸せを感じた瞬間を。

「小さな幸せひとつひとつを記録しておけば、何年先になるかわからないけど、全部落ち着いて、元通りになったときにさ」
「このときこんなことあったね、あんなこともあったね、つらいことばかりじゃなかったね、って、笑えるんじゃないかと思って」
「それも小さな幸せのひとつになるんじゃないか、って。そう思ってさ」
(中略)
「家族とか、友達の。楽しいこと思い出して、いやなこと忘れようとしてた」
思い出は……、うん。"幸せ"だね

ユウジ、ミオ-『夏ノ終熄』

 この「思い出は……、うん。"幸せ"だね」が凄い好きですね。過去に引きずられるなとか、過去はよく否定的な扱いを受けがちですが、今の糧になる過去―想い出に限って云えば、ずっと大切に持っておくべきだと思うので。

 顔洗って、歯磨いて、ご飯作って、洗濯して、掃除して、食事して、お風呂に入って、眠りにつく。代り映えのしない一日。それでも、その一日の中で想い出に残る様な瞬間があるんじゃないかと。
 美味しいモノを食べた瞬間、初めての経験をした瞬間、思いもよらない発見ができた瞬間、綺麗な景色に目にした瞬間、偶然同じ感情に浸って笑い合えた瞬間、等々。そして、そこに希望を見出すことを否定する者は誰もいないはずです。初めは刹那的な幸福感でも良い。その大切さが解れば、この幸福感を続けたいと、未来を描ける様になるのだと思います。

 結局、自分の日常の中を再確認してみるべきなんだと思います。埋もれてしまってる瞬間があるんじゃないか。それらにちゃんと気付いてあげられているだろうか。今自分の身の回りにあるモノを無視して、あれやこれやと多くを望んではいないか。周りの影響を受けすぎてはいやしないか。"幸福に生きる"ための、"小さな幸福"はきっと案外すぐそばにあるのかもしれません。

 受け取ったメッセージは以上になります。何か少しでも感じ取って頂けたり、考えのヒントになっていたりしたら幸いです。



2.雑感

 普通に良作でした。良い所もあれば、もっと~して欲しかった、みたいな処もあるので、軽く書きます。

 まず、Bad End(2人とも発症end)が最も刺さりました。なので、コレに注力してもう一山起伏を作って(助かるかと思ったらやっぱダメだった的な)、1本道でもよかったのかなとも思います。ラスト、ベンチで最期を迎えるシーンは泣きそうで泣けなかった。自分は涙腺弱い方なんですが、それでも泣けなかったので、もう少し想い入れができたら泣けた気がします。雰囲気や演技、音楽など"泣き"へ繋がる要素は揃っていたと思うので。本作屈指の名シーンでした。エンドロールでの余韻もこのEndが一番良かった…。

 一方で、True End(2人とも生存)があっさりとしすぎてて、イチャイチャ以外の物語としての魅力があまり感じられなかったです。ノベルゲームとして分岐があるのは凄く嬉しいのでそこは勿論評価しています。エピローグで一枚CG出して、多くを語らないのも好みでしたし。ただ、こっちにあまり満足感を得られなかったから余計に、先述したBad Endの物語の増強をして欲しいと云う気持ちが生まれてしまった様な気もします。バランス難しいですね。でも全体としては細かい差分もあり、十分な分量だったと思います。

 また、ちゃんと夏の終わりである8月末に発売を合わせたり、世界情勢や動画投稿などある程度時代性のある旬な作品?として今プレイする価値のある作品だったなぁと。逆に云えば、今後数年後プレイしたらどう受け取れるのか、どう評価されるのかも気になるところではありますね。

 イラストは、まずキャラクタ―を"うみこ"先生。個人的には、2月にプレイした『アオナツライン』ぶり。本作でも可愛らしい表情、動きを沢山見れて大満足です。立ち絵もCGも安定して良かった。水着姿で笑顔のCGが可愛いすぎて…一番好きです。そして、背景は、"わいっしゅ"先生。自然の背景も良かったですが、ミオの部屋が気に入っています。

 声優は、三咲里奈さん。演技むっっっっちゃ良かったです。少ない台詞の中でも細かいニュアンスを言葉に乗せていて、ナチュラルさとデフォルメさのバランスが素晴らしいと云うか、只々凄かったです。ミオちゃんの割とガツガツくるけど、嫌な気はしない感じ可愛いかった。

 音楽は、Peak A Soul+。BGMすべて「ANZIE("安瀬聖"先生)」作曲との事で元々大ファンなので、新作で楽曲を聴けてとても嬉しかったです。全7曲全部最高でした。安瀬聖先生の音楽は、情景を感じさせるサウンドとメロディが素晴らしくて…。本作では特に「この慟哭を何処かに」が気に入っています。悲しい雰囲気なんだけど、少しだけ温かみもある感じ(語彙力)。

 とゆーことで、感想は以上になります。
改めて制作に関わった全ての方々に感謝申し上げます。ありがとうございました。"かずきふみ"先生の作品、実は他にもいくつか所持していて、新作も出るみたいなので、ガンガンプレイしていきたいですね。

 ではまた!



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