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文章がへたな私に上司がくれたアドバイス

 「司馬遼太郎を読め」

それが上司からのアドバイスでした。

・・・

「おい、ちょっとこっち来い。おまえの報告書は意味をなしていないんだよ。申請書は何を申請してるのかわからないし。何が言いたいんだ。ええっ?!」

「はい…」

「いっぱしの書き方をしているつもりだろうが、すべて自己流だから冒頭から読みづらい。自分でちゃんと読み返したのか?」

「はい…」

「たまーにだが、おまえでもやけにいいのをあげてくることがある。でもほとんどだめだ。自分でも満足できてないんだろ?」

「はい…」

「たとえばこれ。これはよく書けてるじゃないか。読み返したか?」

「あ、いえ…」

「出来のいい文章は自分にとってのテンプレになるんだ。何度でも再利用しろ」

「はい…」

「おまえ、本読んでるか?」

「はい…、あ、いえ…、最近は仕事ばかりで…」

「まあそれもわかるが…。とにかく、お前の文は構成も悪いし、なによりも文にリズムがない」

「はあ…」

「リズム感のある文章を書くにはカンセキを読むといいのだが…」

「え?カンセキですか」

「漢籍だよ。漢詩でもいい」

「はあ…」(ムリ。要求のレベル、というか次元が違い過ぎる)

「読書時間はとれそうか?」

「はい」

「よし。じゃあ、司馬遼太郎を読め」

・・・

その後上司は、司馬遼太郎さんの『坂の上の雲』をすすめてくれました。

文章の書き方だけでなく、組織人のイロハがまったくわかっていなかった私に、まずこれを読め、と。

読みました。すごくおもしろかった。ドラマにもなった名作ですのでいまさら書くまでもないですが、読み始めた目的なんてすっかり忘れ、私は夢中で読みました。

読後の余韻もさめぬまま、わたしは次に『竜馬がゆく』を手に取りました。それはちがう面白さにあふれていました。魅力的な登場人物に爽快なストーリー。げらげら笑いながら、これも一気に読み終えました。

・・・

「おまえ、読んだな」

数か月後、私の報告書を手に上司が言いました。

私の書く文章は、自分でもはっきりとわかるほど変わっていました。

司馬遼太郎さんの文体はとてもシンプルです。そもそも私ごときがそれを解説するのもおこがましいですが、ひとつあげるならば、場面の切り替えとその伝え方がずばぬけて秀逸です。つまり、読み返すことなくすーっと読み進められるのです。

「申請書や報告書というものは、読む者に読み返させてはいけないんだ。上から下へすーっと読み、最後の数行まで来たら無意識にハンコを朱肉に押し当てている。そうでなければいかん」

「はい」

「これはとてもいい。次回もこれを参考にしろ」

「はい!」

・・・

以上、なつかしい会社員時代を振り返りながら書いてみました。
読んでいただきありがとうございました!


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