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Netflix作品にも参加したコマ撮りアニメ作家は、なぜ“仕事への危機感”からSNSで発信を始めたのか。会社を辞めて独立するまでを聞く

『鬼滅の刃』、『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズなど、人気キャラクターのフィギュアを使った二次創作のコマ撮り(ストップモーション)アニメーション動画がたびたびTwitterで話題になっています。

作者は、ゼスプリキウイのキウイブラザーズが登場するTVCMや、Netflixオリジナルシリーズ『リラックマとカオルさん』などを手がけたアニメーション作家の篠原健太さん。

今は専業クリエイターとして独立し、コマ撮りアニメーションをアップする登録者65万人超えのYouTubeチャンネル「Animist」を運営しています。

篠原さんの作るアニメーションは、現実世界の机の上などを、まるでキャラクターが本当に生きているかのように動き出す面白さが魅力です。


*篠原さんの動画「【コマ撮り】カービィの「ストーン」の威力を実写で再現してみた」。『星のカービィ』シリーズの主人公であり、何でも吸い込んでしまうキャラクター・カービィが、トマト缶を吸い込もうとするもうまく吸い込めず、試行錯誤する様子がコマ撮りアニメーションで表現されています*

元々は会社員としてコマ撮りアニメーションを制作していた篠原さんですが、仕事へのある危機感から個人で発信活動を始め、クリエイターとして独立されたそうです。

彼は何に力を入れ、どんな発信をし、どうやって独立したクリエイターとして生計を立てられるようになったのか。

そして今、なぜ有料コミュニティを運営し、濃いファンに向けて発信をしているのか。インタビューして話をお聞きしました。

篠原健太
コマ撮りアニメーション作家。2014年よりコマ撮りアニメーション制作会社・ドワーフにてアルバイトを経験したのち、2016年にアニメーターとして正式参加。2019年2月より個人でフィギュアのコマ撮りアニメーションの発信を始め、2020年10月には株式会社LuaaZと共同でYouTubeチャンネル「Animist」を立ち上げ。2019年には若手クリエイターの国際賞「NY ADC Young Guns17」において受賞を果たす。

仕事の少なさに危機感を持ち、個人でSNS発信を開始

ーーTwitterやYouTubeでの発信がクリエイターとして独立するきっかけになったということですが、なぜ発信を始めたのでしょうか?

篠原:コマ撮りを続けるのであれば、このままじゃいけないと危機感を持ったのがきっかけでした。

SNSがあったから、とりあえず発信してみようと3年前くらいから始めたんです。

ーー危機感ですか。

篠原:元々、小学生の頃からアニメーションの仕事をしたくて、ドワーフ(株式会社xpd ドワーフ事業部)というコマ撮りアニメーションを制作するチームに入ることで、仕事にするという目標は達成できました。

一方で続けていくことが難しくて、僕はコマ撮りアニメーターという職業を選んだわけですが、日本だとまだまだ仕事が少ないんです。

最近は『PUI PUI モルカー』が盛り上がったりしましたが、コマ撮り作品がたくさん放送されているわけではないですよね。

ーー確かにそうですね。

篠原:コマ撮りってあくまで手段でしかなくて、例えば何か作品やTVCMを作ろうとなったとき、CGでもできるとなったらCGになってしまいます。

そういった決定も、クライアントの意向や予算など、自分のコントロール外の部分で方針が決まってしまうので、このまま仕事が来るのを待つだけの立場じゃ危ういな、と。

コマ撮りは人形やセットを作る手間とお金がかかりますし、そもそもの仕事の絶対数が多くないんです。

*篠原さんが制作に参加した、ゼスプリ社のキウイフルーツのTVCM。キウイの手足がついたキャラクター「キウイブラザーズ」が、山で熊とイエティに遭遇するシーンなどを担当*

ーーそこで、発信を始めたんですね。

篠原:コマ撮りアニメーターとして働いていく上で、自分で何かを作っていけるようになりたかったし、将来的にオリジナル作品を作るにしても、業界の外に名前を知られておいた方がいいんじゃないかと思ったんです。

