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ミャンマーの地勢と民族と政体    多民族がひとつの国に纏まるということ

今回の話題をざっくりまとめると。
・ミャンマーでは民族の居住地が平原と山岳地帯に分かれていて、行政区分にも反映されている。平原は主にビルマ族(とインド系および中国系)、山岳地帯は少数民族が居住している。
・少数民族は独立を望んで反乱を起こしているが、それを軍事力で押さえてきたのが国軍。
・国軍は独裁政治を行っている。自分たちに反対するものを敵とみなすので、少数民族だけでなく民主主義者も敵として弾圧する。
・国民は一度民主主義政権下で自由を知ってしまい、世界の情報に触れることができたので、国軍の独裁政治を認めることはできない。

話す人:(T)チョウチョウソーさん
ミャンマーのヤンゴン出身 日本に難民として来日、現在は高田馬場でミャンマーレストラン「ルビー」を経営。NHK海外放送キャスター、在日ミャンマー人支援、大学教授と一緒に学生の社会活動協力、など多方面で活動
聞き手:(Y)山下 crafts of myanmar noteの管理人

(Y)今回はミャンマーの国内の地勢と民族と国政について教えていただきたいと思います。すこしセンシティブな話題も教えて頂くことになると思いますが、よろしくお願いします。

(T)はい了解です。

管区と州

ミャンマーの行政区分

(Y)まず地図で国内の行政区分をみると管区と州に分かれています。この違いは何ですか。
 
(T)管区は主にビルマ族(とインド系および中国系)が多く住んでいる地域、州は主に少数民族が住んでいる地域です。
 
(Y)先回のお話で、ビルマ族は中央の平原に、少数民族は周辺の山岳地域に住んでいることが分かりました.

それで中心部の平原地帯が管区、周辺の山岳地帯が州、州には民族の名前がついているんですね。民族の居住地が行政区分にも反映されていると分かりました。
 
(T)州はそこに住んでいる民族によって州ごとにいろいろな特徴があります。ただし州が少数民族による自治ということではないのです。あくまでも行政区分の名前です。
 
(Y)そうすると管区と州の間でいろいろ問題が生れそうですね。ミャンマーには135もの民族がいます。少数民族の人たちは自分達で独立したいのではないですか。どこの国でも民族独立運動があります。
 
(T)そのとおり独立したい。ここがミャンマーの今の国の状況につながっています。
 
(Y)それは2年前2021年の軍のクーデタ―と現在の国軍による独裁政治の事ですか。

 第二次世界大戦後
(T)それ以前から続く問題です。まず第二次世界大戦後の国政から話しましょう。
戦争が終わってそれまで駐留していた日本軍が居なくなり、ミャンマーは一旦イギリスの支配下に戻りましたがその後すぐに独立を勝ち取りました。その時の主導者がアウンサン将軍、今回のクーデターで拘束されてしまったアウンサンスーチー国家顧問のお父さんです。でもアウンサン将軍は独立する前に暗殺されてしまいました。その後自由主義国家になったのですが国は安定せず結局軍隊がクーデターを起こして独裁政権になりました。
 
(Y)クーデターはいつの事ですか
 
(T)1962年です。
 
(Y)そのときクーデターを起こしたのは、今から二年前にクーデターを起こしたのと同じ国軍ですか
 
(T)そうです。今独裁制を敷いている国軍です。クーデターを起こした1962年からずっと国軍が独裁政治を続けました。それでも2011年に国軍は一旦独裁制から手を引いて民主主義政治になったのですが、結局10年後の2021年に国軍はクーデターを起こして国の体制を力づくで独裁制に戻してしまった。そのときの国民の反クーデター運動と国軍の弾圧は世界中の関心をひきましたね。
 
