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漱石夏目金之助と、虫歯の関係

私の歯が虫歯だという
歯医者だとみずからを称するこの女がいう
私の歯が虫歯だと
无syiバ、无syiバ、です、という
私の歯が虫歯であることが真実だとして
これを受け入れるとして
すると
私はすぐさまこんな難問にぶちあたる
私の歯が虫歯なのはたいへんけっこうであるが
ひるがえって虫にとってみれば
その住処であるところの歯は
だれあらぬ虫自身のものではないのか
してみるとこの歯は私のものであると同時に
虫のものでもあるということになる
この女は私のものであり
かつ他者のものである
という疑惑と諦念、そして愛に満ちたテーゼ
漱石夏目金之助は一つの場所に二人の人間が
同時に位置を占めるあたわざることこそ
近代の病だと喝破した
近代の病にう蝕された私の歯は
矛盾に圧されて
ぐらぐらと揺れていた

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