え、ウサギ?

それはいつも通りの朝だったの。
6時にかけたアラームを無視してしっかり7時に起きたし、昨日飲みすぎたせいで顔の浮腫が酷い、本当にいつも通りの朝よ。

起きたらまず白湯を一杯飲んで、軽めのストレッチ、少しリラックスタイムを挟んで朝ごはんはグリーンスムージー。

なんてことするわけないでしょ。この私が。

意識低い系女子代表の私はもちろん、時間ギリギリでやっとこさベットから脱出し、そこら辺に置かれている適当な服を着て、昨日の残りの焼き鳥を摘んで朝ごはんは終了。
適当に髪をまとめて適当にメイクして適当に選んだアクセサリーを身につけて出勤します。

「いってきマース」

家を出る前にネコの所在確認をして、声をかける。もちろん返答はない。
鳴く時はいつもチュールを欲しがる時だけな、現金な猫。

鍵を閉めてから今日が燃えるゴミの日だったことに気付く。
今から家中のゴミを集める時間はないし、まぁ4日後ぐらいまでなんとかなるっしょ。
ゴミ出しってなんでいつも忘れるのか不思議でしょうがない。忘れるのはそれだけじゃないけどね。
家を出てすぐ右に曲がるとエレベーターホールがあって、いつも鉢合わせるお隣に住むちょっと塩顔イケメンなお兄さんにほほ笑みかけるのが日課。ワンチャン、立ち話も何ですからお茶でもいかがです?的な展開になる事を期待している。
この歳になるとなんでか異性に対して最初に思うのが、“この人は結婚しているのかしら?”という疑問。あと指輪チェックは絶対。本当はそんなのどーだっていいんだけど、もしかしたらお付き合いすることになって結婚して子供ができて…なんて妄想が膨らんだりするし、なんなら結婚式のスライドショーまで考えちゃう。そんなお年頃なんです。まぁ、そんな展開になることなんて絶対にないとはわかってるんだけどさ。ほら、オタクって妄想力豊かだから。

で、今日もそんなルーティンかと思っていたんだけど、思わず目を疑いましたよね。
人間って予期せぬ事態に陥ると本当にピタッと動きが止まるのね。そんで素で「は?」とか言っちゃうのよ。もっと可愛い反応出来ないのかしら?

エレベーターホールに鎮座してらっしゃいますのは、紛れもない“白いウサギ”だったのよ。
小学校の裏庭で飼ってた以来お会いしていなかったもので、それがウサギなのかちょっと悩んだけど、紛うことなきウサギさん。

一瞬の内に色々考えたわよ、そりゃあもう。
どっかから迷い込んだ?この街中で?野生のウサギ?にしては綺麗な毛並み。あ、お隣のお兄さんが飼ってるウサギ?え!え!何それ可愛い!メンズの一人暮らしでウサギ?……え、彼女持ち?2人暮らし?通い妻?ウサギ連れて通ってる?あ、キャリーから逃げたのか?こんな朝早くに?それにしては誰もいないし。…捕獲はムリゲーぽいしな。

目の前のウサギは全然動こうとしない。
私は私で急がないと遅刻コースになってしまう。

「あのー、エレベーター呼びます?」

ウサギに問いかけてみたけれど返事はない。ただの屍のようだ。
傍から見たら不審者だけど大丈夫かしら、私。
もしかしたらこのウサギはエレベーターを待っているのかもしれない。
なんでかそう思って私はウサギと並んでエレベーターを待つことにした。
シュールすぎる絵面なのは多めに見てほしい。

さて、始業まで残り5分ですが何か問題でも?

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