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僕の仕事遍歴

仕事に恵まれない僕? その1

1998年頃、九電のオール電化住宅を推進する番組を作るバイトをしていた。

本当は脚本を書いて演出していたのだから、
九電のオール電化住宅を推進する番組を作る仕事をしていた、
と書くべきなのかもしれないが、
あの程度の作業を「仕事」と呼ぶのはおこがましいので、
あえて「バイト」と書かせていただいた。

番組の主旨は、オール電化住宅は火を使わないので安全で、
光熱費もガスと電気の両方を支払うよりは、
月々・・円くらい、年間・・円くらいお得である、
IHグリルも直火と変わらないくらい使い勝手がいいし、
電気温水器は料金の安い深夜電力を使うのでお得である、
というようなものであった。
15年くらい前にやった仕事なのに、よく覚えているものである。

この番組を作っていてふと疑問に思ったのは、
九電はガス会社のシェアを奪おうとしているのか、ということであった。
家庭内でガスを使うのは、ほぼ、お風呂と台所だけである。
ガスエアコンやガスヒーターもあるにはあるが、
圧倒的に電気の方がシェアが大きいだろう。

部屋の灯り、テレビ、冷蔵庫、洗濯機、掃除機など、
それ以外の生活には、ほとんど電気が使われている。
それなのに、わずかなガス会社のシェアまでを
奪う必要があるのだろうかと、疑問に思ったのである。

別に九電の姿勢を批判したわけではない、
ただ、ふと思いついたので、
国はゆくゆくはガス会社を無くそうとしているんですか?
と代理店の人に聞いてみただけなのである。

代理店の人は答えなかった、というか、
答えられなかったのである。
そこまで深く考えて仕事をしていなかったからだ。
ちなみに、誰でも名前を知っているような、
日本有数の広告代理店(電通)の人である。

オール電化住宅以外にも九電は「氷蓄熱システム」という、
字面だけ見ると矛盾しているように見える画期的なシステムや、
深夜電力の割引き契約など、企業向けのサービスも推進していた。

ある時期を境に、コンビニやファミレス、牛丼屋など、
24時間営業の店が一気に増えたのは、
この深夜電力割引サービスの影響も大きい。

そして、その根本には原発があった。
原発は、大量の電力を安価で供給できる、
夢の発電方法であったが、その発電量は、
真夏の午後2時頃、オフィスでも家庭でも、
エアコンがフル稼働している時の電力消費量を基準にしており、
大半の人が寝ている深夜には電力が過剰供給になっていた。

電気は貯めておくことができないし、
原発も昼は動かして夜は止めておく、ということはできないので、
深夜にもなるべく電気を使ってもらう必要があったのである。

しかし、僕がそのしくみに気付いたのはずっと後のことで、
オール電化住宅の番組を作っていた時は、
なんとなく疑問に思った、という程度に過ぎなかった。

「攻殻機動隊」で言うところの
「ゴーストが私にささやくのよ」というやつである。
ちなみに「攻殻機動隊」を知らない人のために少し解説すると、
「攻殻機動隊」という話は未来の話で、
その世界では人間は身体のパーツの多くを機械で補っていて、
脳を直接インターネットにつなぐことを電脳化、
手や足や内臓を機械の部品に取り換えることを義体化と呼んでいる。

しかし、元々人間であった人の中には、その人特有の、
オリジナルな「何か」が存在していて、
それが「ゴースト」と呼ばれている。

そして、最初から機械のみで構成されているアンドロイドには、
「ゴースト」は存在しないのである。
SF作品といえども、
現実の人間に何も関係ない話だったら、あまり存在価値はない。

