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『殻ノ少女』感想

 どうもです。

 今回はかなりの過去作の感想になります。タイトルは2008年7月25日にInnocent Greyより発売された『殻ノ少女』。ただ自分が購入したのは2019年12月20日に発売されたリメイク版になる『殻ノ少女《 FULL VOICE HD SIZE EDITION 》』。こちらを先日クリア(画廊もコンプ)したので感想を書いていきます。



 PVの雰囲気むっちゃいいし、主題歌『瑠璃の鳥』含め音楽担当がMANYOさんという事もあり個人的に音楽部分でかなり惹かれていました。加えて、美少女ゲームアワードで数々の賞を受賞しているのでその点もかなり興味ありました。ただホラー・グロ描写が凄いと見聞きしていたので抵抗が無くはなかった。それで先延ばしにしていたんですけど、今年すばひびをクリアした事もあり、イケるんじゃないかと思ったのと、ここ最近プレイしてた作品が明るめでサクッと終わるものが多かったので、硬派な重めのボリューミーな作品に浸りたくなり遂に足を踏み入れた感じです。殻・虚・天と三部作に加えて、カルタグラや和み匣もプレイする予定なので、長い時間かけてこの作品と向き合えたらなと思ってます。あと、パッケージが美しくて素晴らしいので、気になる方は検索してみてください(笑)

 今作√毎に感想書きづらいものだったので、いくつかテーマを章立てて書いていきたいなと。過去作で既にシリーズも完結しているという事もあり、解釈違い等あるかもしれませんが、多めに見て頂けると幸いです。では、こっからネタバレ全開なんで自己責任でお願いします。



1.「殻ノ少女」と「瑠璃の鳥」について

 作中で描かれた、間宮心像による「殻ノ少女」と、朽木冬子による「瑠璃の鳥」について書いていきます。

 まず、「殻ノ少女」ですが、ぱっと見だと(目に視線がいくので)確かに綺麗なんですよね。周りがホラーチックなテイストなので、余計に中央に鎮座する様子が神々しく映る。事件の真相の通しても魅力があるとすれば、やはりここにあるなと。安全な殻の中でいつまでもこの"美しさ"を保っておきたい。ここでいう"美しさ"は見た目は勿論の事、処女性なんかもあるかもなと。作中で単為生殖ってワードも出てきたし、となると処女懐胎…聖母マリアを連想しますが、彼が聖母に対して救いを求め、特別な想いを抱いていても何らおかしくはないです。それを美砂に対して抱いたのかもしれません。

 殻は卵を世界とした時の境界線とも取れるし、心理的な心の殻とも取れると思いますが、この場合は前者の方が適切かな。世界の外側にある苦しみや痛みに触れさせず、先ほどの美しさを永遠不変であるものにしておきたいと言った想いが込められていると思います。美雪の件が影響してるのはわからんでもないけど、美しい人はずっと美しいのに…しかも画に止まらず一線を越えてしまった。手足がないのは何かに触れる部分だからかもしれないし、自分で殻の外に出られない様にしたからなのかもわからない(まぁわかりたくもないけど)。殻が閉じている訳ではなく、白い世界を塗りつぶし外の世界は醜悪だと見せつけている感じも厭らしいです。これからも感じられる通り、非常に押し付けがましく一方的。その自覚無しに永遠不変を求めた結果、対象と共に不自由さ、窮屈さに囚われてしまった訳です。これらの要素は人を人では無くしてしまう可能性を孕んでる事も容易に想像できます。

 一応、心爾についても触れておくと、彼は黒い卵を地獄に落とされても一縷の望みは残っているという、希望の象徴として扱い、そこに救いを求めていました。亡き母を求めて。冬子に美砂を―「殻ノ少女」を見出してしまったと…。彼についての話は後の章でちゃんと書きたいと思います。


 続いて、「瑠璃の鳥」ですが、こちらは「殻ノ少女」とは対照的に背景は淡い色があるだけで白地が多く残っており、そして瑠璃色の鳥が殻を割り飛び立とうとしている様子。同じ綺麗さでもこちらは清々しい感じ。物足りなさと言うよりは、これで十分と言った感じの少女が描いた等身大の美しさをどことなく感じます。

