いい人認定法


20年以上前、アメリカにいたころ、
まだ幼気で、世間知らずだった。

そんな私が出会ったアメリカ人少女との話。



私は日曜日、授業はないが同じ市内にある別の大学へ行っていた。
それは水泳のためだ。

その大学の学生ではないが、学生であれば別の学校の生徒であっても
スイミングプール、図書館やPC等、大学の施設が使えたんだと記憶している。


で、日曜日は好きなだけ寝て、昼近くに起きてから出かける。

最寄りのバス停まで徒歩3分くらい、ダウンタウンにあるバスセンターで
乗り換えて目的の大学まで行く。


普段からそんな本数もないのに、日曜となれば本当に1時間に1本しかない。
時刻表はあるものの、あまり意味はない。

というわけで、バス停に設置されたベンチで待つのも、いつもの事だった。


だが、その日曜日はいつもとは違った。

1台のぼろっちい車がバス停の先に停まり、運転手が降りてきた。
そしてベンチに座る私に、どうしたのと声をかけてきたのだった。

私と同じくらい、もしくは年下に見えるブロンドの少女で
純粋に心配している様子だった。

私はバス停のベンチに座ってるんだから、
見たままでしょーと思いつつ
バスを待ってるよと返事した。


そうすると、彼女は本当に驚いた様子で、
信じられない。
日曜日にバスなんて来ない。
なんてかわいそうなの。

と、言い出した。


いやぁ、日曜日にもバス乗ってるし、時間は遅れても必ず来るよ。
それを彼女に拙い英語で言い返すも、全く聞いてくれない。

とにかく、彼女は自分が送るから車に乗れという。


いくら世間知らずでも、アメリカで見知らぬ人の車に、絶対に
っぜええええええったいに、乗ってはいけないことは分かる。


別にいいから、バスを待つからという断る私に彼女は言う。

もちろん、知らない人の車に乗ってはいけない
でも私は大丈夫
私は敬虔なクリスチャン
今は教会からの帰りなの

というと、彼女は私を車の方まで引っ張って行って
車のバンパーに貼られた、ステッカーを見るように言う。

確かに、なんとかチャーチのステッカーの様だけど。
そんな教会も知らないし、そんな言い分が通用するかぁ??

そういう意味で、この子大丈夫かなとちょっと怖くなった。

とにかく、自分に送らせろとしつこい。
全く折れない彼女に、
私は根負けした。


ええ、危ないと十分わかっている。
クリスチャンかどうかは重要ではないが、
相手は10代の少女だし、明らかに私の方が肉体的には屈強だ。


今思い返せば、愚かな判断だけど。
相手が銃とか武器を持っていないとも限らないし、
車に乗ってしまえば、どこに連れていかれてもおかしくない。

本当に知らない人の車には、アメリカじゃなくても
絶対に乗ってはいけません。


たぶん、好奇心が勝っちゃったんだよね。
猫がしぬやーつ。


とにかく、私は見知らぬクリスチャンの少女の車に乗ってしまった。


彼女は大学まで無事届けてくれた。
大学の駐車場に車を停めると、少し話をしようと言ってきた。

雲行きが、怪しくなってきたが。
日曜の大学とはいえ、人目もあるし、
ここまで来たからには、悪意はなさそうだけど。


彼女の質問に答える感じで、人となりとか学校で何勉強してるとか
少し話をした。

彼女は若くから荒れていて、ドラッグの乱用とかいろいろあったけど
今は更生して、教会にも真面目に通っている。
いろいろあったけど、神様が救ってくれたんだ~って話をしてくれた。

何を言われても、
知らない人の車には絶対乗ってはいけません。


アメリカじゃ見知らぬ人の車に乗ってはいけないが、
見知らぬ人を自分の車に乗せてもいけない。

ヒッチハイクは禁止されている
(アメリカじゃ州ごとに法律は違うけど、基本しない方がいい)


どうして私を送ろうと思ったのか、彼女に聞いてみた。

彼女の返答は、いい人そうだったからというものだった。
まぁ日曜日バスを待つベンチに座る10代アジア人は、
いい人かどうかわからないけど、悪い人ではあるまい。


なんだか思い切って、私は彼女に聞いてみた。
いい人(正直者)の基準って何?

彼女の答えは、




「週末でも、平日より1時間だけ遅く起きるひと」


びっくりした。そういう基準って考えたこともなかった。
私は大笑いした。

あなたの基準からすると私はいい人じゃないね。
今日も好きなだけ寝てたから。
彼女もいっしょに笑った。


最後にあなたのために祈らせて的なことがあったけど
全く不快に感じなかった。

そのまま彼女にお礼を告げて車から降りると、
私は大学のプールへ向かった。


その後の日曜日も同じバス停を何度も使っていたが、
彼女と2度と会うことはなかった。



模範的な生活リズムが模範的な人間をつくる

さもありなん。


















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