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私が観た「あやしい絵展」

 去る4月10日(土)東京国立近代美術館で開催中の「あやしい絵展」を鑑賞。幕末から大正期という、日本が開国すると共に西洋文化が押し寄せ、同時に数々の戦争を通じて世界の舞台に躍り出るなど、大きな変化が起こった時代の空気を反映して生み出された数々の絵画作品を紹介するという企画。欲望、愛と苦悩、神話、異界、表面的な美への抵抗、狂気といったキーワードで会場と展示作品が構成されている。

 ここで「あやしい」とは、「キレイ」「見ていて心地よい」とは異なる「神秘的で不可思議、奇怪な様子」いわゆるグロテスク、エロティック、退廃的、ミステリアス・・・などを指すと定義されている。

 時代が混沌とした時、「エログロナンセンス」なカルチャーが生まれるのはなぜだろうか。
本展覧会が対象とした以前の文化文政時代、以後の戦争直後にも同様の現象が起こっている。旧来の権威や価値観が崩れ混沌とした時、新しい時代を創ろうとする民衆のエネルギーがクリエイティブな作品となって表出するのだろうか・・。

 特徴的なのは大部分の作品が女性を描いていることだ。これは会場内にも「なぜ『あやしい絵』には女性が多く登場するのか?」というコーナーがわざわざ設けられていることから、意図的だったことがわかる。いくつかの説(運命の女説、文学の影響説、美人画の刷新説など)が紹介されているが、総じて西洋文明など時代の変化を最も体現した女性たちの姿が、画家たちの創造力を刺激したことがうかがえる。

 また、それらの描き手の多くが男性だということも面白い。男性にとって最も身近で謎の多い存在が女性。純真無垢だと思っていた少女が妖婦に変身する物語は、古今東西を問わず脈々と受け継がれている。すべての女性は少女のままに留まるわけではなく、成熟した女性へと成長するのだが、男性の側の、いつまでも無垢な存在でいて欲しいという願望と、あえて惑わされたいという欲望が混在し、かくして「ファムファタール(運命の女、魔性の女)」の物語が生み出されて来た。

 そのような作品群の中で最も強くひきつけられたのは、島成園の「無題」という作品。屏風のような風景画を背にして、着物姿の女性が横座りしている。その顔には痣(あざ)があり、こちらに向けられた視線に吸い込まれるようだ。作者は大正から昭和初期にかけて活躍した女性日本画家で、様々なゴシップや逆風を受けながら女性画家の地位の確立に貢献したとされる。本作品は作者自身がモデルとされており、あえて顔に痣を描き視線を鑑賞者に向けた構図から、置かれた環境の中で生き抜こうとした意志の強さを感じる。
 このように本展覧会は、「女性像」を通して、混沌とした時代の中における男性の価値観と女性自身のそれとを比較できる企画としても興味深く見ることができるのではないだろうか。

※画像は「無題」(島成園作)

#アート #絵画 #キュレーター #展覧会




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