また、コマ撮りの面白さをたくさんの人に知ってもらいたかった気持ちもありました。

そんなわけで発信を始めようとしてみたんですが、自分が手がけていた作品は全てクライアントがいて、勝手に発信できるような情報がなくて。

そんなときに、フィギュアを撮って楽しむ「オモ写」というジャンルがあることをTwitterで知って、自分もやってみようと考えたんです。

ーーそれで、今のような作風になったんですね。発信を始めてからは、どういう風に見つけてもらえるようになったのでしょうか。

篠原:撮ってアップしてみるとすぐに反応がありました。

それまで、Twitterではほとんど発信をしておらず、フォロワー数も100人くらいしかいませんでしたが、初めて投稿した動画のツイートは500いいねくらい付きました。

それから2〜3回くらいコマ撮りを載せると1万いいねくらい付いて、その後は数万いいねくらいされるようになって。

Twitterに上げると自然に見つけてもらえたんです。

*篠原さんがTwitterでフィギュアのコマ撮りアニメーションを載せ始めた当時の動画*

ーーこれだけクオリティの高い動画だと、流石に伸びますよね。そこから、どうやってクリエイターとして独立したんですか?

篠原:LuaaZというYouTubeを中心にした事業会社に声をかけてもらったのがきっかけです。

自分で作品を作りたいと言っても、生活を維持していかないといけないわけで、会社を辞めるのは結構な決断です。

けれど、LuaaZに経済的にバックアップしてもらいながらYouTubeでコマ撮りを発信することを提案してもらったので、今はLuaaZの所属クリエイターとして「Animist」という名前のチャンネルを運営しています。

安心して発信できる居場所を求めて、有料コミュニティを開設

ーー篠原さんはTwitterやYouTubeだけでなく、TikTokやInstagramなど多くのサービスで動画を発信していらっしゃいます。それぞれどういう役割で使用されているのでしょう?

篠原:そんなに戦略的にやっているわけではないですが、最初はとりあえずTwitterで発信を始めて、同じものをYouTubeとInstagramに載せるような感じでした。

僕の動画はTwitterと相性が良くて、たくさん拡散してもらえるので、昔はTwitterがメインでしたが、途中からTikTokも使い始めました。

TikTokとは相性が良かったですが、Instagramはとりあえずアップするだけくらいでしたね。

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*TikTokでは厳選クリエイターに認定されている篠原さん*

ーーとりあえず目立つサービスを全部使ってみたという感じなんですね。最近はnoteで文章の発信もされているのが印象的でした。

篠原:フォロワーが増えてくると、数は少ないんですけど、どうしても心ないコメントを送ってくる人が現れます。

それで、気楽にツイートもできなくなっちゃったから、安心して発信できる自分の居場所がほしくて、noteの有料記事や会員限定のサークル内での発信を試してみているんです。

とはいえ、noteに関してはお金を稼ぐことが目的ではないので、基本的にはほとんど全ての記事を無料で出しているんですけどね。

ーーやってみてどうでしたか?

篠原:今は始めて3ヶ月くらい経ったんですが、閉じた場所だからこそ書けることをいろいろ発信しています。まだまだ、うまく運営できていませんが...。

例えば、コマ撮りに関するアイデアを発散的に書いたり、自分がクリエイターとして活動を続ける上で考えていることをメモしたりしています。

また、コマ撮りアニメーターを育てようということで研修生を3名迎えたんですが、彼らがその日学んだことを日報のように書く場所にもなっています。

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*篠原さんのnoteアカウントでは研修生が参加した動画の情報が発信されています*

ーー篠原さんだけでなく、チームで発信しているんですね。有料コミュニティならではの、読者からの反応はありますか?

篠原:コマ撮りについての質問を投げかけてくれたり、何かを報告したら一緒に喜んでくれるのが印象的です。

大きく変わったこととしては、サークル内のメンバーとのつながりが強くなること。Twitterでフォローしているだけの人よりも、すごく気にかけるようになりました。

まず、サークルに入っていただけたときに通知が届くのですが、それが嬉しくてその方のプロフィールに飛び、Twitterアカウントにも飛んで、その人の投稿を見るようになったりするんです。

ーーこれまでよりも、コアなファンとの距離が近くなっているんですね。サークルのコンテンツは、どれくらいのペースで更新しているんでしょう?

