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東京スカパラダイスオーケストラというバンドについて(2)

2.杉村ルイとアルバム『ARKESTRA』、「ルパン三世」

後のインタビューなどを読むと、レーベル移籍の条件は『ヴォーカリストを加え、歌ものでシングルを切る』というものだったらしい。スカパラにはかつてのフロントマン、故クリーンヘッド・ギムラの弟、杉村ルイが加入することになる。

この杉村ルイというヴォーカリストには独特の存在感があり、彼と作ったアルバム『ARKESTRA』はテクノに接近していたスカパラ・サウンドとも相まってキャリア中でも他に無いものに仕上がった(「光」など名曲も多い)のだが、ヴォーカリスト/フロントマンを固定することによってバンドのカラーに統一感が出てしまうことを嫌ったスカパラは、今作のみで杉村ルイをメンバーから外す判断をする。

振り返って杉村ルイの歌ものもすばらしいのだが、当時のスカパラで勢いを感じさせるのはやはりインスト曲である。

当時、彼らの代名詞であった「ルパン三世 '78」(特に吹奏楽経験者などはこの曲のイメージが強いと思う)、ライブを熱狂の渦に落とし込んだ必殺のナンバー「火の玉ジャイヴ」、こうして少しずつ世間が思うような、『パワフルなダンス・ミュージック・バンド』としてのスカパラが出来上がっていく。

3.JUSTA RECORD

一方で彼らはレーベル移籍後から『JUSTA RECORD』というサブ・レーベルを立ち上げ、スカに限らないクラブ・ミュージックの可能性とファン達への啓蒙を届けてきた。

当時の活動は概ねこのコンピレーションにまとまっているが、7インチ・アナログ盤のリリースなどを中心として、クラブ・ユースを強く意識していたであろうことがわかる。

UK DUBのレジェンド、Dennis Bovellとの親交が始まったのもこの頃からだ。

他にもJUSTA RECORDでは雑誌やコンピレーションを通じて、『スカパラで初めてスカという音楽を知った』という人向けの啓蒙活動を強く行っていた。

結果から言ってしまえばあまりそれは成功したとはいえないだろう。たとえば僕のようなマニアをいくらか生んだかもしれないが、あくまでもスカパラはスカパラとして有名になっていき、それはたとえば、もう少し後になってからASIAN KUNG-FU GENERATIONが洋インディ・バンドの国内での地位向上を狙って積極的に招聘したものの今ひとつ効果を得なかったことにも似ている。

4.シリアスでハードボイルドな『FULL-TENSION BEATERS』

当時、スカパラの内情は大変なものだったと聞く。メンバーの急逝や脱退、サポート・メンバーを加えながらのライブ・ツアーにレコーディングと忙しさを極めていた。当時のツアー名『荒野を走る』はおそらくそんなつもりで付けたわけではないと思うのだが、結果的にはまさに、という感じになってしまった。

初期のどこか間の抜けた、ユーモラスな大道芸人的な味わいから、バンドは急速にシリアスになっていく。この時のキーマンが冷牟田竜之(アルトサックス/ギター/アジテイト)である。

『とにかくアルバムを作り、前に進めなければならない』として、当時フロントマン不在だったスカパラの舵を取り、彼の趣味性、興味が強く出た作品のリリースが続く。

映画監督へのトリビュートをマジ顔でやった結果、スカパラのヤクザ顔がキマりすぎてちょっと面白くなってしまった「フィルムメイカーズ・ブリード ~頂上決戦~」を始め、冷牟田竜之が持つロックの精神が強く現れることになった。

スカパラの面白いところは、基本的に『ミクスチャー』であって『ミクスチャー・ロック』ではない、『ダンス・バンド』であって『ロック・バンド』ではないところにあるのだが、この時期は唯一例外的というか、彼らが最もロックに接近していた時代だったと言えるだろう。

余談気味にはなるが、今作は僕が初めてリアルタイムで購入したアルバムであり、今作のアルバム・ツアーが初めて経験したライブハウスでのライブとなった。

当時、音楽の右も左もほとんどわからないような中学生だった僕にはあまりにも衝撃的な体験であり、一音鳴った瞬間から最後の最後に汗を振り絞ってメンバーが引っ込む瞬間まで、あれほど痺れたことはない。僕にとって『格好良い』ということは『GUNSLINGERS TOURのスカパラ』と同義であり、それは今もなお更新されてしまうことなく心に強く焼き付いている。

今でも僕は当時のスカパラのことを『宇宙で一番カッコイイロックバンド』だと思っているし、その真偽に関しては当時のツアーを記録したライブ・アルバム『GUNSLINGERS』を実際に聴いて確認していただければ、と思う。

(※本来のCD盤は17曲収録なので、出来ればそちらを聴いていただきたい)

『フルテン』と『GUNSLINGER』ツアーによってバンドの危機を乗り越えたスカパラは遂に現在の印象へと繋がるようなセル・アウト、『歌もの三部作』というコラボに乗り出すのだが、それについては次の機会に。

投げ銭してくれると小躍りしてコンビニにコーヒーを飲みに行きます。