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国税庁FAQ改定で、暗号資産の所得から控除できる必要経費はどうなる?(税理士報酬、情報収集費用の必要経費は認められない?)

国税庁は、令和4年12月22日付で、「暗号資産に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」を改定しました。

アメリカの居住者が保有する暗号資産を日本の暗号資産交換業者に売却した場合に、日本での申告は不要という「1-7 非居住者又は外国法人が行う暗号資産取引」が加わっていますが、この記事では、「2-2 暗号資産取引の所得区分」「2-3 暗号資産の必要経費」を確認しましょう。

なお、このFAQ改定の背後には、雑所得に係る所得税基本通達の改正があります。この内容は、ややこしいため、ここでは説明を省きます。

CoinPostに掲載させていただいた記事は、国税庁のFAQ公表と記事が前後してしまいましたが、雑所得通達についても少しだけ記載していますので参考にしてください。



「2-2 暗号資産取引の所得区分」のポイント


  • 暗号資産取引により生じた利益は、原則として「その他雑所得」 に区分とし、例外的に「事業所得」又は「業務に係る雑所得」と区分


出典:国税庁FAQ令和4年12月改定版


「2-3 暗号資産の必要経費」のポイント

  • 暗号資産の売却による所得は、原則として「その他雑所得」 に区分とし、例外的に「事業所得」又は「業務に係る雑所得」と区分

  • 「その他雑所得」の場合、暗号資産の売却による所得から控除できる必要経費が「譲渡原価その他暗号資産の売却等に際し直接要した費用の額」に限定された。逆に、「その年における販売費、一般管理費その他その所得を生ずべき業務について生じた費用の額」も必要経費に算入することは認めない。

  • 「事業所得」又は「業務に係る雑所得」の場合、上記「譲渡原価その他暗号資産の売却等に際し直接要した費用の額」に加えて、「その年における販売費、一般管理費その他その所得を生ずべき業務について生じた費用の額」も必要経費に算入することを認める。


出典:国税庁FAQ令和4年12月改定版

所感

FAQの旧版において、暗号資産の売却による所得の計算上、必要経費となるものの説明の中で、「暗号資産の売却のために★必要な支出であると認められる部分の金額に限り」とありましたが、今回の改定において、★の箇所に「直接」という語が挿入されました。
(注意!根拠となる所得税法37条が改正されたわけではありません。あくまで、雑所得の通達改正のあおりを受けて、FAQを改定したにすぎません。このことは、国税庁における改定後の取扱いの遡及適用にも関係します)

これによって、納税者の方の暗号資産所得が「その他雑所得」に区分された場合は、①「これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額」は必要経費として認められますが、②「その年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額」は必要経費として認められません。

②は、「業務について生じた費用」だからです(所得税法37)
(2022.12/27追記:有益なコメントをいただいたので、追記いたします。
上記の「業務について生じた費用」と直前の「販売費、一般管理費」が並列関係を表す「その他」でつながっているため、「業務について生じた」費用以外の販売費、一般管理費として下記の「控除できない可能性のある支出」を必要経費として控除できるかというと、少なくとも国税庁はそのような考え方を採用していません(FAQの文面からも読み取ることができますし、過去の裁判例を考慮しても、採用していないと考えていいと思います)。
そもそも、「販売費、一般管理費」といった概念に既に「業務」性が含まれており、例えば、業務を行っていない方がたまたま何かを売ったときに「販売費、一般管理費としてこのような経費がかかった」とはみないというイメージになりますので、「その他」が並列であろうが、包括的例示であろうかは、国税庁のいう「必要経費に算入できる金額は、 暗号資産の譲渡原価その他暗号資産 の売却等に際し直接要した費用の額」のみを必要経費とする結論に影響を与えないということです。37条後段の「その年における」、「・・・の額」、括弧書きの債務確定基準は、すべて「販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」に掛かっているものと考えれば(※)、「販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」という部分は、「販売費、一般管理費」と「これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」として分けずに、セットで捉えた方がよいでしょう。)

