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【運用部コメント】投資と社会貢献~各国の主要株価指数とSDGs達成度の関係~

2015年に国連サミットで採択され、2030年までに達成すべき国際目標として直近日増しに注目を集めているSDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)。この注目の高まりに応じて、ESG投資や社会的インパクト投資といった社会貢献性を伴う投資へ世界的に目が向けられるようになっています。そこで今回は、一例として各国の主要株価指数とSDGs達成度の関係を考察することで、投資と社会貢献の両立可能性についてお伝えしていきます。

1. 仮説:株価指数とSDGsの達成度合いには一定の相関がある

昨年、2020年からの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、各国の経済活動を縮小させ、思わぬ副産物をもたらしました。2020年の世界の二酸化炭素排出量は、第2次世界大戦以降で最大である7%の減少となり(※1)、パリ協定が本格的に始動しました。こうした動きは、SDGs「13. 気候変動に具体的な対策を」の達成を近づけるでしょう。また、米国のバイデン新大統領が、副大統領や財務長官に初めて女性を起用したことは記憶に新しく、SDGs「5. ジェンダー平等を実現しよう」の具体策として象徴的です。

※1 BBC News Japan「世界のCO2排出量、第2次世界大戦以来で最も減少 新型ウイルス対策が要因」より( https://www.bbc.com/japanese/55271137

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SDGs達成へ向けた動きが以前にも増して盛んになるなか、2020年の株式市場はどうだったでしょうか。2020年3月のコロナショックにより底値を付けてからは、実体経済との乖離をよそに記録的な回復を見せ、世界的にバブルとも揶揄されるような株高となりました。

そのような状況下において一層注目を集めるのが、ESG投資や社会的インパクト投資と呼ばれる分野です。各国の金融緩和により余った投資マネーが流れる受け皿としても期待されています。一方で、ESG投資や社会的インパクト投資が、投資家へ真にリターンをもたらすか否かについては議論が絶えません。

ただ、SDGs達成に向けた取組みが盛んな国では、企業における社会課題解決のためのイノベーションや様々なステークホルダーに配慮した経営等が推進され、それに対して株式市場も好感を示すと考えられます。つまり、株価指数とSDGsの達成度合いには一定の相関があると推測できます。本稿ではこの推測を仮説として、各国のSDGs達成度合いをスコア化したSDG Index Scoreを用いて、各国の株価指数とSDGs達成度の関係を探っていきます。

2. 検証1:世界全体、新興国それぞれの株価指数とSDGs達成度の関係

SDG Index Scoreとは、英ケンブリッジ大学が2016年から発行している『The Sustainable Development Report』のなかで主に世界166ヵ国(※2)を対象として算出しているスコアです。SDGs17のゴールごとに、それがどの程度達成されたかを評価し、総合的なSDGsの達成度合いを国別に点数化しています。なお、上記のレポート表記に従い、SDG Index Scoreにおいては、“SDGs”ではなく“SDG”と記載しておりますので、予めご留意ください。

※2 具体的な各年の対象国数は、2016年149ヵ国、2017年157ヵ国、2018年および2019年193ヵ国となっています。

SDGs17のゴールの達成度合いの評価については、169のターゲットをベースに以下の3つの観点で閾値を設定して行います(『The Sustainable Development Report2020』「4.3 Methodology(summary)」より)。

① 絶対的なターゲットが設定されている場合、その閾値に基づき評価する
② 明確な閾値がないターゲットの場合、「誰一人取り残さない(leave no one behind)」という原則に基づき閾値を独自に設定し評価する
③ 2030年以降に達成すべきターゲットの場合、その年の時点で達成すべき閾値を科学的に逆算し評価する

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上の図表1にある対象各国のSDG Index Score平均値と株価指数の騰落率に基づく相関についての結果は以下図表2のとおりです。

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相関係数は0.418と算出され、正の相関となりました。一方で、SDG Index Score平均値の高い国には先進国が多く含まれていることも事実です。とくに2020年は、コロナショックによる新興国通貨の下落を背景に、米ドルベースでの騰落率では、先進国の方が新興国より全体的に高くなる傾向があります。

そこで、対象を新興国44か国に絞り、集計を行った結果が以下の図表3です。なお、ここではUnited Nations New York, 2020『World Economic Situation and Prospect』記載「Developed economies」として定義された国を先進国とし、母集団から除外しました。

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相関係数は0.382と算出され、こちらについても正の相関となりました。つまり、新興国に絞って見ていっても、各国の株価の騰落率とSDGsの達成度合いは正の相関があるといえるわけです。

3. 検証2:地域別の株価指数とSDGs達成度の関係

次に、地域ごとのSDG Index Score平均値と株価指数の相関を見ていきます。結果は以下図表4のとおりです。

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アジア・アフリカ地域で正の相関となった一方で、欧米では相関がみられませんでした。この結果を踏まえた考察をまとめると、以下のとおりです。

● アジア・アフリカ地域では、株価に影響を与える様々な要因の一つとして、SDGs達成に向けた取組みが株価の上昇を促す可能性がある。
● とくにアフリカ地域では、株価の上昇を促す経済成長を図るうえで、公共投資をはじめとした開発を目的とする政策とSDGs達成に向けた取組みとの両立が重要な位置を占めている可能性がある。
● 欧米では、SDGs達成に向けた取組みがアジア・アフリカ地域と比較して従前より盛んであり、相対的にSDG Index Score平均値が高い国が多い。裏を返せば、SDGs達成に向けた取組みを国として行うのが必須である旨の素養が既に形成されつつあるといえる。

4. 投資家の視点で見る投資と社会貢献

新興国株式への投資を検討する投資家の視点では、SDGs達成への取組みが盛んな国のインデックスへ長期投資することで、比較的高いリターンを得られる可能性があります。また、アジア・アフリカ地域の政策主体にとっては、SDGs達成のための施策を推進するインセンティブの一つに、自国の株価上昇が挙げられる可能性がある点も考慮したほうが良いでしょう。

なお、新興国クレジットへの投資においては、手前味噌ながら当社クラウドクレジットがSDGs達成へ向けた事業に取り組む貸付先(海外資金需要者)への融資を通じて、社会的インパクト投資を積極的に推進しています(※3)。

※3 クラウドクレジットが取り組む社会的インパクト投資について、詳しくは以下をご覧ください。

いまだ新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの影響で先行き不透明感が色濃い情勢ですが、SDGs達成期限である2030年まで残り10年を切った今、SDGs達成に向けた世界一丸でのより一層の努力が求められています。当社クラウドクレジットでは、投資と社会貢献、具体的には社会的インパクト投資を引き続き積極的に取り組むとともに、経済的なリターンと社会的なリターンの両立可能性を様々な角度から分析し、投資家の皆様にお伝えしてまいります。

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