見える人には見える映像

「見える人には見える映像」

 ある仕事でディレクターのRockさん(仮名)という方と御一緒することが何回かあり、深夜まで2人で残って仕事をすることもあったので、なんとなく僕がその頃体験していた不思議な話などを仕事の合間にするようになっていた。するとRockさんが、「紀川さんがそういう話をするから言うんですが、実は僕の伯母は霊能者なんです」と言った。時々僕はこういう鉱脈を掘り当てる。というか、僕の人生においては、こういう情報ソースと出会うというのは、もう、運命のようなものなのである。Rockさんの伯母さんは、かつては普通のお仕事をしている人だったそうだが、あるきっかけがあって霊能者になり、僕がRockさんから話を聞いた頃は福岡市の南区に在住で、全国各地から予約して相談に来る人がいるくらいの、有名な霊能者なのだということであった。

 Rockさんがその伯母さんとテレビを見ていた時のことである。その番組は宜保愛子さんの心霊番組だった。もう故人なので実名をあげてもいいと思うのだが、宜保愛子さんというのは、僕が高校生、大学生くらいの時、さかんにテレビに出ていた霊能者の方で、番組内で超能力者のユリ・ゲラーと対談したり、世界各地の心霊スポットを訪問したりしていた。

 その日の番組では、宜保さんはヨーロッパにある古い洋館を訪ねていた。そこは幽霊屋敷として有名なところだったのだが、その洋館の中でも「出る」と言われている部屋にカメラを据えて、宜保さんがモニターを見ていた。その時テレビを見ていた伯母さんが、「部屋の奥からドレスを着たお姫様みたいな人が出てきた」と言ったそうである。その直後、宜保さんも、「誰か、高貴な身分の女性が出て来ましたね」と言ったそうだ。

 実は僕もこの番組を見た記憶がある。そして、このシーンのこともなんとなく覚えているのだが、宜保さんが「誰かが出て来た」と言っているだけで、画面には何も写っていなかったので「インチキ番組なんじゃないか」と思っていた。しかし、同じ時、別の場所では、Rockさんと伯母さんが同じ番組を見ており、伯母さんには宜保さんの言っているものが見えていたのである。テレビ番組が、このように、受け手によって違うものが伝わるような情報を放送している場合があるということを、僕はそれまで知らなかった。番組制作者はそのことを知っていて、あえて放送していたのだろうか?それとも、知らないまま、どうせインチキなんだからと、開き直って放送していただけなのだろうか?とにかく、数少ない視聴者だけが、宜保さんと同じ情報を共有していたようなのである。

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