現実の自分に置き換えて、
その時自分ならどうするだろうという、
アイデンティティーの問題を提起する必要があるのだ。

ちなみに僕は原発反対派というわけではない。
せっかく作ったものなんだから、
止めておくくらいなら、稼働させたほうがいいと思っている。

ただ、充分過ぎるくらい危険なのに、
「危険ではないです、安全です」と嘘をつくのは、
フェアではないと思っているのだ。

まあ、このような考えは後付けであって、
その頃は、ただ、なんとなく疑問に思った、
という程度のことであった。

疑問を疑問のまま保留にしておくことはできなかったので、
半年間という契約で始めた仕事だったが、3カ月で辞めさせてもらった。

ちなみにギャラは、月に10日から15日くらいの拘束で、
手取り36万円くらいもらえており、
今までやった仕事の中でもかなり割りのいい仕事であった。

そしてその番組はその後2年以上続いたので、
僕の方から断らない限りは、
2年以上はそのギャラをもらえていたことになる。

しかし、その時僕がなんとなく感じていた違和感は、
それから10年以上経った2011年に現実化した。
国内の原発が事故を起こして、周辺住民にとっては、
取り返しのつかないことになってしまったのである。

僕は3カ月間、
オール電化推進のバイトをしていたからといって、
そのことで自分を責めたりはしていない。

もしそれを2年間続けていたとしても、
そのことで自分を責めたりはしないだろう。

しかし、自分がうすうす疑問に感じていたのに、
日々の暮らしのためにそれを保留にして、
そのまま原発事故の日を迎えていたとしたら、
もしかしたら後悔のあまり、自殺を考えていたかもしれない。

だからあの日仕事を断ったことは、
結果として自分の身を守ったことになるのである。
と思うのですが、
僕の「ゴースト」はどう思っているかな?

仕事に恵まれない僕? その2

2007年頃、apple社がiphoneを発売した時、
僕は愛媛のNHKで番組制作のバイトをしていた。

本当はディレクターとして番組を制作していたのだから、
NHKで番組制作の仕事をしていた、と書くべきなのだろうが、
あの程度の作業を「仕事」と呼ぶのはおこがましいので、
あえて「バイト」と書かせていただいた。

それはいいとして、
当時、appleがiphoneという革新的な携帯端末を発売し、
日本ではソフトバンクが独占的に取り扱うこととなったのだが、
NHKはそのことをニュースの中でとりあげた。

NHKの社内では、常時NHKの番組が流れているので、
僕はデスクワークをしながらそのニュースを見ていた。

すると、一緒にそのニュースを見ていた制作部長が、
「iphoneって、そんなにいいものなのかなあ」と言った。

それは、「iphoneって、NHKが、
わざわざニュースで取り上げるほどのいいものなのかなあ」
という意味である。

僕は「えっ」と思って、目が点になった。
どう見てもこれはパブリシティでしょう、と思ったのである。

パブリシティというのは、「政府や団体・企業などが、
その事業や製品に関する情報を報道機関に提供し、
マスメディアで報道されるように働きかける広報活動。」
のことである。平たく言えばコマーシャルのようなものだ。

もちろん、コマーシャルは有料で、
パブリシティは無料というイメージがあるが、
実はパブリシティにも様々な見返りがある。

なにがしかの利益がない限り、
テレビ局や新聞社が、
わざわざ記者やカメラマンを派遣して
取材して記事にしたり、
放送するわけがないのである。

わかりやすいメリットとして、民放ならば、
パブリシティで取り扱ってもらったお礼に、
その企業がある程度のCMを出稿する、というのがある。

それはとてもわかりやすくて、健全なバーターなのだが、
NHKの場合、だれにどんな利益が行くのかが不明瞭なので、
とても生臭く、怪しい感じがするのである。

それでも確実に、誰かが誰かに、
「よろしく頼むよ」と言わない限り、
NHKのニュースでappleのiphoneが紹介されるなんて、
あり得ないことなのである。

そのしくみを、この制作部長は、
本当にわかっていないのだろうか?

