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帰り道の空

駅を降りていつもの部屋まで体を引きずる。

ロータリーに滑り込むバスと行き交う車のタイヤの音はそこかしこで響いていて、放課後のひと時を楽しむ学生たちの声は駅前の通りを転がりながら無邪気に僕の隣を通り過ぎていく。

あの頃とは違う街並みも寂しさを感じるこの季節では無性に懐かしく感じてしまう。

抜け殻のような頭の中に苦い今日が蘇る。

社会なんて大きな舞台に躍り出るのは僕にはまだ早かったのか。そんなことを思い知らされる日々の中では、帰り道のどかな時間が妙に胸に沁みてしまう。

僕はまだ戦っていけるだろうか、そう問いかけながら流れる歩道の模様を目で追っていた。連綿と続くレンガ模様はその先で眩しい茜色に塗りつぶされていた。

ビルの隙間から覗く夕陽は高い空と僕らの暮らしを明るいオレンジで染め上げて、この世界を明日へと導いていた。

「はぁきれいだなぁ」

枯れた花のような首を持ち上げて、見上げた夕焼け空を眺めながら吐息を漏らすように小さく呟く。

そのオレンジは次第に揺れて景色の中に滲んでいった。涙が訳もなくこみ上げてくることを僕は大人になって初めて知る。

子供の頃は分からなかった気持ちの答えは大人の世界に転がっていた。

ごまかすように目をこすって架かる茜を浴びながら青信号の先を行く。下を向く日々は続いてゆくけれど、変わらず心を包むものもある。

この空はいくつも表情を見せながら今日もきれいに輝いて変わらず世界を照らしている。それだけでいいと思えた今の気持ちを大事にしながら

灯り始める街灯の中を進んで、僕はまた明日へと転がっていく。

街の中を行き交う疲れた顔の大人たち、世界はそれで回っていた。


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