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望月ミネタロウの「ちいさこべえ」

これは2014年に書いた文章です

ついに望月峯太郎がやってくれた。
それがきっかけで山本周五郎の本を買ってしまった。

望月峯太郎というのは、
「バタアシ金魚」「お茶の間」「座敷女」
「鮫肌男と桃尻娘」「ドラゴンヘッド」
「万祝」「東京怪童」など、
ファッショナブルな絵柄と、
ちょっとグダグダなストーリー展開で、
いつも僕に期待を持たせたり、
ガッカリさせたりしてくれ続け、
いつのまにか名前の表記が
望月ミネタロウに変わっていたマンガ家である。

そして山本周五郎といえば、言わずと知れた、
大衆文学の大御所の一人である。

その望月ミネタロウが、
山本周五郎の「ちいさこべ」を原作にして
現在ビッグコミックスピリッツに、
「ちいさこべえ」というマンガを連載しているのだが、
これがかなりいいのである。

これまでの望月の作品は、
どこか地に足がついてないという感じで、
ストーリーの根幹というか、
肝の部分がなんとなくあやふやで、
読んでいてじれったいというか、
何か釈然としない思いが残るものが多かった。

ところが今回の作品は、
核にしっかりとした物語があるので、
あとは望月の本領発揮というか、
魅力的な絵柄に更に磨きがかかり、
しっかりとした背骨がある身体に、
とてもセンスのいい服が着せられているようで、
見ていて本当に好ましい気持ちになる。

望月のマンガに必ず出てくる、
一見ヘナヘナしているように見えながら、
どこか一本芯の通っている女性キャラクターも、
今回はしっかりとした物語の大黒柱の上に、
安心して立っているように見える。

しかし、こういう舞台設定が、
こんなに望月の絵柄と合うとは意外だった。
原作は時代小説だろうが、
このマンガの舞台は、現代の東京の下町になっていて、
主人公は大工の棟梁なので、画面の雰囲気は、
昭和レトロといった感じになっている。

望月の端正な絵が、大工という、
伝統と格式のある感じと調和して、
グラフィックデザイン的にも、
非常に秀逸なマンガである。

そして望月のマンガからフィードバックして、
原作の「ちいさこべ」の文庫本を買ってしまった。
望月が描いている「りん」という女性が、
原作にも出て来るのか、出て来るならば、
原作ではどう描かれているのか、
気になってしまったのだ。

イマジネーションのメモリーをたくさん消費するので、
なるべく活字の本は読まないようにしているのだが、
こういう「例外」が生じてしまうくらいに、
望月の「ちいさこべえ」は魅力的な作品だった。


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