 寂しがり屋で弱虫で、生まれ変わっても自分にはだけは生まれ変わりたくないと言っていた冬子。彼女を覆っていた殻の存在は、心理的な心の殻(檻)が適切かな。実の母親は傍におらず、その理由もわからず自分さえも失ってしまったら…という不安と恐怖。殻の中に閉じ籠っていれば、不自由だけれどそんな想いをしなくて済む、そんな想いをするくらいなら閉じ籠っている自分の方がまだましだと…。でも外への憧れ、本当の自分への興味がやはりあって、そのジレンマを抱えている自分が嫌いだったんだと思います。でも、玲人と出逢い、日々を過ごす中でこの絵を完成させてみせました。不安・苦痛・恐怖を感じながらも生きている人が目の前にいる。誰にでもあるものだと気付かされる。殻によって自分で自分を麻痺させ酔わせていた事に気付きいた彼女が根底にある恐怖から目を背けずに向き合い、自由を込めて描いたこの画の力強さは言うまでもないですね。誰しも持っているネガティブな感情(殻の存在)は本当の自分を気付かせてくれるものでもあるとポジティブに捉える事もできます。本当の自分は、今此処にいる自分の中にしかいないから、自由だっては元から自分の中にある。依頼を完了させた玲人の言葉が印象に残っているので、書き記しておこうと思います。

「……君から受けた依頼は全て完了したよ。随分と君は、数奇な運命を辿っていたようだね」
「でも、それでも――陳腐な言葉になるかもしれないが、君は君――朽木冬子だったよ。それ以上でもそれ以下でもない。君は君でしかないんだ」
「……君は納得しないかもしれないな。でも――親がどうとか、そう云うものじゃないんだ。君は朽木冬子として生きて来たんだろう……?」
「――これからも、何も変わりはしないよ。君はずっと君のままだ」

 

 まとめると、「殻ノ少女」と「瑠璃の鳥」は、両方とも生の欲望を描いたものでありながら、外から見た殻の存在と内から見た殻の存在で、その在り方が違ったいたという事。外から内へ内へと永遠不変を追い求め不自由に生きるのか。内から外へ外へと世界と自分を受け入れ自由に生きるのか。無自覚なのが前者、自覚しているのが後者とも言えます。人間的なのはやはり後者の「瑠璃の鳥」よね。画である以上、答えというか感想は何通りもあると思うので、他の人の感想も気になるところです。



2.好きなエンディングについて

 BADEND含め15個ものエンディングパターンがあった今作ですが、特に好きなエンディングについて2つほど書いていきます。

 一つ目はやっぱり「瑠璃の鳥END」。最初でこのエンディングに辿り着く事ができなかったので、攻略サイトを参考に最後に残しておいたのですが、最高でした。玲人から貰った鉛筆で描いた事も踏まえると自然と沁みるものがありましたね。あとは音楽「ルリノトリ」からの「瑠璃の鳥」よ。OPで聴いた時の印象が後々変わっていく楽曲大好きなので、この曲も漏れなく刺さって、エンドロールで泣けたのはこの√だけ。なんかね…ずっと重苦しかったからその解放感に近いんだけれど、それだけじゃない何とも言えない読後感で、寂しさとかは確かに残るんですけど、冬子が画に込めた想いや新たな生命に希望を感じる幕引きが唯一無二だったなと思います。次作の『虚ノ少女』はこのエンディングの続きなんでしょうか…。この辺りも気になるところです。


 二つ目は「心爾END」。冬子を攫うも、玲人に掴まるENDですね。悲しく虚しいけれど好きです。最後の幼少期時代の冬子とのツーショット写真にやられてしまった…。あとは自覚を想わせる以下の台詞。

「……解ってはいたんだ。母さんはそっちにしか居ないって事は……だけど、僕はこっちに居たから……会いに行けばよかったのにね」

 心爾の穏やかな声がそうさせるのかわからないけれど、この虚しさに寄り添いたくなるというか。何かを失った時の虚無感そのものは私達の日常でもたまにある事で、彼の虚しさはそのスケール感が違うだけだからなのかもしれないなと想うと胸にくるものがありました。彼が冬子と寂しさを共有し境遇が重なる部分があっただけに、彼女の様になれたんじゃないかと想うと余計にね…。あとは、元凶だけを責めてはいけない虚しさもある。偏執が偏執を呼んだ様に、色々な過ちが過ちを呼び、その連鎖が誰にも解かれる事が無かったという感じですね。孤独は誰にでもある人間の本質的なものではあるけれど、その動機にある承認欲とか愛されたいとかの欲望が悪い方向ではなく、良い方向へと向かわないとダメだなぁと思わされます…。殻の外にある他者の存在は欲望を満たしてくれる存在であると同時に、欲望を奪う存在でもあるから難しいのだけれど、一度閉じ籠っても、もう一度壊して殻の外の世界で生きる必要がある。心爾が殻の外で冬子にとっての玲人の様な存在に出逢っていたら…というifを想像してしまうエンディングでした。

