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『景の海のアペイリア』感想

 どうもです。

 今回は、2017年7月28日にシルキーズプラスDOLCEより発売された『景の海のアペイリア』の感想になります。どうやらSF作品らしいと云う事で以前から興味はあって、割と状態のいい中古パッケージも手に入ったのでプレイした感じです。

 主題歌「アペイリア」は映像込みでも正直そこそこかな。少し盛り上がりに欠ける。でも、イントロは好きなので作中での入りは「始まった!!」感あって良かったです。

 では感想に移りますが、”今作から受け取ったメッセージ”を書いて、その後、ヒロイン毎の感想を軽く書く形式でいきます(最近この手の感想多いなw)。メインとしてアペイリア√まで一本道の章立て構成で、途中他ヒロインエンドの分岐構造な為です(※こっからネタバレ全開なんで自己責任でお願いします)。



1.受け取ったメッセージ

 ラストのアペイリア√に詰まっていたかなと云う印象です。なので、それを中心に今作で強く感じた事を書いていきます。一言にするなら、こんなところかなー、と云う事で以下の通り。

あなたにとっての"確かなモノ"="現実"は何ですか?(見つけてね)

 決め手になったのは、勿論最後の最後で綴られた文章。一応引用しておくと、以下の処ですね。

なにもかも不確かで、
本当はなにもないのかもしれないけど、
それでも、交わした言葉と、
こぼれた笑顔だけは、
なにものにも代え難く、たった一つの、
大切な、大切な、
俺達の現実だった――

『景の海のアペイリア』

 今作、量子の世界について色々と分かり易く語ってくれましたが、量子の世界は不確実性なモノばかり(不確定性原理って云う基礎的原理がある位には)な訳で。今、私達が生きてる世界も突き詰めれば全ては量子でできているので、じゃあ結局、現実は存在しないの?確かなモノってないの?っていう問いもやっぱりあって。で、その答えの一つを今作がラストの文章で示してくれたんじゃないかと思います。

 半ば位(確かましろ√)で、零一が以下の様な事を言っていました。

「俺たちの好みも、性格も、感情も、意識も、元を正せば色んな偶然の積み重ねだ」
「今は意思を持って自覚的に行動しているつもりでも、それはきっと偶然の産物にすぎない」
「ひどく自動的だ」

零一『景の海のアペイリア』

 この"自動的"って云う言葉が斬新で今でも印象深く残ってるんですけど、これ、元の元まで辿れば確かにそうかもしれないと思う一方で、少し何と云うか過去に目を向けた結果論っぽいし、消極的で寂しいなと思ったんです。

 でも、これはきっと前振りの様なもので解釈が違ったわと思わせてくれたのが、アペイリア√終盤でのシンカーと零一の会話でした。シンカーの正体が、主人公の零一ではないけど零一ではある事も踏まえると中々胸に来る会話だったと思います。

「記憶は変えられる、性格も変えられる、体も、未来も、過去さえ変えられる」
「これだけ変えられて、他に変えられないものなど存在はしない」
「絶剣、この世に不可能などありはしない」

シンカー『景の海のアペイリア』

「シンカー、どれだけ技術が発達しようと、技術的特異点が起ころうと、不可能はこの世に存在するぞ」
「受け入れろ、お前はお前だ。今ここにいるたった一人のお前しかいない」
「他の何者かになれるわけがない。わかっているはずだっ!!」

零一『景の海のアペイリア』

 零一はシンカーの言葉を全否定はしていないんですよね。シンカーの云う事も捉え方を変えれば可能性に満ち溢れていますし。
 不確かなモノに対して"変えられる"って言っているのがシンカー。
 その中でも"他者にだけはなれない"と言っているのが零一。
 前振りも合わせてまとめると、
周りのあらゆるモノは不確かで自動的に決まっているのかもしれないけど、その後に変えられる確率=可能性は間違いなくある。他者になる事以外は。
 と言った感じかなと。

