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ミステリーとしてのガールズバンドクライ〜桃香の「空の箱」に今何が入っているのか〜

ガールズバンドクライについては、物語の当初から桃香の仁菜に対する態度について疑問を持っていた
桃香は仁菜をどう思っているのか
それは一見明白な様でいて、裏に隠されたものがあるのではないかと

その疑問はその後も解消されることは無く、それがどう解消するか気になることも、このnoteに書き続ける動機になっている

そしてその疑問は、桃香が脱退宣言をした第七話現在、重大な意味を持つのでは無いかとすら思えている

大きな問題を抱えた桃香の心というブラックボックスを解き明かす
今はガールズバンドクライという物語を、そんなミステリーとして楽しんでいる

1)桃香の変節

一話において桃香はバンドで身を立てる夢破れ、故郷に帰るつもりだった

高校のバンド仲間と共に上京し、大手の事務所にも認められてメジャーデビューも決まったが、その事務所の方針をメンバーの中ただ一人だけ受け入れられず脱退、ソロ活動をしていた
しかしソロでは未来が見えず、最後の路上ライブを終えた

それを一人のファンの少女、仁菜に引き止められるところからこの物語が始まっている

自分の曲を歌う仁菜の歌を聴き、桃香は帰郷をやめ、更には仁菜をバンドに誘う

仁菜はバンドがやりたくて上京した訳ではなかった
それでも桃香は仁菜をその気にさせ、ドラムのすばるもバンドに加入させる

桃香は仁菜に言う
「勉強は頑張るとしてバンドもやってみないか」
「良いボーカルだと思うんだよね」
「自分だけじゃ出来ないモノを自分以外の人と生み出すって(楽しい)」
「自分がボーカルじゃないバンドやってみたかった」
「本気だよ」

桃香は仁菜をボーカルに据えた新たなバンド活動を期待し、仁菜にその気が無くても、勉強を続ける中途半端な状況であろうともやろうと誘い、その為に新たな仲間も見つけてくる

桃香のソロ活動、その夢破れたら帰らざるを得ない活動はプロとしての活動だろう
実際、仁菜の上京を自身がプロになる為に退路を断ち上京して来たこととだぶらせている
それを続ける事を求めた仁菜との活動は、当然、プロとしての活動を意識していると考えるべきだ

しかし、桃香はある時から変節する

仁菜がプロを意識し、更に都合よく、足りないとしていた鍵盤とベースからのメンバー加入希望があった頃から、まるでそのままプロになるのを嫌がる様な態度を取り始める

桃香の望みは仁菜達と共にバンド活動を続けること、つまりプロになる事ではなかったのか

桃香は言う
「このバンドを背負ってプロを目指す気にはなれない
「私の作る曲じゃプロの世界では通用しないからだ」

それは以前言っていた事と完全に矛盾する
この言葉をそのまま信じて良いのか
桃香の本当の心は一体何処にあるのか

2)メンバー達の認識

桃香が態度を硬化し、新メンバー加入についても明確な答えを出して無い頃、桃香の態度の理由についてメンバー同士でも語り合っている

すばる曰く「桃香は2人居る」

自信のある桃香と自信の無い桃香
音楽に真摯であるからこそ臆病になる事もある
桃香は新メンバーが入り本格的にプロを目指す体制ができる様になったからこそ、改めてプロへの道に自信が持てなくなったのだと

それはそれなりに説得力はある
一度挫折した者の心の傷の深さは計り知れない
その同じ境遇に再度立ち向かう段になって改めて臆病に捉われてしまうというのはあり得る事だろう

しかし、それも奇妙だ
そもそも桃香は、実は自分の音楽で挫折したという経緯は語られてない
ダイダスで自分の音楽をやり、それを大手事務所に認められててデビューに漕ぎ着けた
事務所の方針によりその音楽性を変えられる事を拒んだだけで、自分の音楽がそのままでより大きな世界に通用するか、しないか、はまだ試してはいない筈だ
だからこそ、一人で川崎駅前の活動に戻って再起を図ろうとしてたのではないか
そしてかつてのバンド体制が無いソロの状態の中で挫折しそうになっていた

しかし、仁菜というボーカルとの出会いにより新たにバンドを組み直し、再度夢に挑戦するつもりになったからこそ、仁菜をバンドに誘ったのではなかったのか

3)桃香の挫折

しかし、この認識もまた違うかもしれない
桃香の過去はまだ完全には明らかになっていないからだ

桃香はかつてのダイダスでどの様な活動をしていたのか

桃香がダイダスの仲間と共に上京したのが3年前だとして、セルビアンナイトのオーナーとの再会期間が「2年経ってない」という事は、上京一年を過ぎた頃には大手事務所から声がかかっていたと推測される