その人は50代の東大卒の人であった。
そして、部下を数十人抱える、部長職である。

NHKという会社には、このような人がたくさんいる。
確信犯的にインチキをしているのではなくて、
本当に知らなくて、自分たちはいつも正しくて、
公共の利益に貢献している、と信じながら、
結果的には特定の企業や団体へ利益を誘導しているのである。

この思想はNHKの隅々まで行きわたっているだけでなく、
この思想に共感できない人は、
NHKでは出世できないしくみになっている。

僕は1年ごとの契約更新で、
約2年くらいNHKで「バイト」していたが、
どうしても耐えきれなくなって、辞めさせてもらった。

ちなみにNHKからは再契約を望まれており、
こちらから強く望んで辞させていただいということだけは、
僕の名誉のために言わせてください。

NHKでの仕事のギャラは、
担当したコーナーのOA分数に対する歩合制だったので、
その月の担当コーナーの数によって、
10数万円から40数万円まで、まちまちで、
全体的にはそんなに割りのいい仕事ではなかったが、
NHKで働いているというステータスは、半端なものではなかった。

この仕事を仲介した派遣会社の人と、
最近も別の仕事でご一緒させていただいたが、
その顔合わせの席上で、
「この人は、あのNHKの仕事を自分から蹴った人です」
と、みんなに紹介されたくらいなので、
やはりNHKで働けるということは、
一般的には魅力的な事なのだろうと思う。

仕事に恵まれない僕? その3

2013年2月10日のニュース
横浜市の郵便局のアルバイト配達員が、
年賀状などおよそ2000通を自宅に隠したり、
別の住所に配達したりしていたことが分かりました。

警察によりますと、横浜市港北区にある綱島郵便局に勤めていた
アルバイトの男性配達員(27)は、
年賀状や手紙などの郵便物、
およそ2000通を自宅に隠したり、
別の住所にまとめて配達したりしていたということです。

先月、別の配達員が、
郵便受けに本来配達される住所とは違う郵便物が
大量に入っていることに気づき、発覚したということです。

警察は郵便法違反の疑いがあるとみて、
男性配達員から詳しく事情を聴く方針です。

この類の「郵便局員の不祥事」的なニュースは、
時々報じられる。

「またか」と、「郵便局はどうなってるんだ」と、
その度に批判を受け、庶民の間には、
郵便局員への不信がつのっていると思うのだが、
短い間ではあるが郵便局で働いたことがある僕には、
こういう事件は起こるべくして起きていると思っている。

2011年の9月頃から2012年の2月頃にかけて、
僕は福岡県の志免町にある郵便局で、
郵便配達のバイトをしていた。
仕事内容は正社員の人と全く変わりなかったのだが、
あくまでも身分は「バイト」であった。

映像ディレクターとしての経験や技術を持ってはいるが、
この仕事が自分の適職だとはどうしても思えなくて、
自分からディレクターの仕事を探したことはない。

ありがたいことに、
そんな僕に仕事を依頼してくださる人もいるので、
依頼を受けたディレクターの仕事はこなすが、
仕事が途切れて自分で仕事を探す時は、
ハローワークや求人誌で一般の仕事を探す。

この郵便配達の仕事も、
ハローワークで見つけたものであった。

郵政民営化以来、郵便局は大変なことになっている。
公務員時代からいる幹部は、今まで通り、
ろくに働かずに高い給料をもらい続けようとしているため、
アルバイトの職員が3分の1くらいの給料で、
正社員以上の重労働を強要されている。

実際に勤めてみない限り、
その実態は絶対にわからないと思うのだが、
大げさではなく、朝の8時から夕方の5時6時まで、
食事をとる15分くらい以外は、1分1秒たりとも、
休む時間がないのである。

常に郵便物を仕分けしているか、配達しているのである。
そして、ささいな誤配などがあっても、
すぐに郵便局に密告の電話がかかってくる。

それだけでなく、ちょっとバイクを止めて会話していたり、
自動販売機で飲み物を買っていたりしただけでも、
郵便局に苦情の電話が入ってくるのだ。

日頃から郵便局の悪いイメージばかりが報道されているので、
庶民のみなさんは、それに「乗っかって」、
世直しか何かのつもりで郵便局に電話をかけてくるのだ。

さらに局員には、常にノルマが課せられている。
お中元のゆうパック、クリスマスケーキ、
鍋セットのゆうパック、記念切手
年賀ハガキなど、常に何かのキャンペーンがある。

入社の時に、強制ではないという説明ビデオを見せられたが、
結局は暗黙のうちに、全て強制されている。

例えば僕は9月から働きはじめたのだが、
11月から販売が始まった年賀状のノルマが、
何枚だったと思いますか?

