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仮想通貨(暗号資産)の売買等による所得が「納税者に帰属するか」が争われた国税不服審判所裁決(所得税事案)

仮想通貨(暗号資産)の売買等による所得が納税者に帰属するか否かが争われた国税不服審判所の未公開裁決(令和5年2月17日・東裁(所)令4第85号)を紹介します。


この事件において、個人である納税者(請求人)は、仮想通貨の管理処分を行っていたのは自分ではないと主張しました。事実関係の詳細はわかりませんが、請求人が仮想通貨を管理処分していたこと裏づける証拠がある一方で、請求人の主張を裏づけるような証拠は乏しかったのではないかと考えます。

情報公開請求で入手した裁決書は、黒塗り部分が多いため、詳細が不明な点もありますが、黒塗り部分は適宜「?」などと表現して、紹介します。

裁決書をダウンロードしたい方は以下からお願いします。

なお、審判所のホームページでは、次の裁決要旨のみがアップされています。

請求人は、請求人名義の仮想通貨のウォレット(本件ウォレット)で管理されていた仮想通貨の一部(本件仮想通貨)の取引(本件各取引)に係る収益について、本件各取引以前に本件仮想通貨と株式とを交換する旨の口頭契約をA社との間で締結しており、請求人はA社の指示に従って本件仮想通貨を管理していたにすぎないため、本件各取引に係る収益は請求人には帰属しない旨主張する。

しかしながら、本件仮想通貨については、請求人自らの負担で購入していること、管理処分を請求人が行っていること、及び請求人もA社も本件仮想通貨がA社に帰属していないことを前提とする行動をしていたことなどからすると、請求人が主張する口頭契約はされておらず、本件仮想通貨は請求人に帰属していたといえるから、本件各取引に係る収益は請求人に帰属する。(令5. 2.17 東裁(所)令4-85)

国税不服審判所ホームページより

この裁決では、本件仮想通貨が請求人に帰属するかどうかをまず詳細に検討し、請求人に帰属するといえることから収益も請求人に帰属するという構成をとっています。

1 事案の概要・結論

本件は、審査請求人の平成29年分及び平成30年分の所得税等について、

原処分庁が、請求人名義で行われた暗号資産の売買、交換、使用等の各取引による所得が請求人の雑所得に当たるとして、所得税等の更正処分等をしたのに対し、

請求人が、当該暗号資産の一部は請求人に帰属しないため、当該暗号資産に係る各取引による所得の一部は請求人に帰属せず、また、所得から控除すべき必要経費があるとして、原処分(更正処分と過少申告加算税賦課決定処分)の一部の取消しを求めた事案です。

結論として、審判所は、請求人の上記請求を棄却しています

つまり、仮想通貨の各取引に係る収益は請求人に帰属し、請求人が行った各支出は請求人の雑所得の金額の計算上必要経費に算入することは認められない、と判断されました。

2 争点

争点1:
本件各取引に係る収益は、本件各年分において請求人に帰属するか否か。
具体的には、本件ADAは、本件各交換時点において、請求人に帰属するか否か。

争点2:本件各取引に係る収益が請求人に帰属する場合、本件各支出は、所得税法37条1項に規定する「所得を生ずべき業務について生じた費用」に当たるか否か。

3 事実関係(抜粋)

請求人は、平成29年及び平成30年において、金銭又は仮想通貨の管理のために業者が提供するサービスを利用し、請求人名義のウォレット(仮想通貨の管理を行う口座)を作成し、使用していた。

請求人は、平成27年9月から平成28年3月までの間に、複数回にわたって、仮想通貨ADAを購入する旨の予約をし、請求人の負担で代金を支払って、平成29年9月30日に合計7,002,018ADAの移転を受けた(本件ADA)。
その後、取引所に本件ADAを移してETHやBTCと交換。(本件各交換)

