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空想コスモトラベル

地球の青さを本当に知っている?
宇宙への旅に出たことがあるわけでもないし、そんなの知らないよ。

そう本当は知らない。でも何故か当たり前のように地球の青さを想像することが出来てしまう。それはきっと映像や画像を見たことがあるせいで、その色をこの目で見たことがあるかのような錯覚に陥ってしまっているからなのだろう。

絵に描いたような田舎の夜はすっかり寝静まり虫の音と葉の音に満たされている。涼しい風が汗ばんだ体をすり抜けて緑の香りを残していく。この空の向こうに打ち上げられて遥か彼方の異空間から眺めたこの星は一体どんな色でどんな輝きをしているのだろうか。「地球は青かった」その青はどんな青?

 見上げた空の向こうには雄大な浪漫が広がってる。灯りのない田舎の夜に控えめに光る月と散りばめられた無数の星粒がゆらゆらと瞬きを繰り返しながら夜の到来を謳歌していた。幻想的な空はいつも僕に不思議な欲望を抱かせる。

今立っているこの大地とあの空をひっくり返して、吸い込まれるように落ちながら燦然と輝く夜の海へドボンと飛び込んでそのまま溶け合うように漂いたい。

そんな想いをぶら下げながらほんの少しだけ身体を弾ませてみたりした。広い田園の暗がりに砂利の擦れる音が転がった。昔から星空を眺めるのは好きだった。綺麗だから、それもそうだけど何より落ち着くことが出来た。地面に寝そべると一面に散りばめられた星空が広がる。自分の身体をあそこまで飛ばすことは出来ないから気持ちだけ、この意識だけを宇宙に巡らせるよう。じっと空を見つめてから目を閉じる。

 音のない空間に砕けた岩石のような塊が無数に漂っている。ふわついた身体は思ったようには進めずに無数の巨大な礫と同様にただ漂うだけだった。四方八方に広がる巨大な闇はこの身体をどこまでも吸い込んでいく穴のようで、奥行きも掴めないから距離感が狂ってしまいそうだった。

そんな暗闇の空間には光を溜め込んだガラス玉のような球体がくっきりと浮かんでいて、特別なエネルギーを秘めた力強い光り方をしていた。中には個性的な形をしたものもあって、人の手で作ったわけでもないも無いのに何故か芸術的と思えてしまう魅力があった。平衡感覚を狂わされて酔いを感じながら流れるように漂っていると赤い染料をこぼしたように広がる光のもやが見えた。それは星にも浸透しているようで輝きそのものが彩られていた。

 周りにも色彩豊かな光のもやが広がっている。幻想的な光の爆発はまるで美しく見えることが定められているかのようで汚い混ざり方をしているものは一つもない。その輝きを持ち帰ることが出来たならと、星雲を抱きかかえる振りをしてみる。そうして捕まえようとした星雲の向こう側に一際輝く光の渦が見えた。銀河だ、と口を動かして見入っていると身体はその渦へと引きつけられていった。

光の絨毯となって眼下に広がった渦は巨大で少しでも近づいてしまえば、もうどこまで広がっているのか分からなくなってしまうほどだった。混ざり込めば身体も一緒に眩く光り出しそうなそんな期待を抱かせるぐらいに輝いた光りの帯が一面を染めていた。その眩しさに思わず目を瞑り瞼の向こうの光が弱まるのを感じてから目を開くと、闇に空いた大きな穴が渦を巻いているのが見えた。音のない世界でもうねりを上げる音が聞こえてくるようだった。

 消滅した恒星が大きいほど巨大になるブラックホールはまるで喪失感が視覚化されているようだった。目には映らない心の穴が地球の外でははっきりと現れている。まるで別次元のような世界でも不思議な繋がりを感じてしまうのは、やはりそれでも一つの同じ空間に存在しているからなのだろう。タユタに広がる暗闇と同じように黒色の渦もまたどこまでも底が見えない。

ぶるっと身体が震えるのと同時に急に体が冷たくなっていくのを感じてどこまでも広がりを見せていた空間も水が引くようにものすごいスピード縮んでゆく。その収縮は体を押しつぶように押し迫り空間の端を捉えられるまでになっていた。

そしてついには体を包み込んで真っ黒となってしまった。目の前にへばりついた暗闇の中で草木のそよぐ音が漂って来たことに驚くのと同時に閉じていた幕も上がっていき、目の前には月の無い輝きを増した星空が降るように広がっていた。僕は銀河の航海を思い出しながら星を線で結んでいく。


※作品のモデル
日食なつこ「環礁宇宙」


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