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夏の桜


桜は、桜の形のまま、地面に落ちる。



そんなところで育った。



桜が咲くのは はやい。


みんなが寒いなぁと早足で家に帰る
まだ見ぬ季節を思い描く頃



もう桜は咲く。



やっと寒くなったのに。
もう少し冬でいたい。冬の気分でいたい。


さくらが咲けば、次第にあたたかくなる。


まだもう少し先でいいのにな、なんて思う



でも桜が咲くのは、
いつも待ってくれなかった。


そのさくらのはやさは


何かを思ったら、後先考えず

まず足が先に行く そんな

自分とも少し、重なるのかもしれなかった。



早く見る桜に 冬の孤独が癒され
救われたときも、

どうしてもう春なのかと思うときもあった。



毎年、家族とさくらまつりに行った。


少し遠出をする。
その時間も私は好きだった。


一年でいちばん早くりんご飴が食べられる。

それも大好きだった。



大きい木はたくさんの花を咲かせる

でも、身長と同じくらいの

赤ちゃんみたいな小さな桜の木もあって

小さいほうが、近く感じて少し好きだった。

それぞれが咲かせる色も、大きさもみんな違う。



"薄いピンク色のほうが好き"

"濃いのも可愛いけどね"

"この形が可愛い"

"わぁ〜〜 !満開じゃない?"

"こっちはあんまり咲いていないね、今からかも"


"こっちはもう葉が出てきてるよ"


そんな風に、ひとつひとつの桜を見ながら
家族と話す時間が好きだったな、と思い出す。



少し大人になってから。


父が単身赴任していたところに旅行。

家に遊びに行った。



父の家のお風呂の鏡で化粧している自分が
なんだか少し 気恥しかったのを覚えてる。



家を出て、みんなより少し先を歩いて。


青空の日だった。


橋のような場所に、一本、桜の木があった。



いつもと違う桜だ。


綺麗だなぁと思って、

少しここで待とうと

木の下に立った時に、風が吹いた。




桜が舞う。



見上げる。



びっくりした。




わたしが初めてみた景色だった。


桜の花びらは 本当に白いから雪みたいで、


そのときに
時間が止まったように感じて


びっくりした。



風がやわらかかった。


そんなことを、初めて思った。



「桜が散る」 「桜が舞う」

そんな風に歌う歌は、

こんな瞬間に切り取られているんだなと

初めて思ったから。



すごく綺麗で、あのときの空気は澄んでいた。


あの瞬間だけ、すごく覚えてる。



地面にいっぱい、雪みたいに
花びらがひとつひとつ、
一枚一枚、零れ落ちていた。


それもまた、美しく

綺麗だった。


それから桜という言葉を思い浮かべると、
あの時の桜の花の色が出てくるようになった。





そのあとに家族で上野にお花見をしにいく。


違う場所で咲く桜も、素敵だった。


子どもの頃より、口数は大分減ったけど
家族と見る桜は やっぱり好きだった。



もっと大人になって、

色んな桜があることを知り


色んな場所で

色んな形の桜が咲いていることを知った。
それぞれ、咲く時期がちがうことも。


桜はいつもきれいだけれど

暖かい風で桜を見ることも、

冷めた目で、桜を見ることもある。



登下校の風景も、毎年同じ桜を見ていた


歩く速度がゆっくりになった
ばーばと旅行でみた綺麗な桜の花


二度と、見れない桜



もう同じ人と桜を感じられないこともある。

当たり前が続かないことなんて、

いくらでもある。


でもまたきっと

綺麗だねと言い合える人と出会える。


そう信じて、春は繰り返す



そうやって歳をとってきたのだろうと思える。


桜に緑の葉が混じってくると、


もう桜の季節も終わりかぁと
新しく くる季節に想いを馳せる。

暑くなるな……嫌だな……なんて思いながら。


夏の桜は、色鮮やかな緑へ。


夏の桜は、一見
普通の木にみえるから好きだ。

夏は木だぞ〜!って、猫をかぶっている。



でも普通ってなんだろう。普通。

普通の木って。



色んな形の桜があったように

ひとつもおなじものはない。


早咲きの桜も、遅咲きの桜も

その木にしかない、ひとつの個性。



夏の桜は

みんなと咲く時期は違うけれど

自分のペースで咲く。咲く時を大事にする。



春はたくさんの桜が
みんなで笑いあって、咲き誇って綺麗だけど

もしその時に 自分ひとりが、
苦しさを溜めていたとしても。


ゆっくりだった分、
咲く力を溜め込んだ夏の桜は



ひときわ輝いて、

一番に目立つのかもしれないなと。



そう思った。


そんなことを " 夏の桜 " で 。


あのときの、ふわっと柔らかい風を、
この歌を聴いたときに肌で感じたようだった。



夏の桜をわざわざ、
写真で撮る人はいるだろうか。



居ないかもしれない。


でもこれからは、ちゃんと
夏の桜のことも、見てあげたいと思った。



ちゃんと咲いているからね。

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