詩21『初めのひとくち』

「食べちゃいたいくらい大好きだよ」
わたしの髪を撫でて
四度、五度、あなたが漏らしたこと。

そして、

やさしいあなたが珍しく、
わたしに、初めのひとくちをくれなかったものについて。

まだ夏の若いうちに
丸々とした白桃とともに、 病室のわたしを訪ねてきた日。

あなたはするすると、皮を剥いて
ぽくぽくと、実を、その身を切って
病室と同じ白色のお皿に、飾った。

あなたの眼は、桃の身を撫でて
顏の光は、裸の果実にすべて注がれた

おとなしい桃、あなたは一刺しにしてかぶりついた
それは一瞬のできごと

「やっぱり甘いなあ」
それはあなたのための言葉

ああ、白桃の生ぬるい匂い。
夜毎の咳よりも荒く、高く、わたしの胸をかき混ぜた

やさしいあなたが珍しく、
わたしに、初めのひとくちをくれなかったもの

わたしの空っぽの肺に侵入した、よろこび。


[今日のおはなし]

寒いけれど、まだ、息は白くなりません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?