その後、まだデビュー前なのに現在のダイダスのプロモーター主催によるライブをやろうとしている
それは仁菜がチケを取ったが開催しなかったという阿蘇公演だ
この公演はその値段からもまだインディーズと同等の扱いを受けていると思われるが、よりにもよって新幹線も通らない阿蘇となっている
実際のところ、インディーズ同然のバンドのファンを阿蘇に集めるのはかなり厳しいだろう
これが全国ツアーだったとすれば、それこそ全国津々浦々、所謂ドサ周りの営業活動の様な事を事務所からさせられていた可能性はある

事務所に所属して支援を受けて技術力の向上やプロモーション方針を検討する
しかしプロモーション方針には桃香が先頭に立って従わなかった為、マイナーのライブをやらせて自分達の実力を思い知らされる
そんな事があったのかも知れない

このツアーそのものが事務所の何らかの思惑によるものであった可能性はかなり高い
そして、心折れたメンバーは事務所に従い、桃香は脱退した

その結果中止となった公演は「真夏のダイヤモンドダスト」と題されていることから夏公演だろう
仁菜が既に「空の箱」を聴き、この公演チケを手に入れていることからも、半年前の夏であった可能性が高い
仁菜が不登校になり結局退学、ヒナがオーディションに受かってダイダス再始動までの期間が半年というのは少し短くも感じるが、更に一年あったとするのは長過ぎるだろう

ともあれ、ダイダスは最大で一年半に及び、その活動で自分達の音楽がそのままではプロに通じない事を思い知らされて来た可能性はあるだろう

桃香はプロの世界での挫折を心に刻みつけているかも知れない

4)桃香の止まった時

となれば、桃香はダイダス脱退後、仁菜に会うまでの半年間、何を考えて川崎に居たのだろうか

ソロのCDを作っている事からも、ソロでの音楽活動をしていたのは間違いない
しかし、元々バンドとして上京して来たのに、再度バンドを組むという事は考えなかったのだろうか?

それはやはり挫折が心にあるからこそ、自信を持ってメンバー集めをする様な心境にはなっていなかったのかもしれない

そして、この川崎に居て、SNSで路上ライブの情報を発信していたとするならば、ダイダスの他のメンバーが接触するチャンネルを常に開けていたという事だ
メンバーがやはり事務所の方針について行けず、戻ってこれる場所を残しておきたかったのかもしれない

そう考えると、桃香が音楽の夢を諦めて帰郷しようとしたのが、ダイダスのメジャーデビューが決まった時期であったのも理解出来る
桃香は挫折して心折れ、しかしメンバーとの再結成だけを夢見て、正に未練として留まり続けたことになる

…と推測していく事は出来るのだが、この心が折れた桃香というのも改めて考えてみると、やはり奇妙に感じてくる
プロに通用しない現実を突きつけられて、半年間もの間未練で残り続けた桃香
そんな桃香は、物語の当初、仁菜に対してロックを語る桃香とは全然違う
桃香に二面性があると言うすばるの立てた推測で辻褄は合うが、ここまで大きな違いを抱えられるくらい器用なら、そもそも事務所の方針に従ってデビュー位は出来たのではないかと思える

桃香は桃香なりにロックで不器用で基本的にウソもつけない
仁菜に対して無言でいる事は出来ても嘘がつけないから切羽詰まった状況の脱退に至った様に思える

5)ダイダスとの関係

見方を変えて、桃香と今のダイダスの関係性について考えてみる

「よくある喧嘩別れ」
「最後まで残る様に説得された」

喧嘩という言葉を使ってはいるが、そもそもバンド内での衝突は日常茶飯事だったらしいので、完全な亀裂が入っているかはわからない

公演が中止になった経緯がある事から、それが桃香脱退が原因である可能性は高い
しかし、元インディーズの地元から遠く離れた地での公演は事務所の嫌味な意向を感じさせ、それをドタキャンした責任をメンバーに負わせているかは何とも言えない
契約にもよるが公演の責任は基本的にプロモーターが取るものであり、まだデビューもしてないメンバーの意向に沿わない公演の責任を負わせるとも思えない
元より中止が織り込み済みだった様にも思え、しかしメンバーに精神的なプレッシャーを与えて何らかの条件をつける為の策略だった可能性はあるだろう
そういった点からも、事務所と桃香は喧嘩別れをしたと捉えて良いだろう

しかし桃香がダイダスの行く末を案じている様子が幾度も描かれている事からも、両者の関係が最後まで良好だった可能性は高い

アイドル路線を受け入れてもデビューしたいと望む他のメンバーの希望を叶える為、桃香の脱退という我儘は、桃香が持つダイダスの全ての権利を放棄するという条件で認められたのだろうと思われる
その権利の中には、桃香が作ったとされている「空の箱」の権利も入っていたに違いない

桃香は一人脱退し、ダイダスメンバーは桃香の権利を貰った
両者は互いに負い目を感じる様な間柄だったのかもしれない

6)桃香の活動

いや、そもそも脱退後半年もの間、両者に接触は無かったのだろうか
桃香の活動はSNSで筒抜けだった
両者は袂を分かったとはいえ、再度接触して別の形で関係を作っている可能性は無いか