請求人は、上記ETHの一部を円転し、請求人名義の普通預金口座に送金し、また、上記BTCを移転して、株式を取得した。

請求人は、平成29年12月11日、?との間で、「Business Partnership Contract」と題する書面(本件提携契約書)に記載する内容について合意した。
本件提携契約書には、?と請求人が国際的な業務を提携して行うための基本的な契約を締結した旨記載され、その第2条には、?が負う業務の範囲に「International Settlement System」(本件条項)と記載されていた。

請求人は、クレジットカードを使用して本件各支出を支払った。

4 審判所の判断

争点1:本件ADAの帰属とその収益の帰属

審判所は、次の点を考慮して、本件ADAは、本件各交換時点において、請求人に帰属するから、本件各取引に係る収益は請求人に帰属する、と判断しました。

・本件ADAについて請求人は自らの負担で購入しており、その出捐者が請求人であることは明らか。

・請求人は本件各交換をいずれも請求人名義のウォレットにおいて行っている

・LINEのやり取りから明らかなとおり、本件BTCのうち平成30年11月7日及び同月14日のBTCの移転の数量はいずれも請求人が決めており、代理店担当者はむしろ請求人に対して移転させるBTCの数量を尋ねていることからすると、本件株式の取得のため移転するBTCの数量は、請求人自らが決めていたと認められる

・さらに、?がIDやパスワードを認識しておらず、?について直接確認する手段を有していなかったことがうかがえる。

・そもそも、?は顧客から取得したとされる仮想通貨の記録を行っていなかったというのであって、その取得数量を把握していないのに?が管理することは極めて困難であったといえる。

以上の事実関係に照らせば、本件ADAの管理処分は請求人が行っていたといえる。

加えて、請求人は、本件ETHを日本円に換金した後は、その日本円を請求人が給与を管理したり生活費として引き出したりしていた請求人預金口座に送金しているのであって、その後に請求人から?の口座にその日本円を送金しているとしても、本件ETHの交換価値は一度請求人が取得しているにはかならない。また、請求人は、本件BTCを対価として本件株式を取得している。

そうすると、本件ADAについては、請求人が自己のために費消していたといえる。

(裁決文を要約)

争点2:本件各支出が必要経費該当性

審判所は、次のとおり述べて、本件各支出は、請求人の雑所得の金額の計算上必要経費に算入することができない、と判断しました。

(1) 法令解釈
ある支出が、所得税法第37条第1項の「販売費、一般管理費その他雑所得を生ずべき業務について生じた費用」に該当するためには、当該支出が雑所得を生ずべき業務と直接の関係を持ち、業務の遂行上必要なものに限られると解するのが相当であり、かかる費用に該当するか否かの判断は、単に業務を行う者の主観的な動機・判断によるのではなく、当該業務の内容や、当該支出の趣旨・目的等の諸般の事情を総合的に考慮し、社会通念に照らして客観的に行わなければならないと解される。

(裁決文からそのまま引用)

(2)検討及び請求人の主張について
請求人は、本件各支出が、本件ADAの情報収集のため、 ?の代表者又は社員と会食した費用であり、必要経費に算入されるべきである旨主張する。

確かに、請求人は、クレジットカードを使用して本件各支出をしたとはいえる。

しかしながら、そもそも本件各支出が?の代表者等との会食のために支出されたとは認められないし、仮にこれが認められるとしても、クレジットカードの使用日は、請求人が?から本件ADAの購入予約をした日とされる平成27年9月から平成28年3月までの間より後であるから、その会食が本件ADAの購入のために行われたとはいえない。

したがって、本件各支出は、本件各取引に係る雑所得を生ずべき業務と直接の関係を持ち、かつ、業務の遂行上必要なものであるとは認められず、本件各支出は、請求人の雑所得の金額の計算上必要経費に算入することができない

この点に関する請求人の主張には理由がない

(裁決文を要約)

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※ 引用される場合は、この記事を引用元としてお示しください。


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