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#44 元気メシ/くろさわかな

【往復書簡 #44 のやりとり】
月曜日:及川恵子〈愛しの水煮肉片〉
水曜日:泖〈スシ食いてぇ〉
金曜日:くろさわかな〈「今」を食べて「未来」にかえる〉

「今」を食べて「未来」にかえる

お昼に、元気メシを食べました。

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「大福どら(つぶあん)」。
どら焼きの皮で大福をサンドした(だけ)の、遊び心ある一品です。

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喜久福くらいのサイズ感の大福が挟まっていて、100gあたり269キロカロリー。メーカーのページには1個あたり175キロカロリーと書いてありました。小さくても戦闘力は高めです。

わたしの元気メシは、このどこで買えるのかわからない大福どらでもなければ(ちなみにこれは同僚からのいただきものです)、大福でもどら焼きでもありません。「『メシ』としておやつを食べるという背徳感」が、元気メシなのです。

この元気メシ、どう考えても体にはよくない。栄養は糖分や脂質に偏りすぎる。カロリーは高いのに消化はいいから血糖値ガンガン上がって眠くなるし、その後急激に下がってすぐお腹すくし。活性酸素!動脈硬化!心筋梗塞!脳梗塞! なにやらおそろしい単語が頭をガンガンよぎってくるし。

普段は、先に野菜を食べて血糖値の上昇を抑えましょう、次はタンパク質、炭水化物はできるだけ最後に、なんていい子の自分が言うものですから、たいていは毎日なんとなく栄養バランスを考えた食事を心がけています。だけどそういう食事って、体にやさしくても心にやさしくなかったりする。ちょっとずつ心が疲弊していくんですよね。

だから、なんだか心がしょぼくれてきたなあと感じたとき、体の方にちょっと負担してもらうことにします。あまーーーーーーいケーキだったりパフェだったり、大量のフライドポテトなんかをご飯にしちゃう。いままで積み重ねてきた「健康」という名の積み木をがっしゃーーーんと崩すような暴挙。でもわたしは「健康」のために生きてるんじゃねえんだよ! 血糖値スパイク上等じゃこらあ! はい活性酸素!動脈硬化!心筋梗塞!脳梗塞!(うぉーーー)と低音全開のライブが始まる気持ちです。傍目にはただただ大福ドラ食べてるだけですけど。


未来は、人間に宿った妄想でしかないんです。そもそも、この世には現在しかありませんから。

「未来」は科学がつくりだした信仰にすぎない――押井守がホロス2050未来会議で語ったこと

体のことを考えて摂生するのも、言ってみれば「未来信仰」なんですよね。もう世の中のほとんどのことは、未来を信じていなければできないことばかりなのかもしれません。コツコツとやりたくない仕事をするのも、苦手な知人に愛想笑いするのも、今月使いすぎたなと節約するのも、Spotifyにお気に入りを登録するのも、すべては明日があると信じているからできること。

「健康的な食事」へのストレスが蓄積されているとばかり思っていましたが、もしかしたらこれは、未来のことばかり考えなければならないことへのストレスだったのかもと思いました。さしずめ、脳内低音ライブはゴーストが「今」に戻ってくるための儀式でしょうか。

とはいえ現在のことばかり考えてもいられないのも事実ですので、今を幸福にする元気メシを食べたら、またわたしの思考は未来に帰ります。
さて、今日の晩ごはんはどうしようかな。


くろさわかな

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