まあ、大体これくらいだろうという数字を、
思い浮かべてみてください。
今まで当てた人は一人もいません。
惜しかったという人さえいません。

配達の仕事を始めたばかりの僕のノルマは、
なんと4000枚だったんです。
まったく常識の通用しない世界でした。

500枚くらいまでなら、
自腹を切ってでも購入する覚悟でしたが、
4000枚といえば、20万円ですよ。
月に12万円くらいしかもらっていなかったのに・・・・

もうこれくらいでいいでしょう。
まだまだ半分も書いていませんが、
これでも充分伝わったと思います。

僕は元々、この仕事を長く続けようとは思っていなかった。
ただ、面接に行った時に、あまりにも酷い圧迫面接だったので、
腹が立って、こんな仕事、すぐにマスターしてやる。
完璧にマスターして、その直後に辞めてやる、
と思ってその仕事に就いたのである。

仕事自体はものすごく簡単で、すぐに覚えたが、
一日のノルマがあまりに多くて、
楽勝で仕事をこなせるようになるには、少し時間がかかった。

そうこうしているうちに年賀状のシーズンが始まって、
そのあまりの量の多さに郵便局全体がピリピリギスギスして、
僕の忍耐も限界に達してしまい、
年賀状の配達が終わった直後に辞める宣言をしてしまった。

1年くらい勤めて辞める予定だったのだが、
結局半年で辞めてしまったのだ。
その後、運良くディレクターの仕事の依頼が来て、
テレビ番組の仕事をしている最中に、
骨折して入院することになったのだが、
実は整形外科に入院している時、
隣りのベッドに寝ている人は郵便局の職員の人だった。

僕が勤めていた郵便局とは別の局だったので、面識はなかったが、
その人が別の相部屋の人としている会話から、
郵便配達中に交通事故に遭って骨折したということがわかった。

その人は50代で、50歳を過ぎてからだけでも、
事故で入院するのは三回目だと言っていた。
ちょっと事故に遭い過ぎだとは思ったが、
郵便配達の仕事の過酷さを思えば、
それもあり得ることではあった。

その人は、何回も入院して同僚に申し訳ない、
一日も早く現場に復帰したいと言っていた。
僕は、復帰したらしたで大変だろうなと思った。

郵便局で事故を起こしたら、
誰からも同情されないどころか、
仲間はずれにされていじめられるのだ。

僕のいた郵便局でも酷い扱いを受けている人がいた。
事故を起こす人は、
「性能の悪い部品」程度にしか認識されなくなるのだ。

一応病院での僕の職業は
「ディレクター」ということになっていたので、
僕は自分が郵便配達をしていたことは黙っていたが、
なるべくその人には親切に接するように心がけていた。

ここまで、九州電力、NHK、郵便事業会社と、
3つの大きな組織の末端で働いた経験を書いてきたが、
様々な経験をした僕が、
これから社会に出ようとしている人に、
何かアドバイスすることがあるとしたら、
「長いモノには巻かれろ!
俺はけして巻かれたりはしないけどな」
といったところであろうか。

この記事に関する精神科医の友達のコメント

「郵便局からくる患者さん、多いですよ。
上司と面談しても患者さんを駒と表現したり。。
私は悲しかったです。
電力会社にしてもそうですが、働く部下は人ではなく、
駒なのかと何回も考えさせられました。」

それに対する僕の返答

「やはりそうですか。あんな働かせ方をされてて、
精神がおかしくならない方が異常だと思うのですが、
うまいというか、悪質なのは、郵便局に対してではなく、
直近の上司に対して憎悪が向けられるような構造になっていることです。
経営側から見れば、駒同志がいがみ合っているだけ、
という形になっているんです。
やはり明治以来の長い年月をかけて、
練りに練られた人間冒涜システムで、盤石の感があります。
しかし、時代の流れとともに、
それも自然消滅していくことと思っています。
そういう意味では小泉元首相が言っていた
『痛みのともなう構造改革』なのかもしれません。」

実は今(2024年)僕はは懲りずに郵便物の回収の仕事をしている。
もう一年になるのだが、
自分の人生へのリベンジのつもりでやっている。
何のリベンジなのか?


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