 あとついでに書いておくと、これだけ分岐パターンがあるにも関わらず、どの√も分岐した意味があって、最終的に関連性を持ってる、その辺りの完成度も高かったです。その選択肢でしか得られない情報があって、例えばBADENDの√先で得た情報がTRUEに辿り着くための手助けになっているみたいな構造とか。この手のギミックは色んな媒体が或る物語の中でもノベルゲームならではだし、複数の分岐を経て重なったエンディングを以て訴えかけてくる作品全体の物語の構造としての重みが間違いなくあったと思います。攻略キャラ毎に√分岐するゲームとはまた違った魅力だし、推理モノだったので余計に良かった。



3.推理要素と解像度の高い文章による没入感について

 作品を愉しむ時、没入感をとても大事にしてる自分にとって今作は光る部分が多くあったので、それについて書いてみます。

 今作は主人公である時坂玲人が探偵なので、一緒にというか、なり切ってというか、事件を謎を解いていく必要がありました。会話を選択するだけじゃない、この手の推理要素があるゲームは初めてだったので、とても新鮮で楽しめました。人物相関図や証拠などが繋がっていく感覚は雰囲気だけでは味わう事ができない没入感をもたらしてくれていたと思います。攻略サイトを見始めた3周目以降辺りからは勿論薄れていきましたが(笑) 代わりに事件への理解やキャラへの愛着が周回を重ねて深まったから良し。行先だったり、現場調査だったりで、選択するパートが多すぎるのでそれだけ難易度はあった。でもこの難易度があったからこそ、"失敗しちゃいけない"、"人の命が懸かってる"んだという、選択に対する重みみたいなのが、普段やってるゲームとは段違いでした。ここの緊張感が真相が気になって仕方がない興味と合わさって没入感に作用していたと思います。

 次に解像度の高い文章について。特に犯人による猟奇的描写が生々しすぎる。どの部位をどのようにした時どのような状態になるのか…。状況説明の解像度が高すぎてCGだけでも十分なのに、加えて想像を捗らせるこの文章力は凄かったです。あらゆる恐怖感がマシマシです。普段の日常が丁度いい明るさを持っているので、それをぶち壊す様なゾッとするあの入りは慣れるまで時間がかかりました…。音楽も怖いのでサントラ聴くときは飛ばす(笑) これらの恐怖感も同様に没入感に作用していました。
 あと、文章自体に含まれる、敢えて常用漢字じゃない漢字を用いる(時代設定に合わせてる?)ところも好きでした。自分もアニメ感想ツイートする時たまにやるので(笑) 好みが分かれるとこだとは思いますが、個性が出るし、読みたい人はこの漢字で読んで欲しいという想いとかを考えると、自分は好きですね。

 適度な没入感を持続させる為、常に恐怖感や緊張感がある訳じゃない雰囲気の波ができていたのも良かったですね。家に帰った時の安心感とか半端なく好きです。自分の家も帰宅したら「Lilac」と紫ちゃんの声が流れる様にしたいくらいには(笑)



4.短編小説「先生と私」について

 今回購入した製品版に同梱の短編小説「先生と私」についての感想とかを書いていきます。因みに何が書かれているか全く知らないし知りたくなかったので、上記の3章まではこれを読む前に書いたものです。なので、これから此処に書く感想は上記の内容と合わない部分が出てくるかもしれませんが、敢えて両方残しておくことにしました。ご了承ください。

 60ページに渡る物語で、主な内容としては中原美砂の視点で描かれる、間宮心像との出逢いから、ゲーム内で語られていた偏執の始まりまでのものでした。結末を知っていたとしても、狂ってる描写の数々は辛かった…。ただ、新情報も多くその点は読んで良かったので、一応メモとしてもここに書いておこうとかと。

 まず、一番驚いたのは美砂から見た六識命の存在ですね。彼が血を分けた兄であり、嘗ては慕っていたけれど、彼が優しい兄を"演じていた"と解った日を境に彼から逃げる様になった事。お腹にいる冬子を守る為に。ゲーム内では六識命の言葉からしか美砂との関係は情報が無かったと思うので、美砂視点での六識命に対する嫌悪感は想像できないものでしたが、間違いなくこの小説で描かれた事が真実でしょう。本当に六識命は人の皮をかぶった化け物です…。

 次にこの頃(昭和19年)の間宮心像と心爾について。心像はまぁ想像通りなので最早何も書きたくないのだけれど、心爾はこの頃から既に美砂を"母さん"って連呼してる事がもう怖かった。心像と何ら変わらない、人を人して認識していない様子。上記でifを想像しちゃうとか何とか書きましたが、もうこの時点で手遅れだったのかなともやっぱ想ってしまった…。だけど、まだ幼少期だから自分が何をしているのか理解していないっていう可能性もあると思うんですよね、心像から何を吹き込まれ、命令されてたのかは明らかにされなかったけど、本当にこれで母さんがまた生まれると想っている可能性は無きにしも非ずというか。それをいつまでも真に受けて引き摺ったまま成長した結果があれなんだけども…。

