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あの空港の名前も知らないお姉さんにお礼を言いたい

2020年1月下旬、Beforeコロナということもあってもう1年以上前のことに感じるけれど、私はスペインから日本へ向かうところだった。

バルセロナから乗り継ぎ地点のスキポール空港までは順調な旅だった。ところがスキポール空港から関空行きの便で整備作業が発生し、2時間半も空港で待ちぼうけ状態になってしまった。

ちょうどお昼時だったため空腹だった私は何か買わなければ、、、と空港内をうろうろしていた。そこへ携帯にKLMから通知があり、「遅延のお詫びとしてクーポン券をお送りします」とのこと。

ありがたく使わせてもらおうと早速サンドイッチと飲み物を掴んでキオスクのカウンターに向かったものの、クーポン券の出し方が分からない。

キオスクのお姉さんは親切に画面を操作してくれたけれど、バーコード画面が出てこないのでスキャンできずどうしようもないとのこと。キオスクの横にあるKLMの操作機器で調べたら何か分かるかもしれないと指示され、いったんサンドイッチは置いて機器の方へ向かった。

次はこれか、、、と空腹で少しイライラしながらKLMの操作パネルと格闘していたところ、一人で店番をしていたお姉さんが心配して見に来てくれた。

操作パネルの画面を見せながらどうにもならなかったことを説明すると、お姉さんは申し訳なさそうに「ちょっと離れてるけどKLMのカウンターがあるから、そこまで行って質問するしかなさそうね、、、」と言い、それはもっともなことだったのに空腹と疲れがピークに達していた私は思わず「それは分かるけど、もう疲れた、、、」と愚痴を漏らしてしまった。

出発が早朝で前日の夜眠れていなかったこともあって、クーポンなんか気にせずとりあえず何か買って食べればいい、という正常な判断も働かなかった。

するとお姉さんから思わぬ一言。

「私の従業員割引使う?食べ物は半額、飲み物は無料になるの。それで良ければ」

ここまで真面目にマニュアル通りのサポートをしてくれただけに驚いたけど、ルールを捻じ曲げてでも目の前の人をハッピーにしたい、というシンプルな思いに私は胸打たれた。

「ここだけの秘密だからね」といたずらっぽく笑いながら、お姉さんは自分の従業員カードをサッと機械にかざし、半額になったサンドイッチと飲み物を私に押し付けてきた。

もちろんこれはルール違反だし、他の人に対して不公平と言われる行為かもしれない。でも日本ではありえないこんな出来事に出会えてしまうのが海外旅行の醍醐味だし、美しい景色や快適な経験よりもこういった出来事の方が強く記憶に刻み込まれたりする。

「旅の思い出」に登場する人物はその国の権力者でも有名人でもなく、名前も知らない店員さんやカフェのバリスタ、レストランのウェイターやホテルのフロント、または路上で親切に道を教えてくれる人だ。

後からお礼を言いたくても言えない人こそが旅の重要人物で、その人達に対する感謝の気持ちが旅の記憶をより色鮮やかに、豊かにしてくれる。

ちょっと大げさかもしれないけど、あの時の行為が私にとってどんなに救いとなったか、意義深いものになったか、いつかお礼を伝えてみたい。


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