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メガバン銀行員からドイツ現地企業への転職

こちらも需要あるか不明ですが書き残しておこうと思います。

1.キャリアチェンジを考え始めたきっかけ

2018年に新卒でメガバンに総合職として入行した私は正直焦っていました。
三か月の入行研修を終え、支店に配属。一般的なメガバンではこの2、3年の修業期間を経てから次の異動先が決まります。成績が良ければ希望部署へ、本部へ、海外へ。一方悪ければどこか地方へ、人が足りてない部署へ。移動先の希望はキャリアプランとともに主張することはできるものの、実際なんの保証もなく、実際に40代の先輩が東京から愛知県の田舎に飛ばされるのを目にし、(しかもその人はその期のトップ案件をクローズした人です)人事任せにしていては先がないと感じていました。

また、業務内容も専門性がとても高いかというとそうではなくて、実際にはかなり事務作業の負担が大きいものでした。融資案件があればプランニング、稟議の作成、お客さんとの金利交渉、契約書の作成、融資の実行までを基本的に自分でまわす必要がありました。特にはじめての拠点では事務のお姉さん方に丸投げするのではなく自分ですべてこなす必要があり、これが厄介でした。お客さんとお話するのはそこまで嫌じゃなかったですが、きっと一生やることがない仕事を、自分よりはるかに効率的にできる人がわんさか居るなかで、自分がやらなければいけない理不尽を日々感じていました。特にこの知識も、銀行でのその後のキャリアですごい役に立つわけでもなく、ましてや転職するにも全く不必要なものだったからです。

そして2019年の元旦、異動を待つのではなく、自分から動こうと決意しました。具体的には、まず海外大学院留学に向けてざっくりと2年計画を作りました。奨学金の応募や、語学試験のスコアなどを考慮に入れると、いずれにせよそれぐらいかかるので、先に留学先が決まれば留学すればいいし、その前に異動が出るのであれば異動先によって残るかどうか決めればいいと思いました。それから連絡のあったヘッドハンターとも面談をし、自分の市場価値などを正確に把握することに努めました。

それからは大学院探しや語学の勉強、奨学金の応募などやるべきことをデッドライン毎に淡々とこなしました。その間の仕事は、やりがいのある案件と超無意味なもの(飲み会の清算、ゴルフ、カレンダー配り、クレジットカードのセールス)を行き来している感じでした。大学の同期がコンサルや投資銀行で着実にスキルアップしているのを横目に、正直焦りがありました。

そして2020年、パンデミックが猛威を振るいました。銀行業というのは皮肉なもので、不況になればなるほど普段見向きもされないお客さんから必要とされるようになります。ほかの金融商品は一旦すべて置いといて、融資案件をこなす日々でした。もちろん必要とされること自体はやりがいがありますし、社会的に意義のある仕事だというのは重々承知していましたが、私の頭の中には大きなクエスチョンマークがありました。

融資のプロセスはかなり簡略化されていました。既存のお客さんが生きるか死ぬかの話なので、とにかく早く手を打つ必要がありました。そこでの理由付けはすべて、「パンデミックによる一過性の赤字」でした。普段承認まで2週間かかる稟議が、この一言で3日で承認になるようになりました。でもこんなの私たちも知りませんでした。

本当にコロナが終わる日が来るのか?
この飲食店の業績が悪いのは100%コロナが原因であって、ほかに業績不振の原因はなかったのか?
コロナが終わったら、また人々は結婚式場で大々的にパーティーするのだろうか?
この融資は本当に10年後に返済されるのか?

私は何をしてるんだ?の図

融資プロセスの簡略化以外に私が納得できなかった点はもう一つあります。それは金利です。中小企業の緊急融資は国の保証付きだったので、銀行はノーリスクでした。そして、それにもかかわらず、なぜか普段は絶対に取れないような最高金利を取ることができました。それに気づいた各銀行は、「コロナ融資はぜひうちの銀行で」と取り合いのセールスを始めたのです。何かがおかしいという感覚が強くなりました。

そんな中、2020年の2月頃にドイツ政府からの奨学金が下りたとの連絡を受けました。これは大きな心の支えでしたが、奨学金だけあって大学院に落ちては元も子もないので、大学院の入試に注力しました。モチベーションレターの中には、私のコロナ融資に対するクエスチョンマークについても言及しました。それが良かったのかは分かりませんが、いずれにせよ私には具体的なストーリーがありました。

そして2020年10月から大学院で勉強できることが決まりました。オファーがきた6月時点で直属の上司に相談しました。当時、人材流出が激しかった銀行では新しい休職制度が導入された直後でした。この制度では、最長3年間、休職して留学、ボランティア、政治活動、起業などをすることが可能になります。休職なので給与は一切出ませんが、身の保証はされるので、とくに持病があった私にとってはバックアップとして悪くないものでした。また、社内留学の場合は留学後の復職を宣誓させるところが多いですが、この縛りもありませんでした。年次が足りなかったのでこの制度を使えるのか微妙でしたが、上司の力添えのおかげで利用することができました。この点についてはとても感謝しています。

