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入社式に行きたくない君へ

就職おめでとう
でもきみはなんだか不満足そうだ
思えばいろいろな人に話をきいたね
まずは民間で経験を積みなさいとか
働くなら官から民だとか
コンサルは潰しがきくとか
学問への道へはすぐに戻れるとか
いやいや就職したら簡単に戻れないとか
新しい視点を見つけるたびにきみは迷っていたね

きみはドイツが好きだったね
だからドイツの企業も1社だけ受けてみた
でも少しパッションが足りなかったね
それはそうさ、バイクになんてこれまでの人生で触ったことさえほとんどないから
それから、きみは政策投資銀行に行きたかったね
でも最終面接がうまくいかなかった
いまだにあそこで働きたいと思っているね
なぜなら尊敬すべき行員の人がいたから
きっと素晴らしいプロジェクトに関われると思ったから
でも今回は縁がなかったのも事実なのさ
そう思うしか仕方ないじゃないか
その代わりに他の銀行から内定をもらったね
だけどそこはなんとなくきみには合ってない気がする
たくさんの古い慣習がありそうだから
きみはいつも制服や、無駄な飲み会や、よくわからない上下関係を嫌っていたね
だけどそこにはそういったものが溢れているんだろうね
それに怯えているんだ

思えばきみはずっといい子だったね
勉強も習い事も、なんでも器用にこなしてきたさ
数学は少し苦手だったけどね
普通に勉強して、みんなと同じように大学まできた
大学でも良い成績をとれば、良いと思っていたね
レールに乗ってきたつもりなんてなかったはずなのに
自分がやりたいように進んできたつもりだったのに
今振り返るとすべてはレールの上だったのさ
きみは勉強がすきだったのかな
それとも褒められるのがすきだったのかな
迷っているね
言葉もそうさ
きみはドイツ語がたまたま性に合って
良いホストファミリーに巡り合って
響きがすきで、まだ勉強を続けている
でも最近迷っているね
言葉は手段のひとつであることを知っているから
本当は真心があれば言葉なんて通じなくてもどうにかなることを学んだから
就職活動で一度も評価されなかったから
きみにとって学問や、言葉は、一体なんだったんだろう

いまきみはある段階にいる
自分で自分に正解をつけてあげるところさ
何を自分にとっての幸せとするのか
銀行員として働くのも、進学するのも、海外に行くのも
全部正解で、全部不正解だ
今までは社会や他人が決めたルールに沿って、正解らしきものの近くにいればよかった
だけど、これからはきみが自分で正解にするんだ
きみは怖がっている
覚悟を決めることを
失敗して何かを失うことを
それに対して責任を負うことを
なんでもできる気がすると同時に
なにもできない気もする
学生時代、多くのことを達成したような気もするし
全ては周りのおかげで自分の成果はなにひとつなかったような気もする
そんな何者でもない、体ひとつしか所有してないきみは
自分の正解は何か、ずっと、ずっと、迷っている

ドイツ語で職業はベルーフ(Beruf)という
rufenは呼ぶで、beは受け身だから
つまり呼ばれているっていう意味さ
昔、職業は神に呼ばれたものだと思われていたんだって
だから農家なら農家、魚屋なら魚屋、肉屋は肉屋
同じ職業で働き続けていた
それが宿命だったんだよ
きみもそんなベルーフを見つけたいと思っている
生業と本業とか
そんな器用に分けらる性格ではないんだ
ベン図はおたがいに深く重なれば重なるほど理想的なんだ
でもその職業って一体なんなんだろう

思えば大学に入るときもなんだか憂鬱で
最初の一週間は泣いてばかりいたね
帰国子女が集まるような環境で、居場所なんか見つけられないと思っていた
住んでる場所が違うと感じてめまいがした
でも今はすっかりその環境が気に入っている
だから今回もそれと同じなんじゃないかって
心の隅の隅で楽観的に未来を見る自分もいるけど
でもやっぱり怖さが先に立つ

利益追及にも、お金にも、物にも興味がないのに
なぜかお金しか手に入らなさそうな場所へ
泣くほど嫌なら行かなければいいのに
きっとドイツのホストパパならそう言うだろう
変に生真面目で、日本人的な部分を捨てられない君は
きっと今にも泣きたいような気持ちで
白いYシャツにアイロンをかけて
何ヶ月ぶりかのリクルートスーツに腕を通すんだ

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