東京スカパラダイスオーケストラというバンドについて(5)

10.アルバム『Paradise Blue』と9人のスカパラ

スカパラは9人になって初めてのアルバム・タイトルを『Paradise Blue』と名付けた。

『ロックのない』スカパラによる、オーセンティックなスカをメインとした『渋い』アルバムである。

これが本当にすばらしい。常に変化し続けてきたスカパラ(せざるを得なかった場合もありつつ)だが、『歌もの三部作』を繰り返してみたり、どうしても守りに入ったり手癖を感じさせてしまったりということはあった。

今回は冷牟田竜之の脱退、9人のスカパラによる再スタートとして、デビュー前からあったレパートリーであり、シンプルな3コードのブルース・ナンバーを表題曲に据え、再度UK DUBの巨匠であるDennis Bovellと3曲でタッグを組むなど、オーセンティックなスカ、レゲエ文化に接近しながらもスカパラならではといった楽曲が並ぶ、奥ゆかしくも攻めのアルバムである。

アルバム・リリース・ツアーには僕も参戦(余談だが、スカパラは『闘うように楽しんでってくれ』というMCをするため僕もこう言うことにしている)した。

またライジングの時のようになるのではないか、という不安は不思議とあまりなかった。アルバムが良かった、というのもあるだろう。

入場SEがこれまで使っていた「スエーデンの城」ではなくなりツアー専用のものになっていて、そこからまず、今回のツアーは気合いが違うのだな、と思った。久しぶりに観た9人のスカパラはもう『スカパラ』になっていて、いつもの、いつも以上のパフォーマンスで客席を沸かせてくれた。

ライブ本編は、表題曲「Paradise Blue」で始まり「Paradise Blue」で終わった。再出発となったスカパラにとって『Paradise』という単語はきっと特別なものであっただろうし、その楽曲はデビュー前からのレパートリーをアレンジしたものだ。3コードのシンプルなブルース。初心に返りながら、これまで入れ替わってきたメンバー達を思いながら、スカパラは演奏し続けていく。

何度も考えたけど 天国はどこかわからず
夕焼けの街をさまよい 明かりが灯るのを見て
その数を数えてた
(東京スカパラダイスオーケストラ「そばにいて黙るとき」より)

11.試行錯誤

何度か書いているし、こうやって回を重ねていることからもわかると思うが、スカパラは変わり続けるバンドである。それでいて9人編成のオーケストラという、維持にコストがかかる存在でもある。いくらavex傘下の所属とはいえ、2000年代後半からのCD不況をもろに食らう形で、スカパラの活動は難航していく。

わかりやすいところでは、奥田民生との再タッグ、というのがある。結局セールス的にも知名度的にも「美しく燃える森」がピークだった、というのを認めざるを得ず、わかりやすく二匹目のドジョウを狙った形になる。

とてもいい曲なのだが、一方でベースラインが「国境の北、オーロラの果て」のセルフ・パロディぽかったりと今ひとつスッキリしないところは残る。

一方で、同じコラボでもスカパラ本来の本領であるインストで勝負しよう、と制作されたのがミニアルバム『Goldfingers』である。

(※CD盤は一曲目に「水琴窟-SUIKINKUTSU- feat.上原ひろみ」が収録されている)

上原ひろみや菊地成孔といった名手とコラボし、いつもよりジャズ色を強めつつも一方で中田ヤスタカ(!)やSunaga t experienceによるリミックスを収録するなど、かなり野心的な仕上がりとなった。メンバー谷中敦が敬愛するFrank Zappa(谷中敦セレクションのコンピレーションも出ている)のカバーが収録されているのも印象的だ。

12.アルバム『Walkin'』と『欲望』

しばらくの間スカパラはミニアルバムを中心に制作していく。中でも『Goldfingers』の「水琴窟」などは対照的に歌もの、それもスカ界のレジェンドのひとりと言っていいAngelo Mooreとコラボしたスカ賛歌「All Good Ska is One」など、充実した楽曲が並ぶ。

そうしてスカパラは、リリースした三枚のミニアルバムからの楽曲を中心としたアルバム、『Walkin'』を発表する。

Miles Davisの演奏で知られるスタンダードをタイトルに、Charles Mingusのナンバーやスタンダード「Brazil」を収録とやはりジャズ色を強める一方、Mano Negraやソロ活動で知られる英雄Manu Chaoとのコラボや、EGO-WRAPPIN'の中納良恵をフィーチュアしたフリーソウル的ナンバー「縦書きの雨」などもあり、インスト面でも70年代風のレトロな側面が顔を出すなど、どこか大人な一枚である。

それから約八ヶ月、驚異と言っていいスピードで次のフルアルバム『欲望』がリリースされる。

『Walkin'』がそれまでの集大成的な作品であったのに対し、ほぼ完全新作、ツアー先のロンドンとバルセロナで行なわれた録音では機材がまともに動かないなどのトラブルに見舞われつつも一発録り、ととにかくスカパラの体力、豪腕たる所以が現れた作品となっている。

メンバーは「アルバム『Walkin'』の感想で『スカパラも大人になったね』と言われ、いや、俺たちはまだ落ち着いてない、落ち着くような年齢じゃない」と反発した、といった旨の発言をしている。かなり意識的に『Walkin'』との差別化を図ったと見られ、たとえば同じ中納良恵をフィーチュアするにしても今作の楽曲はかなり『攻めた』ものになっている。

こうして、体力、地力、そういったものを見せつけるように充実の作品を生み出していったスカパラの『大人げなさ』が、良くも悪くもバンドを次のフェーズに連れて行くのだが、それはまた次回に。

投げ銭してくれると小躍りしてコンビニにコーヒーを飲みに行きます。