飛行機の中で観た映画

「ザリガニの鳴くところ」
 タイトルが変わっていて惹かれたけど、勘は当たっていた。
 舞台は69年のアメリカ・湿地帯の広がる(初めて知った!)ノースカロライナ。その一角で死体が見つかったところから物語はまた一気に10年前の過去へ。湿地の側に暮らす少女はまるでオオカミ少女のように家族から捨てられ、自然だけが家族で、友人だった。びっくりするような設定だけど、当時のアメリカならあり得たことなんだろうか。
 その少女の成長と恋愛。まるでいっとき流行った少女小説のようなあらすじ。けれど忘れてはならない、この物語は2021年に本屋大賞翻訳小説部門第1位を獲ったミステリーだったということ。どんでん返しの鮮やかだったこと。
 映画はラブシーン多いのにはちょっと辟易。でも男性の性格ってやっぱりどういうセックスをするかに出るよな、と思ったので必要なシーンかもと思った。すべての女性に観てほしい。

「怪物」(※やや核心部に触れています)
 LGBTの決めつけのようなことを監督が言及したことで一時炎上した時は未見だったけれど、実際に観るとなんにしろそれを思春期の揺れだと決めつけるのですら烏滸がましいと思った。言うなれば『風の木の詩』のようなBL的視点(主人公か相手は大体ノンケ=ストレートであり、たまたま好きになったのが…)で観るべき作品だろう。そうでなければ、第三部(この映画は三つの視点の物語が同時ではなく視点別で語り直される)の断絶したラストシーン、あの二人の駆けていく姿の尊さが言えないのでは。

「マイ・エレメント」
 予告では人間の性格別(星座にも風水火土のグループがある)の相性の話かと思っていたけど、実際には人種がテーマになっていた。これはどういう意味を持つのかな。
 街はどう見てもニューヨークが舞台ぽいしカッとなりやすい火人間のヒロインは、どうやらアジア、それもイスラム圏の出身だろうと段々推察される。それ対して水人間の男の子は欧米白人がイメージになっている。ただし、驚くほど泣き虫で、マッチョイズムから抜け出しているのが特筆すべきところ。イスラム=火でヨーロッパ=水なんてイメージの植え付けはどうかなと思う。たぶんアフリカ系=木で、南米系=風なんだろうな〜。血液型もだけど、人間を4種類だけに分けるなんてやっぱりナンセンスだってこと、このアニメ観た子どもたちはいつか気づけるかな。

「フローラとマックス」
 ダブリンが舞台で、シンママと反抗期の息子が音楽を通じて交流を取り戻す。「ワンス」も同様のダブリンの音楽映画だったな、と思ったらやっぱり同じジョン・カーニー監督。
 アラサーヒロインのダメさを出すのにクラブで踊って、そこで自分が気に入った男は落とせずにしつこく絡んできた男を持ち帰って(持ち帰られるのではなく)しまうのはまあわかるけど、ダンスシーン長すぎたかな。コミュ障っぽいけど仲間とつるまずに万引を繰り返す非行息子のキャラ造形も、ちょっといまいち。ニートという語を作り出したのはイギリスだったけど、アイルランドには「引きこもり」という現象は起こらないんだろうか?という疑問が湧いた。
 地球の裏側に住むギター講師とオンラインを通じていい感じになったまま最後は息子ともベーシストの元夫ともバンドを組んで、現代のお伽話的に終わった。


「You hurt my feelings」
 説明するのが難しい筋の映画。ただテーマは【他人からの評価】っていうすごくわかりやすい、日本でも共感できるものだった。邦題が付いてないということは日本では未公開? 「あなたは私を傷つけた」は直訳すぎるから、もし付けるなら…「そんなこと、言われたくなかった」みたいな感じだろうか。(観てないけど「そんな彼なら捨てちゃえば?」は秀逸な訳だよな〜)
 主人公夫婦が20年経ってもずっとラブラブなのは、お互いに小さな不満を相手を傷つけるからと思って隠していたからだけど、それだからこそ一面が露呈した時にはすべてが砂上の楼閣として崩れてしまう。どうやって信頼関係を修復するのか、そこが気になって観ていける。「あなたを愛してるのであって、作品を愛してるわけじゃない」これがいちばんのキーワードだった。本音は出してもいいけど、それをどうやんわりと伝えていけるかなんだな。

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