 で、ここでラストのメッセージに繋げると、前向きなメッセージ性を感じられるんじゃないかと思います。変えられる可能性を掴み取っていく過程で得たモノがその人にとっての確かなモノで、それが現実だよ、って云う。
 作中の世界もそうでしたが、実空間とサイバー空間、人とAI、という関係の間にある境界はどんどん曖昧になって、デジタルであらゆるものがシームレスに繋がろうとする流れが間違いなく来ています。ただ、そういった流れが来ても、人間はやはり複数の状態の外側に立って観測する事はできなくて。でも同時に、自分が確かにそこに存在している事だけは観測できる。
 未来で仮にシンギュラリティが起きたり、仮想現実だと告げられたりしたとしても、自分を自分だと決定づけてくれる"確かなモノ"="現実"を見つけておけば、境界の曖昧さに溺れる事なく生きていられるんじゃないかと思います。意識や自我でもいいし、もっと具体的に、零一達にとっての、"交わした言葉とこぼれた笑顔"の様に。
 また、他者にはなれない、つまりは自己と他者の間に境界線(バウンダリー)は存在するんだけれども、それは相互作用を否定している訳ではなく、相互作用があるからこそ、自己にとっての"確かなモノ"に価値を見出しておく必要もあると思います。

 受け取ったメッセージとしては、以上になります。何か少しでも感じ取って頂けたり、考えのヒントになっていたりしたら、幸いです。

  あと余談ですが、タイトルの「景」と書いて「ひかり」と読んでる事について気になって調べたら、古典漢語で「ひかり(日光)」をkiăngと言うそう。また、kiăngという語には「くっきりと境界をつける」というコアイメージがあるみたいです。少しメッセージ性とも関連性ありますね(笑)



2.桐島三羽

 三羽は正直第一印象かなり悪かったです…。どうしてこんなに可愛くない感じで描くんだ…って心配になる位には(笑) むっちゃ頑固で意地っ張りな処は良いとしても、嫌味っぽい言い方を連投してくる感じが特に可愛くないなと。で、困ってたんですけど、母親との関係やクローンである事など事情が解ってからは少しずつ納得できました。また、その苦労とそれに伴う強さを感じられたのは好印象だった。零一と関係を築いてからは、屈してしまう瞬間とかは可愛かったかなと。

 彼女にとっての確かなモノは、"愛情"だったのかなと思います。別れの時、残される側になって初めて実感する寂しさ。それはきっと注いで貰った愛情に比例するものなんだと零一と別れた時に彼女は実感したはずで。観測者として…クローンとして…義理の妹として…娘として…色々な自分がいてそれだけ背負ってるモノも多かったであろう彼女が、零一の前でだけ溜まった想いを零してしまう姿が印象的でした。抱きしめてあげるのも良き。



3.東ましろ

 ましろはオドオドしてる小動物みたいな子かと思いきや、内に秘めてるモノが強い子だったなと。知識は豊富で、いざと云う時に頼りになるし、自信は無くとも行動自体はできる子でした。よく考えてから行動するので、自分自身を捉えるのも上手だったなと。常に自覚しながらで、表情と共にみるみる成長する姿が良かったです。ベタだけど口癖が可愛いかった。

 彼女にとっての確かなモノは、”勇気”だったのかなと思います。アペイリアを助けに行こう、病気に負けないようにしよう、怖いモノに対して逃げない気持ちを掴んだ瞬間の彼女が印象に残っています。苦手なら苦手なままでいいと、無理に克服させないアプローチも彼女の性格に合っていて良かったと思います。環境や状況が良い意味で勝手に促してくれるのを待つ感じね。



4.一久遠

 久遠はお姉さんキャラなんだけど、正確にはお姉さんになろうとしてるキャラでした。絶賛成長中。中二病でそこは二面性あるくせに、内面は嘘が付けない凄い正直で良い子っていうのも良かった。母からの言いつけや約束をちゃんと守ってたからこそ、その反動(+趣味)で中二病な一面があって、それで自分を保っていたんだなと思えました。姉になりたいはずなのに、"なって"とは言われたくない。でも嘘は付けない子だから上手く伝えられなくて。そんな不器用さが何事にも一生懸命な処を際立たせてたとも思います。

 彼女にとっての確かなモノは、"甘え"だったのかなと思います。正直なのに本音をその通りには伝えられない位に気持ちを押しとどめ甘える事ができなかった。まだまだ大人やお姉さんになり切れない自分を認めて欲しいけど、甘えられないから伝わらない。雁字搦めになってたなと。でも、零一との関係を築き甘える事ができた時、これまで通り人を強く想う姿がちゃんと報われた様で、久遠√は家族モノとして良かったなと思います。



5.アペイリア

(C)SILKY'S PLUS DOLCE All Rights Resarved.