篠原:先ほど話した研修生との日報を除けば、毎日がっつり更新するようなことはしていません。

ただ、数日に一回くらい、そのとき手がけているコマ撮りの裏話など、noteのサークル外では出さないような内容をアップしています。

サークルには大体、コマ撮りをやりたい人が入ってくれるので、研修生に僕が教えたことや、彼らの技術が少しずつ上達していく過程が公開されているのは、求められている内容なんじゃないかと思っています。

しかも、研修生に伝えた内容をそのままコンテンツとして出せるので、更新をそこまで頑張らなくていいのもポイントです。

今後はメンバーともっとコミュニケーションを取れることを企画したいと考えています。

ーー普段の制作をする中での副産物を、うまく発信に活かしているんですね。

篠原:コマ撮りは撮影自体にすごく手間がかかるので、普段の制作に加えて何か新しいコンテンツを発信するとなるととても大変ですからね。

成功だけでなく、失敗も正直に発信する理由

ーーいろいろなサービスを使って分かった、発信する上で大切なことは何かありますか?

篠原:まず、そもそも質が高くて面白いコンテンツを出すのが大前提かなと思います。

それがないと見てもらえないし、できれば有料級のものを無料で出すと、知ってもらえるきっかけになります。

それが達成できた後に、さらに作品を見てもらうだけでなく、クリエイターとして応援してもらうには、一人の人間としての立ち振る舞いが大事だと思います。

ーー立ち振る舞いですか。

篠原:やっぱり、noteで記事を書いたりするときに、正直に書くのが大切だと思います。自分を良く見せようとする嘘をつかないとか、そういう当たり前のことですね。

これはとても勇気の要ることでしたが、僕は何も取り繕わずに本音をたくさん発信してきました。

特に、僕が発信を始めた頃はまだ会社員であり、会社では思っていることをあまり喋らない方だったので、正直に書いた文章を同僚に読まれるのは怖さもあったんですが、一歩踏み出して発信してみれば、周りの人たちも「面白いね」と言ってくれたんです。

ーー会社の人にも面白がってもらえたんですね。

篠原:周りの人たちに聞いてみると、僕が本音を楽しんで書いているのが伝わるらしいです。

あとは成功だけじゃなく、失敗も正直に書いていました。この間も、noteのサークルでの限定公開なんですけど、動画制作の失敗について書いたんです。

何を失敗したかというと、効果音を初めて外注してみて、ものすごくぴったりな音を作ってくれたにもかかわらず、自分が編集をミスしてしまい、動画を公開した後に音がズレていることに気づいたんです。

音を作ってくれた方にも申し訳ないことをしてしまったわけですが、そのことをあえて書きました。

そういった失敗を隠さず表に出すと、読んでくださった方も「こういう姿勢で作っているんだな」と知ってくれます。

ーーそういう姿勢を見られている感覚があるんですか?

篠原:有料コミュニティでの発信をする前から、何かが起きたときにどういう対応をするのかといったことを見られている感覚がありますね。

作品だけじゃなくて人として応援してもらうには、やっぱりそういった人間性や姿勢を表に出した方が良くて、そういう意味で動画だけでなく文章での発信もやって良かったなと思っています。

ーーありがとうございます。最後に、今後はどのような発信を予定されているか教えてください。

篠原:コマ撮りアニメーターを続ける上で、いずれ二次創作やクライアントワークではない、キャラクターやストーリーを一から考えたオリジナル作品を発表したいです。

自分の作品であれば、権利の制限に縛られずメイキング映像なども自由に公開できるようになるので、どんどん発信していけるといいなと思います。

そうやって、応援してくれる方々に制作過程を見てもらいながら、自分の人生を代表できるような作品を発表できると嬉しいです。

*篠原さんが個人で手がけたアニメーションは、メイキング映像も積極的に公開されています*

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フィギュアのコマ撮りアニメーションを発信するチャンネル「Animist」はこちら。
https://www.youtube.com/channel/UCweDxCT5Fiykk3uHqPKqLWg

篠原健太さんが記事の発信やサークル運営をしているnoteアカウントはこちらから。
https://note.com/kentanima/circle

運営:アル株式会社

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