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東京スカパラダイスオーケストラというバンドについて(1)

はじめに

東京スカパラダイスオーケストラ(以下スカパラ)というバンドがいる。おそらくどこかで耳にしたり、その姿を見たりしたことがあると思う。お茶の間にスカ、もう少し言うとブラスの面白さを浸透させることに成功したバンドだ。おそらく、知らないという人の方が少ない、のではないだろうか。

たとえばこの辺りは20年ほど前の楽曲ではあるが、当時テレビへの露出が多かったこともあり、知っているという方も多いのではないだろうか。

近年だと「Paradise Has No Border」のヒットが耳に新しい。

特に後者に顕著だが、一般的なスカパラのイメージは『なんか楽しそうに楽しそうな曲を演奏するおっさん達』ぐらいのものじゃないだろうか。あとはとにかくコラボが多いため、よく有名歌手のバックをやってる人ら、ぐらいに捉えている人も多いかもしれない。

とはいえそこは30年選手。今のようになるまでに様々な変遷と偉業を成し遂げてきたということがあまりに知られていないような気がするため、ここに書き記していきたいと思う。

1.トーキョー・スカ

彼らがやっている音楽はスカ、という。ジャマイカの、60年代半ばの、ジャズやカリプソに影響を受けた、と長々言ってみても仕方ないのでものすごくざっくり言うとジャマイカのジャズで、レゲエの元になった音楽である。『ッチャ、ッチャ』と聞こえる、裏打ちと呼ばれるリズムが特徴で、英国をはじめ各国に強い影響を与えてきた。日本もその一つである。

ただ、スカパラがやっているのはスカであってスカではない。『トーキョー・スカ』である。

たとえば60年代式のルーツ・スカを『オーセンティック・スカ』といい、70年代末期になるとリバイバルとして、ポストパンク・ムーヴメントの一翼を担う『2トーン・スカ』(バンド内に白人と黒人がいた事からこう呼ばれる)、80年代後半には『スカコア(スカ・パンク)』といった流れやムーヴメントがあるのだが、スカパラの音楽性はそのどれにもあてはまらない。

スカというのはシンプルな音楽である。要はリズムが裏打ちであればよく、ざっくり言ってしまえばあとはどう調理してもよい。

スカパラは結成当時、すでに活動していたスカ・フレイムス(彼らはオーセンティックのスカをやるバンドで現在も活動中)を観て、自分たちは違うタイプのスカをやろう、と決めた。

スカパラのその、『トーキョー・スカ』という音楽性は、一言で説明するのなら『ミクスチャー』である。一般的にはミクスチャー・ロックなどと呼ばれる場合、Red Hot Chili Peppersのような、ヒップホップとハードロックやパンクを混ぜたもののことを指すことが多いが、スカパラは基本的にスカと他の音楽を混ぜながら、自分たちの音楽性を確立していくことになる。

スカパラは自身でこそそう言わないが、デビューのタイミングなどもあり、所謂『渋谷系』カルチャーに近いところにいたバンドである。90'sの、東京クラブ・カルチャーでライブやDJを繰り返しながらバンドとしてのキャリアを重ねてきた彼らは、ダンス・バンドであるということ、そのためのリズムは裏打ちであること、だけを信条に、それ以外のことについては貪欲に吸収していった。

当時のスカパラは、フロントマンのクリーンヘッド・ギムラの異様な存在感もありある種の色物的な、それでいておしゃれという独特の存在感を放っていた。今のようにわかりやすくお茶の間のヒーロー的な存在ではなかったものの、特に金管、スカパラ・ホーンズがセッション・ミュージシャンとして果たした功績とあたえた影響はあまりに大きいものがある。

初期、90年代のスカパラが聴きたいのであればまずはベスト盤、『Moods for Tokyo Ska (We Don't Know What Ska Is!)』がいいだろう。アルバムを再生して一発目に飛び込んでくる「ペドラーズ」(テトリスで知られるあれだ)の未発表ライブ・テイクに衝撃を受けてほしい。当時の勢いあるインストを中心に組み上げられた選曲は本当に素晴らしく、ラストもまた未発表の、「Mr. Mystery Shuffle」と「信濃町シャッフル」が胸を打つ。

90年代後半、レコード会社の移籍、そしてフロントマンの交代などによる様々な実験を経て、スカパラはさらに大きな、面白い存在になっていくのだが、それについてはまた次回。

投げ銭してくれると小躍りしてコンビニにコーヒーを飲みに行きます。