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【運用部コメント】4つのポイントで見極める新興国通貨の将来性

直近は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックに伴い、世界的に景気減速や景気後退を大いに懸念される現実として受け入れざるを得ない状況にあります。こういった局面においては、かなり大雑把に市況判断してしまいがちです。しかしながら、こうした時こそ、丁寧に観察することで投資機会を見出せる可能性があります。そこで今回は、新興国通貨につきまして、4つのポイントに基づいてその将来性を考えていきます。

世界的な景気減速や景気後退で新興国通貨が大枠において売られやすい理由

新興国通貨の多くは国内経済の基盤が不十分であり、政府部門と民間部門ともに資本の蓄積が十分でなく、また資金不足の傾向にあります。そのため、企業の設備投資や政府の公共投資などは、国外からの借入れや投資に大きく依存しています。国外からの借入れが増えると、対外債務残高が増加し、それが政府部門であれば財政赤字が拡大します。また、国内の貯蓄投資バランスが投資超過(貯蓄不足)の場合、一般的に経常赤字になります。

つまり、対外債務残高と双子の赤字(財政赤字と経常赤字)が大きい新興国は、外国資本への依存度が高く、世界的な景気減速や景気後退が起きた際、資本流出による通貨安に見舞われる可能性が高いのです。新興国の対外債務の大半は米ドル建であるため、ひとたび資本流出が起こると、国外資本への依存度が高い新興国通貨は米ドルに対して急落することになります。今般のコロナ・ショックをきっかけとした世界的な景気後退期にもファンダメンタル(経済の基礎的諸条件)が脆弱な新興国通貨は対ドルで大幅に下落しております(グラフ1)。

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4つのポイントで新興国通貨を選別、要注意通貨を確認

新興国投資において通貨選択は非常に大事になりますが、それには投資対象国のファンダメンタル(経済の基礎的諸条件)をチェックすることが不可欠になります。では具体的にはどのように投資候補国のファンダメンタルを見ていけばよいでしょうか。基本的には下記の4つのポイントを把握することが肝要だと考えられます。

① 経常収支/GDP比率:大幅な赤字は国内が貯蓄不足であるため要注意
② 純政府債務/GDP比率:国力に比べて国外資本への依存度が相対的に高い国は要注意
③ 外貨準備高/短期債務比率:外貨準備高が少ない国は対外債務の支払いに懸念がある
④ 消費者物価上昇率(対前年比予想):伸び率が急上昇している通貨は売られやすい

上記の4つのポイントを、各々実数値の推移と、それを標準化したものを9ヵ国についてみてみましょう。ここで標準化した数値を見るのは、9ヵ国の中での各通貨の強弱感を相対的に見るためです。標準化した数値は大きいほどその通貨にとって相対的に有利な条件になる一方、小さいほど不利な条件になります。各グラフは標準化した数値の推移を示しています。

ポイントごとに新興国9ヵ国を比較すると・・・

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タイは経常収支が安定的にプラスであり、貯蓄超過になっていると考えられる一方で、ブラジルとインドネシアは経常収支の赤字が続いています。

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タイの政府債務は限定的である一方、南アフリカは政府債務の赤字は趨勢的に増加しています。

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ロシアは潤沢な外貨準備を有しており、資本流出に対する耐性が高いと考えられる一方、トルコや南アフリカは資本流出に対する十分な資金の備えが乏しいと考えられます。

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トルコは慢性的に極めて高い物価上昇率に悩まされていますが、その他の国の物価上昇率は安定的に推移しています。

4つのポイントを標準化した指標で比較する新興国9か国の通貨の将来性

上記の4つのポイントを標準化した数値(※)の合計値の推移をみてみましょう。これは各通貨の強弱感を表したものといえます。

※ 「標準化した数値=(各データ-全データの平均値)÷全データの標準偏差」で算出しており、標準化を行うことにより、単位や平均値などが異なるデータ同士を単純に比較できるようになります。

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上記グラフを見ると、相対的に強い通貨と相対的に弱い通貨の位置づけは時系列的に見て、比較的安定的に推移しているということが分かります。タイ・バーツは相対的に強い通貨の地位を保つ一方、南アフリカ・ランドやトルコ・リラは相対的に弱い位置に甘んじています。

今後ともこの位置づけはそう簡単に変わるものではないと考えられます。なぜなら一国のファンダメンタルは一朝一夕に変わるものではないからです。しかしながら冒頭で述べたように新興国は外生的なストレスに脆弱であることが多いので、ファンダメンタルの急激かつ大幅な変化が起きていないか定期的に各ポイントをチェックすることが大事です。

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