見出し画像

最近流行(?)している「変人採用」について考えたこと

こんにちは。学部長の谷村です。

「変人採用」と聞くとどのような印象を持たれるだろうか?
「凡人と同調圧力の象徴のような”企業”が本当に変人を採用するの?」と疑ってしまったのが私の第一印象だった。

就活生時代に、変人について考えるサークルをしていると話したところ、とある企業から「弊社は変人採用をやっているのでぜひ詳しくお話を伺いたい」とお声がけいただいたことをきっかけに、「変人採用」なるものの存在を知った。

調べてみると、「変人採用」を掲げている企業は意外にも複数存在する。
まず検索してはじめに出てくるのはJTの変人採用だろう。本まで出版されており(『JTの変人採用』米田靖之著)、JTの変人採用の歴史は長い。この取り組みは、前述の本の著者である米田さんが人事となった1987年頃からスタートし、徐々に確立していったものだという。

JTでは「変な人(=おもしろい部分がある人)」と定義されている。ほかの人と違う視点で物事を捉え、行動できる人とも説明されている。そして、奇言・奇行の目立つ異質な存在としての変人と明確に区別している。

音楽系事業会社であるソニー・ミュージックエンタテインメントも「未来を変えるのは変人だ」とのキャッチコピーで変人採用を打ち出している。また、朝日新聞社が100%出資しており、コンテンツマーケティング事業などを手掛けるサムライトもイノベーションを起こす人材の採用を目指して「変人採用」を打ち出しており、エントリー時に変人エピソードを提出することを求めている。

これらの事例をみて感じたことは、変人採用を行う企業にとって、「変人」が「常識を疑い、変革やイノベーションを起こすポテンシャルを持つ人材」と捉えられているということだ。

高度経済成長期を筆頭に、世の中に明確な目標や正解があり、そこにむかって一心不乱に進んでいけば成功できた時代においては、決められたことを着実にこなす優秀さや処理能力の高さなどが求められており、教育においてもそのような人材を育成し、企業においてもそのような人材を評価し採用してきた。

だが、失われた20年という経済状況。急速に進むグローバル化や少子高齢化など課題山積の日本社会において、これまでのやり方だとこの激動の時代を生き抜くことはできず、イノベーションの必要性が叫ばれて久しい。そんな中で、これまでの「優秀」とは違い、イノベーションを起こすことができる人材を各社がこぞって求めている。

既存の価値観を疑う力とか、自ら課題を設定し行動できる力とか、学習指導要領を見ても、企業の募集要項を見ても、似たような言葉が並んでいる。それらを体現する人材は、前時代の人々にとっては往々にして少数で異質な存在に映るだろう。その側面を「変人」と表現しているのではないだろうか。

一方で、物心ついた時からそのような力を身につけることを推奨され、総合学習やアクティブラーニングに取り組み、就活生となったら耳にたこができるほど企業説明会でそのような求める人物像を聞かされたいまの20代前半くらいの世代にとっては、「変人」という異質な存在というよりは、新しい時代の「優秀」な人材像が提示されているに過ぎないと感じているのではないだろうか。

また、「変人」が「イノベーションを起こすポテンシャルを持っているのか」についてはより議論が必要だと思う。ここで出てくる変人像は、あくまで現在の企業に都合のいい変人でしかなく、変人の一側面しかみていないような印象を受けるのだ。変人は、企業のイノベーションのために存在しているわけでは決してなく、その人個人の生き様に過ぎない。

その点、最も共感できた「変人採用」の例は面白法人カヤックのものだった。2008年11月に「変人採用」を実施したものの、「変人の定義があいまいで応募者と採用側のミスマッチが多かった」という理由で中止になっている。私は変人の本質に正面から向き合っているという印象を受けた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?