9月に有給消化し、10月の学期スタートを前にドイツに渡航しました。留学については他の記事で詳しく書くので興味がある方はそちらへ。

2.ドイツでの仕事(学生時代編)


大学に入学して1年はパンデミックがひどかったこともあり特に仕事はしていませんでした。そして2021年の6月ころからWorking Studentのポジションを探し始めました。これは学生アルバイトのようなもので、いろいろな企業で週20時間まで働けるというものです。これも最初は簡単ではありませんでした。レジュメで落ちる、落ちる、落ちる。あまりにも落ちるので、ドイツでの転職経験がある友人(キャリアは10年上)に見てもらい、モチベーションレターからレジュメのフォーマットまですべて作り直しました。彼女からどのように魅力的なレジュメを書くかの基礎を教えてもらいました。これはとてもありがたかったです。国によって履歴書に写真をつけた方がよい、つけない方がよい、募集言語で応募する、英語でもOKなど暗黙のルールがあるので、日本以外で就職活動する際はお国ルールをきちんとチェックするのも大切だなと思いました。

それからはぼちぼち通ったりでしたが、依然として「日本語話者」であることが有利になる職場からしか返答がきませんでした。私はサステナビリティに関わることがやりたかったので、のどから手が出るほど欲しかったポジションも、今後のキャリアを考えて断ったりしました。そんな中、夢にまで見たGLS銀行(ドイツのソーシャルバンク)での求人が出ました。学生レベルの仕事はほとんど目にすることがなかったので、歓喜して応募しました。ドイツ人の友達にもネイティブチェックを入れてもらい、自分でビデオを作成し、送付。同時に大学の学部でも学生バイトを募集していたのでそちらにも応募しました。これは大学ではよくあることで、リサーチアシスタントで文献を探したり、まとめたり、という業務をこなす学生を雇うのです。

結果的に両方からOKをもらいましたが、私はGLS銀行でWorking Studentとして働くことにしました。これも人事がすごくて、私が応募したポジションには落ちているのです。しかし、ハンブルクでもこれから人が必要になるから、ということで直接CVを当時の上司に転送してもらい、そこから縁がつながりました。人事に求められているのはこういうことで、異動先ルーレットのメガバンとは大違いだとひしひしと感じました。ここでは一年半ぐらい勤務し、ドイツのワーキングカルチャーを身にもって体験することができました。

その後修士論文を提出した後はインターンを2つやりました。ドイツでいうインターンはフルタイムで勤務するポジションを意味します。もちろん賃金は正社員に比べて全く低いし、お客さんとコンタクトがあるかも職種によりますが、職務経験がない学生は特にインターンで経験を積むことが多いです。ここでは正直あまり労力をかけず、知り合いのつてで履歴書を直接会社内に送ってもらったり、大学とコンタクトがある会社でのポジションに応募したりしました。個人的な感想ですが、超大企業で働きたい場合のリファラルの強さははんぱないです。特にBig4で、履歴書だけでスクリーニングを通過するのは結構難しいと思っています。

3.ドイツでの就職活動


そしていよいよフルタイムの転職を考える時期がやってきました。休職していたメガバンクの方は、大学院で新しく修了した学位を考慮に入れてもらえない、休職期間は職務履歴としてノーカウントになるので昇進が2年遅れる、海外の支店勤務の場合サステナビリティに関係があるポジションは無く営業(RM)しかできない、本部に戻るなら東京に住む必要がある、など様々な条件の不一致で結局退職することとなりました。ここでもまたペーパーワークペーパーワークで、手続きをするたびに未練がなくなっていきました。

ドイツの転職活動ではLinked inを主に使ってポジションを探しました。基本的に人が足りなかったら求人が出るシステムなので、自分が就職活動をするタイミングで希望の求人があるかは結構運しだいなところがあります。私はSustainable finance、Sustainability management、ESGなどのキーワードを設定し、アラートをオンにしていました。Linked inのほかにはMonsterGreenjobsEnergy Joblineなども見ていました。また、職場の雰囲気や給与レンジを知るためにGlassdoorなども参考にしました。最悪日本に帰る場合に備えて、ヘッドハンターにも連絡を取っていましたが、ビザの有効期限もまだ1年弱あったので、とりあえず自分の市場価値を知るところで次のステップには進みませんでした。