(※)酒井克彦『クローズアップ課税要件事実論〔第5版〕』181頁以下(財経詳報社2020)参照

ただし、このほか、「その他雑所得」の場合にも、FTX破綻損失、詐欺・盗難による損失などを必要経費として認められる可能性があります(所得税法51④)。

要するに、次のような支出は必要経費として控除できない可能性が出てきました。

・暗号資産に関する情報を収集するためのセミナー参加費(交通費含む)、オンラインサロン会費、有料情報サービス費用、交際費など
・自宅(賃貸)の一角を暗号資産取引専用に使用していた場合に支払家賃を按分したもの
・筆記用具の購入費、備品等の減価償却費
・売却目的以外の暗号資産の移転手数料
・税理士報酬

出典:前掲CoinoPostの記事

この取扱いやFAQの改定、雑所得通達の改正については、言いたいことが山ほどありますが、差し当たり、次の点を挙げておきます。

納税者の方は、専門家の意見や見解、今後の国税庁の情報発信等も踏まえて、①自身の暗号資産に係る所得が、「業務に係る雑所得」なのか、「その他雑所得」になのかを検討すること、②「その他雑所得」に該当する可能性がある場合でも、国税庁が本当に税理士報酬や有料情報サービス費用等の支出を本当に必要経費として認めない見解であるのかを検討することが大事です。

Q これまで、税理士報酬等を必要経費として算入してきました。販管費等の必要経費を認めない取扱いは遡及適用されるのか?

A わかりません。国税庁がこの取扱いを「従来の取扱いの変更」と考えているのか定かではありません。取扱いの変更ではないと整理している場合、当然に、遡及適用されます。
ただし、FAQ(情報)は、形式的には国税庁内部すらも拘束しない単なる情報ですし、当然、納税者を法的に拘束するものではありません。
個人的には、暗号資産所得は十分「業務に係る雑所得」に該当する可能性があると考えています。

「業務に係る雑所得」と「その他雑所得」の判断基準は、必ずしもきちんと整理されていない状況なので、暗号資産の所得=「その他雑所得」が原則というFAQに流されずに、納税者や税理士としては、冷静に、問題となる所得がどちらの区分に該当するのか、「業務に係る雑所得」に区分すべき根拠は何か、その根拠資料(証拠)は確保できているか、などを検討しましょう。

過去の申告及び今後の申告について、専門家と協議の上、対応を検討すべきでしょう。

Q 税理士報酬や有料情報提供サービスに係る支出は必要経費として算入しないで申告した方がよいか?

A 専門家と協議の上、対応を検討すべきでしょう。
「その他雑所得」であるとしても、国税庁は、法的根拠は不明ですが、回線利用料やパソコン購入費を「その年における販売費、一般管理費その他その所得を生ずべき業務について生じた費用の額」ではなく、わざわざ上記の「暗号資産の売却のために直接必要な支出であると認められる部分の金額」に回線利用料やパソコン購入費を算入しています。

したがって、後者の直接必要な支出の範囲は相当広いというのが国税庁の見解かもしれません。

そうすれば、私が挙げた必要経費として控除できない可能性のあるものも、必経経費として認めてくれる可能性は残っているでしょう。

国税庁は、改正された雑所得通達とこれまでの暗号資産FAQとの間に矛盾が生じないように思案していることと思います。税理士報酬を必要経費として算入することも含めて、何らかの理屈をつけて、必要経費に関する取扱いはこれまでどおりと説明する可能性があるのか、注視しておきましょう。

税理士報酬が必要経費として認められない可能性があるならば、暗号資産の損益計算や税額計算サービスの利用料も認められない可能性があるのかという点については、税理士報酬よりは、「暗号資産の売却のために直接必要な支出である」という理屈をつけて説明しやすいように思います。ただし、現段階で、国税庁の見解や実際の運用を予測することは難しいです。

Q 暗号資産の譲渡による所得の必要経費のみが狭められたのか?

