見えない花

綺麗だねって思いながら水をあげると

立派に育って素敵な花を咲かせるんだよ

いつか聞いたそんな話は

花が「綺麗」に咲くために、生きるための「水」とは別に

見えない栄養を補給するための

「愛情」が必要であることを説いていた

植木鉢からこちらを見上げる蕾の声は聞こえないけれど

これまでのいくつかの別れの中で

心の間にあった見えない花が枯れていく音や

萎んでいく声を何度か聞いてきた

二人で水を注いでていても

そこから「愛情」が抜けてしまえば

いくら水を与えても上手には育たず

次第に萎んで枯れていった

形だけの「水」はどちらかの「愛情」を搾取して

守るべき花をダメにしてしまう

それに気がつくのは決まっていつも終わった時だった

綺麗に咲き誇っている間は見落とすことばかりで

こまめに栄養を注ぐことを忘れていることに

気がつけないまま少しずつ少しずつ

くたびれさせた

大切なことはその意志を試すかのように

いつも見えないところに隠されていて

手にしようと求めなければ

取り零してしまうようなところにあった

ジョウロを片手に持ちながら

なんだか大切なことを思い出したような気がして

半信半疑な気持ちは拭えないままだったけれど

植木鉢の花に「綺麗咲いてね」と小さく呟きながら

そっと水を注ぐ

ベランダをすり抜けて部屋へと吹き込む

軽く乾いた風は

通り過ぎた夏を知らせながら

新しい季節の匂いを乗せていた

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