桃香の活動は不明な点が多い
テッシュ配りのバイトをしている様子が窺えるが、それは都会で長く生活する者のバイトとしてはかなり脆弱だ
一度長く続けていたバイトを辞めた様だが、そのバイトに戻ったとは思えない

そして、桃香は仁菜達とのバンド練習以外の時にギターを背負って自宅に戻る様子がある
それは自主練をしにわざわざ外出しているのだろうか
もしかしたらギターを使う何らかの活動をしている可能性はある

いや、桃香は「空の箱」を作ったことからも、元々ダイダスのバンドマスター的な立ち位置であった可能性が高い
ならば、桃香は今でもダイダスのメンバーに請われてバンマスの様な事をしているのでは無いか

その中で、新たに入ったメンバー、ヒナについての助言を行っている可能性もあるだろう
そう考えると、桃香は仁菜にとっての仇敵を育てたのかも知れない

ともあれ、こんな状況があったならば桃香が挫折を味わっていながらも半年間川崎に残った理由になるかもしれないし、ダイダスのメジャーデビューに合わせた帰郷にも納得ができる

7)プロモーター桃香

桃香が新たなダイダスの助言役をしていたとすると、仁菜に会った頃の桃香の言動にも納得がいく
元メンバーを通じて新メンバーのヒナの問題点にも助言していたとするなら、圧倒的なロックシンガーの素質を持つ仁菜にも大いに興味を持ったであろう
もしデビューギリギリのヒナに問題があり、またメンバー交代みたいな懸念があったとすれば、その代役として考えるなんて事もあったかもしれない

いやそんな事が無くても、桃香はダイダスと関わる事で、自分が脇役にまわり新たなロックシンガーを育てることの楽しさを感じていたのかもしれない

桃香は、最初から仁菜を育てるためにバンドを開始し、仁菜ありきで行動し、しかしその活動が楽しくて、仁菜がもっと育つまではとプロになる夢を持った仁菜の意志を黙殺していたのかもしれない

桃香は既に脱退を決意していたであろう頃にもプロを意識する仁菜に対して嫌味を言っていた
一緒にバンドをやろうと誘っていたバンドメンバーに対して、普通はそんな態度を取らないだろう
しかし桃香は最初から仁菜を育てるためだけにバンドに誘っていたのかもしれない
そう考えると、瞬く間にプロを意識する程に成長した優秀な弟子、仁菜に対してならそんな嫌味も言えたのかもしれない

8)二人の桃香

しかし、そのバンド活動が活発になり、桃香が元ダイダスメンバーとして客を集めてしまうと、問題が生じる

ダイダスの権利を放棄した桃香がダイダスをダシにして売り込みをする事は明らかなマナー違反だ
何より元メンバーからも良く思われないだろう
桃香が現在のダイダスに深く関わっていれば、二つのバンドに二股をかけているのも同然だから一転して非難されるかもしれない

それこそが桃香脱退宣言の理由では無いか

桃香は2人居る

それは心の強い桃香と弱い桃香では無く、現ダイダスサポーターとしての桃香と仁菜のプロモーターとしての桃香

その二つは両立できる様でいて、桃香にとっては両者に耐え難い不義理を与えてしまうものと感じており、その二股が発覚してしまえば、両方共に辞めざるを得ないと覚悟していたのかもしれない

セルビアンナイトにおける新川崎(仮)のライブは出来過ぎだった
元ダイダスの桃香の知名度と共にある一定の業界には広く喧伝されたのかもしれない

そしてその情報は当然現ダイダスのメンバーにも届くだろう
桃香の行動はダイダスメンバーにとって不義理と映り、既にメール等で責められているかもしれない

現ダイダスの大手事務所にとっても、桃香が元ダイダスとして表に出て活躍するのは好ましくないだろう
それは仁菜達のバンド活動に悪影響を及ぼす
桃香としてはバンドを脱退する選択肢しか考えられなかったのかもしれない

桃香がダイダスを脱退する前に作った曲「空の箱」は、その当時の桃香の心境を映したものだろう
その桃香の「空の箱」には、今、一体何が入っているのか
興味が尽きない

9)うたかたの夢

とまあ桃香の行動について妄想ともいえる推測を並べて立ててきたのだが、今は七話終了現在
よく考えてみると、この文の命はあと数日、八話の放映によって終わってしまう事だろう
本当なら、更にすばるとの関係とか新メンバー二人の想い、ヒナの心境とかの推測も書きたいのだが、ほぼ脱線な上に時間がどんどん経っていくので割愛する

ともあれ、この推測が当たっているかは、あまり問題では無い
リアルタイムで作品を観て、大いに推測をする楽しみがある事こそが、こういった作品の醍醐味と言えるだろう

いっそ、ここに書いた妄想の全てが外れ、思いもよらない展開になる事をこそ期待したい

実に書いていて楽しい感想だった

おわり


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