 アペイリアはやっぱし可愛かったなと。純粋無垢な感じにやられる。AIである事をどんどん忘れていく感覚がどんな感じか想像できないけど、こんな感じなんだろうな、と思いながらやり取りを眺めていました。受け身ではなく、自ら学習を図っていく姿も興味関心が絶えない子供の様だったし、どんどん表情豊かになる。それでも変わらず「ポジティブ」「ネガティブ」は彼女のアイデンティティの一つとして残っていました。あの言い方、何か癖になるんよな(笑)

 彼女にとっての確かなモノは、もう言わずもがな"恋心”だったのかなと。でも恋をしてみたい自体が目的ではなくて、もっとその先を最初から見据えていて、皆への好きを何倍にもしてすごい幸せを掴む為の"恋心"だったのが彼女らしくて良かったです。だから余計に、ラストのCGで、笑顔がひたすらに眩しい彼女を見ると此方も自然と幸せな気持ちになりました。彼女がメインヒロインで本当に良かったわ。



6.さいごに

 まとめになります。

 SFロマン溢れるシナリオは面白かったけど、それ以外にあまり魅力を感じなかった。これが正直な処です。ヒロインにもそこまで愛着は湧かず、何より主人公の下品な感じが笑えないしノイズで感情移入できなかった。下品要素も観測者を欺く為のギミックだったのは評価するけども。文章は図説も用いて分かり易かったけど、日常会話は単調だし、戦闘シーンも一辺倒で、全体的にテンポはお世辞にも良いとは言えないかなと。下ネタに頼ってる感じもあるので、そこに全く乗れなかった自分とは相性が悪かった。

 プレイ感としては、道中で謎を解きながらも、此方を揺さぶる様なミスリードも織り交ぜてて楽しかったのは事実です。それは絶対にオカシイし、最後で答えが出るっしょ。と構えていたのでその通りになったのも良かったです(笑) 多世界解釈及びMIV理論と仮想現実理論はSFロマン溢れる処で好きなので、扱ってくれて嬉しかったですね。この分野は本格的に学ぶとなると難しいけど、上澄みだけの理解でもロマンを感じられるし。あとはやっぱ二重スリット実験でワクワクするかどうかが、SF好きかどうかの分かれ目な気がするなと改めて。その意味でも、序盤にあの解説を丁寧にしていたのは好印象ではありました。有名だし今作を手に取る人は大抵知っていそうではあるけれども(笑)

 キャラは一人選ぶなら、沙羅が好きです。声が手塚りょうこさんなので。丁度良いんですよね、カッコいいと可愛いのバランスが声質的に。でも、FDを買うつもりは今のところ無いです(笑)

 イラストは可もなく不可もなくと言った感じ。色遣いとか雰囲気は綺麗めで良かったけど、立ち絵のバリエーションがもっと欲しいわ。CGはラストの全員集合のがむっちゃ気に入っています。アペイリアの笑顔が眩しいわ。

 音楽は場面によっては効果的な曲もあったけど、全体としては単調で飽きがきやすい感じだったなと。完全に好みだけど、もっと長めの展開ある曲が好きなので…。でも「思考」や「アペイリア」は割と好きかな、印象に残ってるのはこの2曲ぐらい。

 とゆーことで、感想は以上になります。
良くも悪くも予想や期待を裏切ってくれた作品でしたが、プレイして良かったです。テンポを若干犠牲にしつつも説明は丁寧で分かり易かったし、何よりSFロマンを改めて好きだなと思えました。感謝しています。改めて制作に関わった皆さん、本当にありがとうございました。シルキーズプラスの他作品はプレイ予定ないですが、またいつか触れるかもしれません。

 ではまた!



(C)SILKY'S PLUS DOLCE All Rights Resarved.

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