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「意識の進化」と「社会の進化」はリンクする

個人の内面が進化すると、社会における次なる進化の側面にアクセスできるようになる。つまり、個人の意識の進化と、社会の進化は連動しているということを説明するここ5年くらいの間に出た本2冊をメモさせていただきます。『ティール組織』が主に組織(企業体)の進化に焦点をあてながら意識の進化をみていく、『インテグラル心理学』が個人の意識の進化に焦点あてながら社会の進化との関係についてみていくもの、といってもいいかもしれません。


1.フレデリック・ラルー『ティール組織』

日本だと2018年に出版されてビジネス本として相当注目されたのでよく知られているかと思います。人類の歴史における組織の進化の段階を、色で視覚的に例えているのが特徴で、次世代型組織(ティール組織)について語られています。そこでは、今まで組織の中で大切にされてきた行動ではなく「存在」が新たに注目され、役割や分担ではなく「全体性(ホールネス)」を取り戻すということが多く語られています。そして、最終章で、進化型組織(ティール組織)と進化型社会(ティール社会)について触れられています。このことからも、世の中は分離から統合への流れの中にあるのがわかります。

【人類のパラダイムと組織の発展段階】
1.無色
:血縁関係中心の小集団。10数人程度。「自己と他者」「自己と環境」という区別がない
2.神秘的(マゼンダ):数百人の人々で構成される部族へ拡大。自己と他者の区別が始まるが世界の中心は自分。物事の因果関係への理解が不十分で神秘的。
3.衝動型(レッド):組織生活の最初の形態、数百人から数万人の規模へ。力、恐怖による支配。マフィア、ギャングなど。自他の区分、単純な因果関係の理解により分業が成立
4.順応型(アンバー):部族社会から農業、国家、文明、官僚制の時代へ。時間の流れによる因果関係を理解し、計画が可能に。規則、規律、規範による階層構造の誕生。教会、軍隊、官僚組織。
5.達成型(オレンジ):科学技術の発展と、イノベーション、起業家精神の時代へ。「命令と統制」から「予測と統制」へ。実力主義の誕生。効率的で複雑な階層組織。多国籍企業など。
6.多元型(グリーン):多様性と平等と文化を重視するコミュニティ型組織の時代へ。ボトムアップの意思決定、多数のステークホルダー。
7.進化型(ティール):変化の激しい時代における生命体型組織の時代へ。自主経営(セルフ・マネジメント)、全体性(ホールネス)、存在目的を重視する独自の慣行。

『ティール組織』日本語版付録より


2.ケン・ウィルバー『インテグラル心理学』

フレデリック・ラルーの『ティール組織』のなかでも語られていたケン・ウィルバーによる人間の意識や心理面での進化ついての翻訳本が2021年に日本で出版されました。

古今東西の心理学や哲学で語られた人間の認知や社会や発達段階等がマップ化されて整理されているという壮大な本です。巻末資料の数十ページにわたる進化や理論等をまとめた表が一覧できるだけでも資料的価値があります。
ほんの一部(キーワードのみ)だけだと以下のような発展段階の流れになります。

【ウィルバーの理論モデル】

1.自己中心的:未分化、プロレーマ的/幻覚による願望実現、主体と客体の融合、自己対象/自己中心的、ことばの魔法、自己愛的/自我の全体性への疑い、安全への欲求、自我の安全性は神へと転移
2.自集団中心的:具体的ー字義的な神話/呪術的な力の源泉=神格を有する絶対的他者/神話的な構造の合理化、脱神話、形式化/静的な普遍的形式、静的なシステム/文脈
3.世界中心的:多元的システム、動的な多数の文脈/歴史/多様な文脈の統合、パラダイム的/パラダイム横断的、弁証法的、発達を宇宙的プロセスとしてとらえる
4.神性中心的:宇宙的プロセスと合一/自然神秘主義、粗大領域との合一/粗大領域そのものの創造的基礎との合一/神性神秘主義、微細領域との合一/顕現領域そのものの源との合一/無形神秘主義、元因領域との合一/形あるものと形なきものの合一/究極のスピリットと宇宙的プロセスとの合一/非二元神秘主義

ケン・ウィルバー『インテグラル心理学』

いままでの人間意識の進化が視覚化され、これからの未来の進化の方向性が想像できます。そして、意識の進化が社会の進化と連動しているのもわかります。流れとしては、自己中心主義を卒業して集団中心主義を経て世界中心主義から神性中心主義へ向かうというものです。そして、自分が進化の段階のどこに位置して、どこへ向かおうとしているのかのおぼろげながらイメージできるのは、インターネットのない時代に地図を持って旅をできるような感覚にも似ています。もちろん実際行ってみないと、現地の景色はみられませんけれど・・・地図がなくて闇雲に歩き回るのと、地図があって現在地がわかるのとでは大違いです。何より、この整理された状態が議論のスタート地点であるというのも本書のスタンスの特徴です。

ちなみに、この本に紹介されている論者によって発達区分は様々な分け方があるのですが、私たちは、自集団中心主義から世界中心主義への移行プロセスにあるといえます。そして、世界中心主義に相当するところまでが「第一層」、神性中心主義が「第二層」に相当するとも表現できるのですが、「第一層の段階では、どれも―独力では―他の段階を十分に尊重することができない。第一層においては、どの段階も、自らの世界観こそが唯一正しい最善の見方だと考えている」「自らの世界観に疑いをかけられると、その意見を否定しようとして反発するし、その段階に特有の方法を用いて、相手を激しく攻撃する」と述べられています。現人類のほぼ全員がここ(第一層)に所属しますので、自分の中でいつこれが発動しているのか意識してみるのが、自分の気づきとそこからくる小さな進化へとつながるのかもしれません。

また、人類の1%の段階が達している「第二層」の思考(統合的でホリスティックな段階)が出現しようとすると、第一層(感受性豊かな自己以前の段階、つまり人口でいうと99%)から多大な抵抗に遭うことになる。しかし、99%側にいる科学的を含む感受性豊かな段階(ここで今せいぜい10%くらい?)からしか第二層は登場しないし、第二層の思考がなければ「覇権を求める段階間の闘争がおわりを迎えることはない」というくだりはとても印象的でした。

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