いばらの道の「メタバース」、旧フェイスブックの勝算(日経ビジネスより)
スティーブン・スピルバーグ監督のレディ・プレイヤーを観た時に、「ああ、メタバースの世界ってこんな感じになるんだ」とすごく良く理解できた。高額なスーツを購入することで体感もリアルになるし。メタバース上の自分と現実の自分とのギャップもよく分かった。締めくくりには、リアルの世界でしかできないことがあるって完結しているので、そこもまた魅力。
2018年の映画だから…コロナ禍とは関係のないところで作られていたと思うと本当にすごいな、と。で、この記事に続きます。
10月28日(米国時間)に「メタ・プラットフォームズ(メタ)」への社名変更を発表した米フェイスブック。主力事業であるSNS(交流サイト)の名称を外す決断は驚きをもって受け止められた。元社員の告発などで高まる企業体質や管理体制の不備への批判をかわす狙いもあるとみられるが、長年にわたってVR(仮想現実)やAR(拡張現実)の事業に挑んできた歴史からすれば「既定路線」とも言える。ただし、その道のりは平たんではなさそうだ。
「フェイスブックファーストではなくメタバースファーストになる」
マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は、メタへの社名変更を発表したオンラインイベントでこう語った。「メタバース」とは、娯楽や仕事、交流などが可能な仮想空間のこと。「超越」を意味するメタ(meta)と「宇宙」を意味するユニバース(universe)を合わせた造語だ。ザッカーバーグCEOは「人々をつなぐのが我々のDNA」と述べ、現在のSNSの事業とメタバースの事業は同じ目的の上に成り立っていると説明した。
旧フェイスブックがメタバース関連で最初に目立った動きを見せたのは2014年。VRゴーグルを手掛ける米オキュラスVRを20億ドルで買収した。16年にはオキュラスの最初の製品「リフト」を発売した。その年はソニーグループがVRゴーグル「プレイステーションVR」を投入するなどVR関連の新製品が相次いだことから「VR元年」とも呼ばれた。ところが、VR関連の企業が期待したほど市場は成長しなかった。
潮目が変わったのは20年だ。コロナ禍でリモートワークが広がったことや、ゲームなど巣ごもり消費が拡大したことにより、再びVRが注目されたのだ。旧フェイスブックが20年10月に発売したVRゴーグル「クエスト2」は、半年ほどで500万台程度を出荷するヒット商品となった。パソコンと接続せずに利用できる手軽さと、前世代機から価格を100ドルほど下げて299ドルにしたことが消費者に評価された。
ハードの充実を図る一方で、メタバース関連のソフトやサービスを手掛ける企業も取り込んできた。VRリズムゲーム「ビートセイバー」を生み出したチェコのビートゲームズ、VRバトルロイヤルゲーム「ポピュレーション:ワン」を開発した米ビッグボックスVRなどを買収。メタへの社名変更を発表した翌日にも、VRフィットネスゲーム「スーパーナチュラル」を手掛ける米ウィズインを買収すると発表した。
旧フェイスブックが取り組んできたのは、単にVRで楽しむゲームなどのコンテンツを増やすことだけではない。友人同士で楽しむためのコミュニケーション機能も強化してきた。21年8月には、VRゴーグルを装着してアバター(分身)でオンライン会議に参加できる「ホライゾン・ワークルーム」を発表した。仮想空間に飛び込んだように感じられる体験だけでなく、その仮想空間に入った別のユーザーとのコミュニケーションもできるようにすることで、「VR」から「メタバース」へと進化させてきたわけだ。
強い競合ひしめくメタバース
ただし、メタバースに注目するのはもちろんメタだけではない。各分野の有力企業が様々な方向からメタバースへの取り組みを本格化させている。
例えばエンターテインメント分野では、ソニーグループが22年の発売に向けてプレイステーションVRの新型機を準備中だ。ソニーグループが出資する米エピックゲームズの人気ゲーム「フォートナイト」は、ゲーム空間内でコンサートが開催されるなど、ゲームの枠を超えてメタバースの有力候補となりつつある。
位置情報を活用したスマホゲーム「ポケモンGO」で知られる米ナイアンティックもメタバース事業の本格展開に乗り出した。「リアルワールド・メタバース」と銘打ち、ARを活用したメタバースを構築しようとしている。半導体大手の米クアルコムとメガネ型端末の共同開発を進めている。
さらに、ビジネス分野の競争も激しい。米マイクロソフトは21年11月、複数のユーザーが遠隔地から仮想空間上での会議に参加できるサービスを発表した。オンライン会議やチャットができる「チームズ」に、仮想空間構築プラットフォームの「メッシュ」を組み合わせたもので、22年前半にプレビュー版の提供を始める。
エヌビディアは企業向けサービスを開始
半導体大手の米エヌビディアもメタバースに力を入れる1社だ。仮想空間内で共同作業を行うためのプラットフォーム「オムニバース」の企業向け提供を21年11月に開始。ジェンスン・ファンCEOは「新しい仮想世界は現実世界よりもはるかに大きくなる」と将来像を描く。
その用途は、ロボットや自動車などのシミュレーション、仮想空間内での人や人工知能(AI)とのコミュニケーションなど幅広い。20年12月にベータ版の提供を始めてから、既に7万人以上、700社以上が利用しているという。画像処理半導体(GPU)やその半導体を搭載したコンピューターで成長してきたエヌビディアは、メタバースを構築する基盤を提供するサービスの会社になろうとしているとみられる。
こうしたライバルを相手に、メタはどう戦っていくのか。志向するのは「アップル流」だ。多数のユーザーが利用する「iPhone」のようなハードと、そのハードにソフトやサービスを提供するための基盤の両方を手掛ける存在になろうとしているわけだ。アップルによるプライバシー保護の強化策で広告事業に打撃を受けたメタにとって、サービスの端から端まで自らコントロールできるようになるのは悲願だ。
そのためにも、メタはVRゴーグルの分野でiPhoneのような競争力を持つことが欠かせない。1000万台、1億台といった出荷台数に達してこそ、メタバースのプラットフォームとしての価値が高まっていくからだ。年間約2億台を出荷するアップルのiPhoneとの差はまだまだ大きい。オキュラスの買収から7年。メタバースをスマホの次のプラットフォームに育て、そこで覇権を握るという挑戦では、しばらく苦闘が続きそうだ。
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