 最後に美砂の冬子への愛情ですね…。東京で働くに当たって冬子を桂木教会へ預けていた理由とその心境がちゃんと書かれていて良かったです。冬子に逢いたい、冬子はどんな風に育ってるだろうか、冬子が気になって仕方がない様子で冬子への愛情を確かに感じる事ができて嬉しかったです。そしてその想いを込めた冬子への最後の手紙は心爾に託され、彼はそこに書かれた宛先へ向かう為に家を出たと。って事はちゃんと届いたって事でいいのよね?やっぱりこの小説からも冬子と心爾が育った描写が欲しくなるわ…。


 ところで、第16節以降の場面は恐らく、心爾が冬子を攫った後の話ですよね…?"男"は心爾、"彼女"は冬子で間違いないと思うんだけど、聞き手の"彼"と話し手の"私"がわからない…。これは虚ノ少女以降進めればわかるんだろうか。なんかネタバレっぽいの食らった気がしなくもないですが、この程度なら大丈夫です(笑) 逆に興味が湧いたので、この記事を書き終わり次第早急に『虚ノ少女』進めていきます。



5.さいごに

 まとめになります。

 率直に、期待以上の完成度の高さでした。数年に渡り多くの人間を巻き込んだ事件を暴いていくと同時に、1人の少女の依頼をこなし、その繋がりまで描いていく物語。醜悪で猟奇的な心痛む描写や、プレイヤーの不意を突くような関係性は紛れもなく魅力の一つとしてトリガーとなり、乗り越えて真相に辿り着きたいと思わせてくれました抑圧された重苦しい雰囲気が漂っているんだけども、主人公である玲人を初め、今を精一杯生きる少女達から希望を感じたくなる描写が沢山あった事も良かったです。作中の時代に限らず、今の時代でも通ずる事だと思います。1章でも記した、依頼を完了させた玲人の言葉もそうですが、作品を通して、何か生きる糧になる様なメッセージを受け取れると凄い幸せになるので、本当に感謝しています。

 キャラクターについても、皆それぞれ信念というか、願いを持っていて、魅力溢れる人達ばかりで良かったです。成熟した大人もいれば、まだ伸び盛りな学生もいて。大人キャラは玲人周りの昔からの付き合いがずっと固く繋がっている感じが素敵でした。"俺とお前の仲だろ感"と言いますか(伝われ)。一番好きなのは夏目さんかな。ふざけてる時もあるけど、確かに信頼できる人だし、気遣い含め好きな人への感情表現が魅力的な女性でした。学生キャラは事件に巻き込まれてしまった子達がいるのが本当に悲しくて…特に綴子ん時はボロボロに泣きました。凄い健気で良い子だし、この子は大丈夫だと油断してたから余計に…。甘くはないぞと思い知ったので不安はあるんですけど、この先頼むから紫ちゃんだけは最後まで玲人の傍にいてくれと思います…。BADENDだけでまじ勘弁。

 イラスト・音楽の演出周りはこれまでに体験した事のないテイストで新鮮味もあって良かったです。特にイラストは所謂萌え絵みたいな感じではなかったのが、現実味を際立たせてくれていたと思います。普通にお洒落だし。原画のスギナミキさんのイラストは初めて触れました。線の細いすらっとした綺麗な絵を描かれる方だなぁと印象、だけど弱々しい感じはないのが凄い魅力的だと思います。全体の雰囲気で魅せる力強さがあるというか。不安視していたグロ描写も何とか耐えられました(笑) 音楽は冒頭にも書いた通りMANYOさんに信頼もあったし、やはりどの曲も最高でした。「Thin purple」と「殻ノ少女」、「ルリノトリ」が特に好きです。もの凄い落ち着く…。システム周りは推理パート含め快適でした。バックログジャンプがないのはやり直しできちゃうからだとも思うので、周回は致し方無しです(笑)

 とゆーことで、感想は以上になります。ここまで読んでくださった方ありがとうございます。そして、改めて制作に関わった皆さん、本当にありがとうございました。ハッピーエンドが好きな自分ですが、こーゆーエンディングも最高だなと思わせてくれた事に特に感謝したい。まだシリーズとしては続くので、どんな結末になるのか色んな感情が湧いてますが足を踏み入れたからには最後まで見届けたい…特に玲人には救われて欲しい。2作目の『虚ノ少女』もまたクリアしたら感想書きたいと思います。

 ではまた!



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