A FAQ2-2は、「暗号資産取引により所じた利益」としていますので、単なる売買・譲渡による所得に限らず、広く、レンディング、ステーキング、マイニングなども含めて、「その他雑所得」と区分=販管費などの必要経費は認めない、という見解の可能性があります。

暗号資産関連業として所得区分を判定すべきか、NFTやステーブルコインなども含めてあトークン関連業として所得区分を判定すべきかといった所得区分の判定単位の論点も議論が成熟しておりませんので、注意してください。

なお、事業所得における「事業」を「対価を得て継続的に行なう事業」(所得税法施行令63条12号)に限定する解釈をとりつつ、「対価」の範囲を狭く解釈した場合、マイニングは「対価」ではないから、事業所得とはなり得ないという見解も出てきそうですが、「対価」の範囲をそこまで狭く解釈することへの反論の方が多そうです。

Q 暗号資産に係る収入が年間300万円超で、帳簿書類も記帳・保存しているため、FAQ2-3により、事業所得になると考えていいか?

A FAQ2-3を形式的に適用して判断するのはリスクがあります。事業所得該当性を主張したいということは、青色申告者として、赤字を損益通算したり、節税特例を適用したいのかもしれませんが、例えば、赤字続きである場合には、国税庁が事業所得として認める可能性は減少します。赤字対策を何もしていないとさらに可能性は減少します。

国税庁の判断を予想するには、FAQ2-3に加えて、改正された雑所得の通達及びその解説を確認する必要があります。

ただし、結局、事業といえるものかどうかを社会通念によって判定する、過去の判例等で示された考慮事項を基準として判定する、その際に又はそれに補足して、通達やFAQにあるような収入金額300万円超か、帳簿書類の記帳・保存をしているかを考慮する可能性がありますので、結局、総合判断となり、ブラックボックスです。

おそらく多くの税理士は、暗号資産取引以外の事業で事業所得がある方がその事業に付随して暗号資産所得がある場合を除き、暗号資産取引が事業所得になることや、暗号資産取引で青色申告者となることに強い違和感を覚えるはずです。これは税務職員も全く同じですので、改正された雑所得通達と平仄を合わせざるえないとは上で、収入金額300万円超で帳簿書類の記載・保存があったとしても、何か理由をつけて、事業所得に該当しないと税務署が判断するリスクは残っています。

手動でやっている方やトランザクション数が少ない方は余計にリスクが高いように思います。

まして、暗号資産所得が赤字であり、事業所得として、例えば給与所得と損益通算をする申告を見たら、通常の税務職員は、「それはおかしい。事業所得ではないはず」という視点で税務調査を検討・開始することは、経験則上、当然といってもいいでしょう。

さりとて、暗号資産取引が事業所得になる可能性はゼロではありませんので、微妙な方は専門家に相談し、法的に正しい判断を依頼した方がいいでしょう。難しいのは、専門家にも色々いて、例えば、暗号資産に詳しい税理士だからといって誰でも法的判断に長けているかというとそうではないですし、逆に、暗号資産に詳しいけれど税理士や法律家としての経験値が少ない方もいらっしゃいます。SNS等でのその専門家のコメントを他の専門家が読めば、ある程度、判断可能ですが、その判断は一般の方にはほぼ不可能です。


Q FAQ2-3の帳簿書類とは、どの種類の、どの程度の質のものが想定されているのですか?

A わかりません。おそらくは、所得税法で法定されている種類・程度のものでしょう。すべての暗号資産のトランザクションを仕訳帳に記載して印刷していなければならないのかというとそうではなく、簡易的なものを作成・保存している場合、補助簿的なもので補完している場合なども認めてくれる可能性はあると考えます。


私たちに、相談を依頼した場合は下記までお願いいたします。


改正された雑所得通達については、以下の雑誌で特集されています。FAQ改定前の内容になっていますが、私も暗号資産との関係の論文で執筆参加させていただいております。


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