おそらくウェブで応募した件数は30件くらいかなと思います。いまいち市場での自分の立ち位置がわからなかったので(新卒なのか?シニアレベルなのか?Referentにも応募できるのか?給与レンジは?などなど)CV時点でお祈りメールをもらった会社が大半だと思います。転職活動初期は志望動機不要の会社に絞って応募していましたが、(面倒くさいので)その後どうしても志望動機が必要で興味のあるポジションが出ていたので、ざっくりとしたテンプレートを作成して、そのあとはそれをリサイクルして応募していました。その結果1回目のスクリーニングに呼ばれたのが10件、その後最終面接まで進んだのが2件でした。でも最終面接に進んだ会社には志望動機は提出していないので、面接でのパフォーマンスが評価されていることがわかります。

一次面接:
1回目のスクリーニングは人事との自己紹介で済むところがほとんどです。今までの職務経験、大学での専門、会社にフィットするかを見られます。ただ、1社はチームのチーフも同席して1時間じっくり面接でしたし、ほかの会社はCEOが一発目でした。その場合は専門的な知識や、具体的なモチベーション、職場や上司に求めることなど具体的に説明が求められる場合もありました。人事と直接のセッションの場合は、具体的な福利厚生やリモート勤務の有無、社内の雰囲気などもフラットに質問することができるので、自分でもスクリーニングすることができました。

第二面接:
同じチームの上司と45分から1時間程度かけてのセッションでした。ここでは自分がアウトプットするだけではなく、自分が働くチームでの仕事内容について具体的なインプットを得ることができました。一日の仕事内容はどのような感じか、繁忙期は、チームとのコミュニケーションの具合はどうか、などなど詳細に説明してくれるので、就職した後のイメージを自分の中で膨らませることができました。また、ここでどうして自分がそのポジションに最適なのかも論理的に説明し、お互いにすりあわせの作業をする形でした。

その後:
第二面接後のプロセスは会社によってまちまちですが、私の場合はピッチが1件(そのチームに所属している前提で会社のプロダクトをピッチ)と、ダミー監査が一件(認証の監査をする会社だったので)でした。この段階でプレゼンやケースを求められることが一般的です。そしてケースについてのフィードバックがあり、最後の難関が給与交渉です。ドイツでは自分で給与交渉をする必要があり、その可能性は無限大です。私は労働ビザ取得のために一定以上稼ぐ必要があったので、それを材料に交渉しました。ドイツ人は結構ふっかける人が多いみたいですが、日本人的にはここで自信をもって自分の価値を発言するのが結構抵抗ありました。しかし、結果的に他のオファーの可能性があることなどを示すことで3000ユーロ(49万円ぐらい)年間もらえる額が変わったので、やって良かったなと思っています。事前に修士修了者新卒の平均年収や、Glassdooorで情報収集していたのも役に立ちました。ということで、最終的に満足のいく契約内容で転職活動を終えることができました。

ここで客観的に日本に帰った場合と今回の転職を比較してみたいと思います。

日本の銀行に帰っていた場合:
平社員2年半→昇進コース
年収約450万×2年→500~700万円×2年→その後1000万円に突入
という感じで、私は3年遅れになるので三十代半ばで1000万いくかなという見立てです。基本的にメガバンクの魅力は三十代に入ると年収が700万から1000万円に大幅アップするところですが、平社員の給与では寮に入って残業しない限り東京で余裕のある暮らしができるとはいえません。それをあと2年半やりたいかといわれると正直無理かなあというところでした。長期休暇はだいたい10日程度取るのがスタンダードで、もちろん祝日などは休みになりますが、本部勤務だとあまりその辺も関係なくなってくるので残業が必至なのは目に見えていました。というか、本部の人にメガバンクで意味のある仕事をしたいんだったら残業は当たり前とまで言われました。もちろんベネフィットプランやそのほか福利厚生は充実していますが、給与面でドイツのインターンと手取りがそんなに変わらなかったので(もちろん円安のせいが大きいです)なんだかなあという感じでした。

今回の転職内容:
端的に言って年収二倍になりました。もちろん円安の恩恵が大きいですが。。そして税金もドイツの方がとられますが。。ので、銀行で5年働いている同期を現時点で追い越す結果となりました。それ以外にもベネフィットが充実していて、在宅勤務用のデスク(高さが調節できるもの)や椅子、モニターなどもすべて支給になるのに加え、月150ユーロの年金保険、45ユーロの投資信託も預入、定期券なども会社持ちになります。また、有給休暇は資格取得のための休暇(1日)を含めて31日です。これは、年間で本当に取得できる休暇です。傷病休暇は別です。就業時間は週39時間で、基本的に残業しませんし、残業した場合は有給消化が可能です。フルリモートOKなので、世界中どこからでも働くことができ、コアタイムもないので自分で一日のスケジュールを組むことができます。

まあ大学院時代は特にお金を稼ぐわけでもなかったので、そこでの機会損失を含めるととんとんだったりするのかなと思いますが、今の状況に満足できていることが大切なので、私はこれでいいのかなと思っています。海外留学で本当に就職できるのか、年収や様々な迷いがある人にとって、まずは一例として参考になれば幸いです。


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