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「3人のキュレーション『美術の未来』」について

 渋谷ヒカリエで開催中の「3人のキュレーション『美術の未来』」展を鑑賞し、3人のキュレーターの方々のトークセッションに参加した。本展覧会は「ヒカリエコンテンポラリーアートアイシリーズ」の第15回として開催され、アーティスト/美術批評家の石川卓磨さん、美術評論家の中尾拓哉さん、インディペンデントキュレーターの水田紗弥子さんの3人がそれぞれアーティストを選び、3つに区切ったスペースで展示を行う、という企画。実は石川さんは、私が武蔵野美術大学大学院に在学していた時、最も心に残った授業の講師をされ、水田さんには現在、キュレーションについての教えを乞うている。お世話になっているお二人が「共演」される奇縁に、思わず駆け付けた。ここでは、トークセッションの内容を通じた感想を主に紹介したい。

 セッションの司会は、本展覧会のプロデューサーである小山登美夫さん(小山登美夫ギャラリー)が務め、3人の方々に問いを投げかけた。

   最初の問いは、本展覧会のテーマとなった「美術の未来=美術が、どうジャンルとして継続して行くか」に対してどのような展示の意図があったのか?これに対して水田さんは、「作家がどう制作を継続させるのか」を、まるでアトリエに鑑賞者が訪れるような体験を提供することで明らかにする、という意図を説明。次いで中尾さんは、マルセル・デュシャン研究を通じた知見を活かし、2人の作家の対決と調和をレディメイド方式のインスタレーションで空間演出するという意図を紹介した。そして石川さんは、若い作家というお題だからこそ、あえて年齢に関係なく「知る人ぞ知る」作家(伊部年彦)を起用し、絵画らしい絵画を展示することで、鑑賞者が作品と向き合う意図を明らかにした。

   展示とディスカッションを通じて思い浮かんだキーワードは「リンク」。バックグラウンドの異なる3人のキュレーターの視点がリンク(相互作用)し、3つの異なる空間のリンク(化学反応)が生まれていた。そして、石川さんが意図した世代間のリンク。トークセッションに観客として参加していた中尾さんパートの作家・長田奈緒さんの「伊部さんの作品に出合ったことで、自分のこれからの作家人生の目標が見つかった」という言葉が強く印象に残った。世代間が分断する今の状況に一石を投じるものだ、と感じたからだ。

   だが、何よりも印象に残ったのが小山さんの自由な司会ぶりだった。日本のアート界をつくった立役者の一人だと後から聞かされたが、あの筋書きのない進行の仕方に小山さんの深い意図があったのだろうか。

  セッションの最後では、私から「3人の方々が作家とコミュニケーションするに際して心掛けられたことは何か」という質問をさせて頂いた。中尾さんは俯瞰的な視点で関わり、水田さんは「裏方として」支え、石川さんは同じ作家としてのコミュニケーションを行ったと回答され、ここにもバックグラウンドの違いが明らかになったように感じた。
 
   展示自体は、私にとっては理解が難しかったというのが正直なところだ。しかし、会場で頂戴したステートメントを改めて自宅で読み込むことで、わずかながら理解が進んだような気がする。果たして「美術の未来」とは何なのだろう。あの空間から美術の未来をつくる新たな「リンク」が生まれるのだろうか・・。小山さんがしきりに仰っていた「どんどん展覧会をやってください」という言葉が、若い世代へのエールでもあり、我々鑑賞者への何らかの問いかけのようにも受け取られた。

#アート #ヒカリエ #美術

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