(Y)そうすると、1962年から今に至るまで、途中10年を除いて国軍が独裁政治をおこなっている。
 
(T)そういうことです。

国軍と少数民族と民主主義者
(Y)国軍はビルマ族が中心になった軍隊ですね。独裁政治に対して周辺の少数民族はどうしていたんでしょうか。
 
(T)そこです。そもそも国軍が外国と戦ったのは一度だけ。中国国民党の一部が中国から侵入した時に戦いました。そのあとは外国勢力と戦ったことはありません。
では何をしてきたかというと、国内の少数民族と戦ってきました。
少数民族が独立してしまうと国が解体してしまうので国軍が武力で抑えてきました。
 
(Y)なるほど、中央の平地の国軍と周辺の山岳地帯の少数民族の戦いですね。中央の管区と周辺の州との戦いとも言えますね。
平地の軍隊が山岳地帯の反乱を押さえて国の秩序を維持してきたということですか。
 
(T)そうでもないのです。国軍は平地のビルマ族を代表しているわけでは無いのです。国の内部の反乱を押さえて国を混乱から守ってきたというのが国軍の主張ですし自尊心です。そうすると民主主義者もまた国軍が守ってきた独裁政権の秩序を乱す反乱勢力ということになりますから、ビルマ族であっても国軍はミャンマー人の民主主義者を弾圧してきました。
 
(Y)つまり独裁政権を維持しつつ、少数民族であれ民主主義者であれ自分たちに逆らう自国の国民を敵としてきた。
それって民主主義で文民統治の今の日本から見ると、何なんでしょうか。
 
(T)ミャンマーの国軍は国民に主権の有る民主主義国家の軍隊とは違うのです。自分たちが国の中心なんです。議会で認められた国家予算で政府の下で活動しているのではなくて、自分たちで直接企業活動をして利益を得て税金も集めて、自分たちで使いみちを考えて自分たちの造ったルールで活動しています。
 
(Y)ミャンマーに旅行した時、国軍はヤンゴン市内に広大な土地を持って宿舎もそこにあって塀をめぐらした中で暮らして、自分たちを一般市民から隔離しているのが異様な感じでした。
国軍の人たちはだれも皆そんな風に考えているのでしょうか。
 
(T)国軍の軍人もいろいろです。自らの権力欲や利益を優先する人、そうでは無くて純粋に国を混乱から守っていると思って行動している人、隔離された環境で軍隊の事しか分からずただ上官の言うなりになっている人。国軍の中も情報統制がされていて、一部の人を除くと接する情報が偏っている、だから厄介なんですね。

 情報
(Y)チョーチョーソーさんは平地のヤンゴン出身のビルマ族です。国に居た時に山岳地帯の少数民族の事はどう思っていたんですか。
 
(T)高校まで良く分かりませんでした。国軍が情報を統制していたので知ることができない。そして国軍と一般の人たちの間に直接接触は無いので何がどうなっているかよけい分かりません。
この前の民主政権下で国民は情報統制が無くなって国内の情報にも世界中の情報にも直接接するようになりました。海外に出て働く人も大勢います。国内の隔離された集団しか知らない人と多くの情報に接する人の、そのギャップは大きいです。
 
(Y)この前の民主政権というのは2011年から2021年までのアウンサンスーチー氏を中心とした民主主義政権のことですね。
当時は世界中から投資が行われ、日本からも多くの企業や人がビジネスを始めようと訪れていました。私はそのまま急速な経済発展が続くと思っていました。でもそれはほんのひと時の特別な状態だったのでしょうか。

それでも国民は自由を知ってしまったし世界の情報に触れていろいろな知識を得、いろいろな可能性があることも知ってしまった。今この日本でも多くのミャンマー人が様々な立場で学び働いていらっしゃる。もう民主化以前の世界から孤立した国民に戻ることはできないわけですね。
 
(T)そうですね。ただ今日お話したことは私の考えです。立場が違えば違う考え方があります。違う物の見方や考え方を知ることがとても大切です。ミャンマーの今についての情報はネットに沢山あります。ぜひいろいろ調べてみてください。
 
(Y)調べてみたいと思います。世界では今いろいろなことが急速に起きていますが、ミャンマーはその縮図のようにも思えます。
そして、また違う立場の人の意見も聴いてみたいと思います。ありがとうございました。
 
(T)ありがとうございました。