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第十三話 エスパニョールに見るライバルの在り方 「追跡」

バルセロナに来てかれこれ半年になるのですが、ようやく行って来ました、エスタディ・コルネリャ=エル・プラット。バルセロナに本拠地を置くもう1つのLa Liga Primera Division所属チーム、RCDエスパニョールの試合観戦(アトレティコ目当て…笑)。40,000人収容のこのスタジアムは2009年に完成、バルセロナの中心(Espanya駅)から30分程、電車一本で行けます。新しいだけあり非常にキレイで観戦もしやすく、周辺にはショッピングモールや民間・ユース向けのフットボールコートも併設されています。

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(日曜夕方、暖かな陽気のアトレティコ戦、スタジアムは9割程埋まる)

RCDエスパニョール

ここでRCDエスパニョールについて簡単に説明;

・1900年にバルセロナの大学生が創設
・Reial Club Deportiu Espanyol de Barcelona
(王室の称号Realを取っていたが共和制時代にカタルーニャ語にした)
・93/94シーズン以降はPrimera Divisionに所属
長年、財政難と降格争いに苦しむ
2016年1月に中国大手玩具メーカー(Rastarグループ)により買収される
→ 中国代表ウー・レイ選手所属、レギュラーで活躍中。
・財政回復とともに成績も向上(昨年7位で19/20シーズンはEL出場
・今シーズンはELの反動で現在リーガ最下位、降格の危機
・過去在籍の有名選手・監督
選手:中村俊輔、西澤明訓、ハッジ、ジョルディ・クライフ
監督:バルベルデ、ポチェッティーノ、アギーレ、ビエルサ

日本人にとっては、2009年の中村俊輔選手の移籍が一番馴染みのあるニュースでしょう。残念ながら怪我により思ったようなプレーができず、ほとんど出場もできませんでした。タラレバではありますが俊輔がエスパニョールで活躍していたら、エスパニョールの認知度は高まっていて、今でも動向を追っかける日本人ファンがたくさんおり、逆にスペインから日本人選手への注目も高まっていたのでは、と思わずに入られません。恥ずかしながらフットボール好きで、バルセロナに来ている自分ですらエスパニョールがバルセロナのクラブってこと最近まで知らんかった…。その他、ユース年代の育成や女子チームにも力を入れている模様。日本にもアカデミーがあります。

バルサとの関係

バルサとの試合はバルセロナダービーとして地元でも注目されますが、残念ながらバルサ側はそんな重要視していません涙…。大学の授業でもマドリードやプレミアのクラブなど、ビッグクラブとの関係は解説されるのですがエスパニョールという言葉は一切出て来ません。しかし過去にはピケの言動(「少数派」や「コルネリャのクラブ=バルセロナのクラブにもかかわらずバルセロナではない」と挑発的な発言をしている)で一触即発の雰囲気もあり、試合も白熱しています。2020年明け1/4のダービーでは引き分けと、バルサ戦は奮闘するエスパニョール。

そんなマイノリティとして、エスパニョールファンたちはどういう心持ちなのか?メンフィス大学の「ライバル関係がどのようにファンに影響を与えるか」という論文(Glory Out of Reflected Failure: The examination of how rivalry affects sport fans)ではそれを紐解く、いくつかの面白い研究結果が示されています。

① 強大で尊敬に値する(自チームより格上)チームをライバルとみなす
② ライバルには良い成績を残して欲しい(その方が自尊心も高まる)
③ しかし自分の応援するチームや弱小チームには負けて欲しい
④ 子供の方がライバルへの敵視が強い

論文で報告されているので大そうなこと言うのかと身構えた方もいたかもしれませんが、当たり前だよなって感じです笑。みなさんもこういう気持ち、経験したことがあるのではないでしょうか?強いチームを倒せば自分の価値が高まる。練習試合で勝ったことあるチームが大会で好成績を残すと誇らしく感じる。ギャラクティコ時代のマドリードがラシンに負けると嬉しい。ってな感じです。

その他の研究で、ファンになるためには親や友人の影響を受けることもわかっています。例えばバルサですが、今のソシオ会員は親から権利を受け継いだ人たちが多くを占めます。144,000のソシオ会員たちに運営されるバルサ。よって親会社なんてものは存在しません。会員である自分たちが運営しているという意識です。つまり、バルサという存在はバルセロナに生きた人たちの歴史です。そんな内向きで稀有な体制にもかかわらず成功し、バルセロナ内で圧倒的なファンがおり、また海外にもファンが多く、世界中で1億人以上のファンがいるともされています。

上記の点を踏まえると、バルサファンとエスパニョールファンのお互いに対する心理状況は全く変わって来ます

<バルサファン>
エスパニョールは地理的に近くに存在するチーム
ライバルはレアルマドリード

<エスパニョールファン>
バルセロナは倒すべきライバル(強大で尊敬すべき格上)

schadenfreude(シャーデンフロイデ)

ドイツ語で「他人の不幸を喜ぶ気持ち」と言う意味で、先ほどのメンフィス大学論文の中に何度も登場するこの言葉。これがライバルという関係を理解する上でキーワードになってきます。

自分はかなりの天邪鬼でひねくれ者です。当時7歳の頃にJリーグが開幕し、ヴェルディ川崎の最盛期。みんなヴェルディのトレシュー履いていました。

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そんな自分が今でも応援するのが鹿島アントラーズです。鹿島を好きになった理由、それは「ヴェルディを倒せる」そう思ったからだったと思います。初めてのフットボールプロ化ということもあって、親世代からの影響(ホームタウンへの愛着)は少なかったように思います。メンフィス大学の研究結果、① 強大で尊敬に値する(自チームより格上)チームをライバルとみなす、④ 子供の方がライバルへの敵視が強い、がまんま当てはまっています笑。ビスマルク、マグロンが憎くてしかたなかった!ヴェルディが負けた時の至福たるや…。また阪神ファンであるため、ヤクルトに負けて優勝逃した時の号泣、清原、江頭、工藤あたりがいた巨人への憎悪、これも覚えています。ただし、野球に関しては親やホームタウンの影響が大きかったように思います。大阪在住で、親が巨人ファンだから阪神好きになったってことです。

ってことで、勝手にエスパニョールには親近感が湧いています笑。そんなひねくれ者たちの、すさんだクラブなのか!?と思っていましたがそんなことはなく、全くの逆だと感じました。

スタジアムには親子連れがたくさんおり、観戦マナーも良く、バルサという強大なクラブが同じ街に存在しながらも、しっかり街とクラブに誇りを感じ、愛している印象です。父と娘が慣れた感じで観戦に来ていたり、じいちゃん2人で盛り上がったり、恋人同士でイチャついたり、同級生男4人組でやいややいや言ったり。お世辞抜きで良い雰囲気のスタジアムでした。ドイツやイタリアで体験した殺伐とした雰囲気はありません。シントトロイデンで観戦した時も感じたのですが、穏やかに自分たちの子供を見るかのような暖かい視線を感じました。

マンUとマンC、アトレティコとレアル、インテルとACミラン。同じ街の実力が均衡したチーム同士のダービーはよく聞きますが、ここまで対照的な2クラブのダービはまた味があって面白いですね。そんなバルセロナダービーは5/10にあります。その時期ならバルサが優勝、エスパニョールが降格決まってるかもしれません。ただ、お互いの優勝と降格がかかった熱いダービーの可能性もあります。下手したら当面観れないかもしれないので、今のうちに観に来た方が良いかもしれません。今回はこの辺で、Adéu!

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