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倉庫に何かいたらしい

6年ほど前、僕は、
「合志マンガミュージアム」というところで働いていた。
その時の話。

「倉庫に何かいるらしい」

最近の僕の仕事は、
合志マンガミュージアムという施設の、
バックヤードの本の整理がメインです。

朝、およそ1時間かけて、
マンガミュージアムまで出勤し、
お昼過ぎまでバックヤードの整理をし、
コンテナに詰めた本を
公用車に積んで、
午後2時頃から倉庫に運びます。

この倉庫が割と僕の家の近くにあって、
1時間くらいかけて出勤して、
また1時間くらいかけて、
この倉庫まで行って、
少し倉庫の片付けをして、
またミュージアムに戻り、
その頃には終業の時間が迫っていて、
それからまた1時間くらいかけて、
家に帰るというような毎日です。

のん気といえばのん気な毎日ですが、
問題はこの倉庫なのです。
どうも何かいるらしいんです、この倉庫に。

何がいるかというと、
人間ではない「何か」です。

件の倉庫は築50年とのこと、
この50年の間にオーナーも何人か代わり、
色々ややこしいいきさつもあるようです。

そのうえ倉庫に置いてある本は、
数々の貸本屋や古本屋から集まってきた、
歴史の古い本ばかり、
それらの相互作用により、
倉庫には何かの気配がするんです。

基本的には僕は一人で作業しているのですが、
うつむいて作業していると、
視界の隅を何かが通り過ぎるような気がします。

そして、倉庫は2階にあるのですが、
1階には大きな酒屋さんの倉庫があって、
そこで作業している人たちの声が、
建物を伝わって聞こえてきます。

その声が、まるで同じフロアの声のように
聞こえて来ることがあるんです。

そういう声が1階の声なのか、
2階のどこかから聞こえて来る声なのか、
時々区別がつかなくなります。

僕がどこにいてもそういう経験をするのかというと、
そうではなくて、その倉庫にいる時だけなんです。

今日は仕事は休みだったのですが、
倉庫にちょっと取りに行くものがあって、
近くを通った時に寄りました。

今日はうちの奥さんと行動を共にしていて、
奥さんにも倉庫に一緒に来てもらいました。

御存知の方も多いと思いますが、
うちの奥さんは結構霊感が強い人で、
倉庫でも何か違和感を感じていたようでした。

しばらく倉庫の作業を手伝ってもらい、
それから車で家に帰っている途中、
それまでは特に喧嘩していたわけではないのに、
突然奥さんが喧嘩を売ってきて、
車の中で大喧嘩、
帰り道に食事して帰ろうと言っていたのに、
飲食店に寄ることもなく、
まっすぐ家に帰って、
僕はそのままベッドに倒れ込むように寝てしまいました。

2時間ほど昼寝して、
仕切り直して食事に行き、
パスタを食べながら反省会をしました。

うちの奥さんの話では、
倉庫にいるのは「幽霊」のようなものではなくて、
「妖怪」のようなものとのこと。

「幽霊」と「妖怪」がどう違うのかは、
よくわかりませんが、
こういうのは感覚の問題なので、
そこを追求してもあまり意味はありません。

とにかく意味など考えずに、
倉庫で作業しながら
「ありがとう」とつぶやいたほうが
いいような気がするとのことでした。

これから半年くらいこのマンガミュージアムで働いたのですが、
今ではミュージアムとは縁が切れて、つき合いはありません。
倉庫は移転して、他の倉庫に中身のマンガだけ移ったそうです。


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